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【宝塚市】圧倒的大きさにわんぱく心をくすぐられる。宝塚出身の建築家 宮本佳明展

ぶらっと地域情報発信ライター(宝塚市)

ものすごく大きな部屋の壁や床から、建物が生えていたらどうしますか。今回ご紹介するのは、大人のわんぱく心をくすぐるユニークな展覧会。圧倒的な物量の向こうに見えるリアルとは? 

文化芸術センター館長・加藤義夫氏(左)と宮本佳明氏
文化芸術センター館長・加藤義夫氏(左)と宮本佳明氏

文化芸術センター初めての試み

宝塚市立文化芸術センター主催の、宝塚ゆかりのアーティストを紹介する『Made in Takarazuka』シリーズ。その第4弾として、宝塚を拠点に国内外で活躍する建築家・宮本佳明(みやもとかつひろ)氏の展覧会が開催中てす。

メインギャラリーの仕切りをすべて取り払ってワンフロアに
メインギャラリーの仕切りをすべて取り払ってワンフロアに

2階メインギャラリーの仕切りすべてを取り払うという初めての試みで、宮本氏の代表作10作品の「原寸大」建築模型(モックアップ)を、壁や床からレリーフのように浮かび上がらせる大胆な展示です。目に見えるのは建物のごく一部で、それ以外は鑑賞者の想像にゆだねるという遊び心溢れるもの。「入るかな? はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地」とタイトルも愉快です。

建築の専門家でない人に見てもらいたい

今回の展示は、建築としてだけでなくアートとしても楽しんでもらいたい、と宮本氏。確かに造形の面白さと自由なラインはアートとしての鑑賞に堪える美しさです。
地面に置かれた鉄枠だけだと、ずいぶん小さな建物に思いますが、実はそう感じるのもよくあることなのだそう。それでも鉄枠を越えて中に入ると、よその家にお邪魔した気分になるから不思議です。

美容室の間仕切壁を再現
美容室の間仕切壁を再現

巨大な建造物も出発点は建築家の頭の中。そこからどのような過程を経ていくのかがわかる「スタディ模型」の展示もあります。

建築を上から覗く
建築を上から覗く

専用住居『SHIP』
専用住居『SHIP』

実物を見るチャンスがあるゼンカイハウス

数年前にその存在を知り、木造長屋の真ん中を鉄骨が通るという光景に度肝を抜かれたゼンカイハウス。今回楽しみにしていた展示のひとつです。

英語での展示名は”House Surgery”
英語での展示名は”House Surgery”

阪神大震災当時、全壊判定を受けた自宅長屋を修復したもので、現在は宮本氏の設計事務所になっています。文化芸術センターから徒歩約10分の距離にあることから、会期中、特別に一般公開されていて、唯一、実際の建物を体感できます。

動画で内部を公開中
動画で内部を公開中

原寸模型だけでなくスタディ模型や工事中の写真も展示され、修復過程が詳しく見られるのも嬉しいですね。

屋根瓦をぶち抜く鉄骨
屋根瓦をぶち抜く鉄骨

震災当時、全壊判定を受けた家は多かったと記憶しています。近隣に多くの仮設住宅が立ち並び、無味乾燥な建物に暮らす方たちを想像するだけで気が滅入ったことも。

一体どうやったら木の枠組みの真ん中に鉄骨が入るのか
一体どうやったら木の枠組みの真ん中に鉄骨が入るのか

これが家の中にあります
これが家の中にあります

専門的なことはともかく、素人目には力業としか思えない、この修復の原動力となったものが気になってしかたありませんでした。

当時の写真も展示中
当時の写真も展示中

絆創膏のような外枠と家の中をためらいなく突っ切るパイプに、被災された方たちのリアルが掬い取られている気がして、とても好きな建物です。

全壊だと思わなかった

このゼンカイハウスについては、直接お話しをうかがうことができました。宮本氏は軽やかなフットワークと精悍なたたずまいが「現場」を感じさせる方。建築というフィジカルなものに携わる宮本氏のお話しは、常に明快で具体的です。ゼンカイハウスの内側に興味があると言えば、すぐに動画展示へ案内してくださいました。動画に映っているスタッフさんに「おーい」と呼びかけ、振り向かないなと首をかしげるお茶目な一面も。

展示について説明する宮本氏
展示について説明する宮本氏

はじめて存在を知ったときの衝撃を伝えても、「もう見慣れて普通になって、なにも思わないですね」とあっけらかん。修復しようとした理由も「全壊だと思ってない」そして「残したかったから」といたってシンプル。

『gather』絶妙な木の傾き
『gather』絶妙な木の傾き

必要なことを実現するために合理的に練り上げていく姿勢を垣間見た気がしました。圧倒的リアルに住むのが建築家と言えるかもしれません。けれどそうして出来上がった建築物には情緒的な奥行きがあり、設計者の人となりが透けてみえるのが興味深いところです。

くすぐられるわんぱく心

なめらかな曲線に惚れぼれ
なめらかな曲線に惚れぼれ

そもそも人が住まうものである以上、建築物はそれぞれに機能を持っているもの。美しいラインも角度も、すべて計算されています。

美しさには合理的な理由が
美しさには合理的な理由が

けれど、見上げるほど大きな模型たちに囲まれれば、子どものころ、倉庫の屋根にのぼったり、古い校舎を探検したことを思い出します。記憶の蓋が開き、大人のわんぱく心をくすぐられてテンションアップ。会場を歩き回って探検したくなるのです。

現在進行形のコンバージョン

本展会場に隣接する2階ホワイエでは、宮本氏が現在手掛ける「北九州市立埋蔵文化財センター」のコンバージョン(用途転用)について紹介しています。

名建築をコンバージョン
名建築をコンバージョン

こちらは北九州市にある、やはり宝塚になじみ深い村野藤吾氏設計の「八幡市民会館」が、耐震性が足りずに取り壊しが検討されていたのを、その原因である劇場の空間を諦め構造体を追加することで新たな用途を創出し、建物を存続させるプロジェクトです。

Made in ダンボール
Made in ダンボール

建物が老朽化で取り壊されるというのはよく聞く話ですが、ダンボールで作られた模型を見るだけでも美しいこの見事な建築が、次世代に引き継がれていくのは胸が弾みます。

はみ出ちゃったその先

はみ出ちゃったその先を展示
はみ出ちゃったその先を展示

ホワイエには、建物全体を追加した模型も展示されていました。答え合わせみたいで面白いですね。

はみ出た先にあるのはやはり人の息吹。時に信仰の対象であり、生き抜く支えであったり。人の暮らしと密接にかかわる、大きな器としての建築物への認識を新たにした展覧会でした。

絶妙な配置を愛でたくなる鉄骨たち
絶妙な配置を愛でたくなる鉄骨たち

展覧会情報

「入るかな? はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地」
(Full Size is oversized: KATSUHIRO MIYAMOTO Architecture Park)
■ 会期:2023年9月16日(土)~10月22日(日)
■ 会場:宝塚市立文化芸術センター2階メインギャラリー
 (〒665-0844 兵庫県宝塚市武庫川町7-64)
■ 開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
■ 休館日:毎週水曜日
■ Tel:0797-62-6800
公式ホームページ

地域情報発信ライター(宝塚市)

カフェ、庭園、美術館、ときどき神社。新しい出会いを求めて、カメラ片手に足の向くまま、気の向くまま。歴史のあるまち、宝塚の「いま」をお届けします。

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