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ジェルネイルが新型コロナの医療現場を混乱させるわけ

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
可愛いネイルが、奮闘する医療従事者に余計な作業を発生させる原因にも(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 在宅ワークでZOOMをはじめとしたオンラインミーティングをする機会が増えている。これに伴い、「トップスだけはキレイめのものを着よう」とか、「楽ちんなオシャレスウェット」などのニーズが高まってきている。

 マスク姿でも映えるように、アイメイクや前髪盛りヘア、さらには、ネイルなど、おしゃれを楽しみ、かつ、自身の気分をアゲようとする人々も増えてる。ネイルサロンに通えないため、自宅でセルフネイルをしたり、それをSNSに投稿する人も多い。

 けれども、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、そのネイルが邪魔になってしまうケースがあるという。ファッション・ビューティジャーナリストの松田アヤノさんは、こう警鐘を鳴らす。

「今、新型コロナの医療現場で、ネイルが問題になっています。ジェルネイルやマニキュアをしていると、パルスオキシメーターで酸素飽和度を正確に測ることができないんです。

感知が弱まるということはもちろんのこと、ジェルやマニキュアの中には、金属系顔料を使用しているものも多くありますし、特にデコレーションやラメなどにも金属が含まれているものが多いので、誤作動してしまうんです。

多忙を極める医療現場で、看護師さんたちがネイルを外すために手間や時間をかけなければならず、かなりの負担になってしまっています。本人や他の患者が一刻を争うときには、なおさら問題になります。

自分もネイル好きで、ネイルを楽しむことはとても良いことだと思っています。ですが、今は、体調が悪くなり病院を受診する際には、ネイルをオフしておくとか、せっかく自宅にいる時間が長いので、しっかり素の爪や手肌をケアするのも良いのではないでしょうか。

また、ネイリストには国家資格がないこともあり、酸素飽和度を測るメーターにネイルは厳禁ということを知らない方々が多いのが現実です。こういうリスクもあることを顧客にお伝えする真摯な態度が、かえってネイルのイメージを上げることにもつながるでしょう。利益優先になりがちなのも理解はできますが、今この事態では安全や他者への思いやりがあってこそ、真のビューティの体現者だと思います。ようやく、大手メーカーなどが、情報を共有するために動き出してくれていますが、周知徹底が求められます」。

 と、医療崩壊寸前の現場からの声なき声をすくい上げ、代弁している。

 かつてネイリストの育成に務め、今でも女優や著名人などを手がけるパーソナルネイリストの女性も、こう訴える。

「以前、病院から呼ばれて、病室にネイルをオフしに行ったことがあります。でも、今コロナの陽性者に対しては、施術をすることができません。

ネイリストさんにお願いです。自分が施術したお客さまには、オフの方法を教えたり、オフセットの販売をするなどの方法を考えて、#コロナネイル対策をしてください」。

 自身の体調と相談しながら、いざというときには自分でオフできるような準備をしておくことが、自分のためにも、日々奮闘する医療従事者の仕事を軽減することにもつながることを認識すべきだ。そして、平時が戻った際には、思い切りファッションもネイルもオシャレを楽しんでほしい。その日が一日も早く戻ってくるのが待ち望まれる。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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