ヴィニシウスはレアルの「救世主」になれるのか?ジダンの信頼と、ストリートの匂い。
彼は、レアル・マドリーの「救世主」になれるだろうか?
新型コロナウィルスの影響で、リーガエスパニョーラでは無観客開催が常となった。マドリーが最後に本拠地サンティアゴ・ベルナベウに観客を入れて試合を行ったのは2020年3月1日だ。そこで得点を記録したのが、ヴィニシウス・ジュニオールである。
「ヴィニシウスに満足している。ふさわしい活躍だった。ファンタスティックな仕事をしてきた彼には、ゴールが欠けていた。それを決めて、自信になったと思う」とは今季のチャンピオンズリーグ準々決勝ファーストレグのリヴァプール戦後のジネディーヌ・ジダン監督のコメントだ。
「我々はヴィニシウスのプレーを楽しんでいる。彼の仕事ぶりに満足している。だが彼は若い。『世界最高の選手になれる』といったことを彼に言うべきではない。彼が落ち着いて取り組めるようにしなければならない」
■ストイックな姿勢
2018年夏にマドリーに正式加入したヴィニシウスだが、マドリーは彼の獲得に際して移籍金4500万ユーロ(約54億円)をフラメンゴに支払っている。
ブラジルからスペインに渡り、家族と共にマドリード郊外に移り住んだ。だがヴィニシウスは自動車免許を取得していなかったため、マルセロ、セルヒオ・ラモス、ルカ・モドリッチらが練習場への送迎を行っていた。
典型的な若者、というわけではない。ナイトクラブには行かず、自己管理を徹底している。マドリー加入直後、クラブに栄養士を紹介して欲しいと頼んだ。昨年のロックダウンの時期には、パーソナルトレーナーのチアゴ・ロボ氏とフィジカル強化に励んだ。そのトレーニングは一日5時間に及んだこともあったという。
一方で、インターネットやソーシャルメディアをうまく使いこなす。『インスタグラム』のフォロワー数は1118万人を超える。『Youtube』を始めるのも早かった。現時点でチャンネル登録者数は135万人だ。
ローマは一日して成らず。フットボーラーもまた、一朝一夕で上手くなるものではない。
ヴィニシウスの歩んだ道は平坦ではなかった。彼の父親はケーブルテレビで技術者として働いていた。しかしながら生活は苦しかった。時には、ヴィニシウスのサッカースクールの支払いが滞ることさえあった。
「経済的に難しい状況にあった。だから我々はヴィニシウスに練習に行くためのバッグを与えて、サポートした。スパイクを買ってあげたこともあった」と語るのは"カカウ"の愛称で親しまれるカルロス・エドゥアルド・アブランテス氏だ。
カカウはフラメンゴ提携のサッカースクールでヴィニシウスを指導していた。「ヴィニシウスは6歳で我々のスクールに入団した。最初から目を引く存在だった。なので、常に年齢が上の選手たちと練習していた。彼が7歳の時には、9歳の選手たちとプレーしていたが、それでも図抜けていた」
■漂うストリートの匂い
彼の両親は苦労していた。リオデジャネイロ州サンゴンサロは、州の中で最も貧しい地区といわれ、治安が悪い。そこから抜け出すために奮闘していた。
だが得たものもあった。「いま、僕がマドリーで見せているようなドリブルは、ストリートサッカーで覚えたものだ。サンゴンサロにいた頃から、恐れはなかった。対峙する相手を抜くのに、恐れを抱いたことはない。それはレアル・マドリーでも、フラメンゴでも、変わらないよ」とはヴィニシウスの弁である。
「僕にとって、ドリブルはゴールより簡単なんだ。僕が支配しているスキルだと言えるかもしれないね。当然、ゴールは自信を与えてくれる。だけど、それはすべての仕事の仕上げだと思っている」
自身が支配するスキル。ドリブルを武器に、ヴィニシウスはビッグクラブでの成功だけを考えて前を向いている。