Yahoo!ニュース

同性愛者・性同一性障害の視点から「多様な家族、多様な子育て」を考える

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
虹はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー (LGBT)の象徴

昨年12月、性同一性障害を理由に女性から男性へと性別を変更した人が、最高裁によって、子どもの「法律上の父」であると認められたというニュースが国内で大きく報じられました。この夫婦は、妻が第三者から精子の提供を受けて子どもを持つことになりましたが、家族の多様なあり方について改めて多くの人が考えさせられたのではないでしょうか。

また、先日も男性から女性へと性別を変更した人が、「特別養子縁組」制度によって母親として認められたという報道がありました。いわゆるセクシュアル・マイノリティの人たちが子どもを持ち、家族を作ることについて、少しずつ制度や社会の価値観もゆるやかに変化しているとも捉えられます。

実は、これまでにも、様々な事情から子育てをし、家庭を築いているセクシュアル・マイノリティは存在してきましたが、あまり丁寧な議論がなされてこなかった経緯があります。セクシュアル・マイノリティと子ども、子育ての関わりについて、本稿では検証します。

そもそもセクシュアル・マイノリティとは?

ここで、そもそもセクシュアル・マイノリティとはどのような人を指すのか、おさらいをしましょう。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」で私と一緒に共同代表を務めている遠藤まめた氏の『セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編』に詳しい説明がありますので、以下一部引用します。

セクシュアル・マイノリティとは、現在の社会のなかで「これが普通」「こうあるべき」だと思われている「性のあり方」に当てはまらない人たちのことを、まとめて指す総称のことです。(中略)よく使われる主なカテゴリーに、LGBTというものがあります。それぞれ、L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)の頭文字をとって並べた言葉です。

L:レズビアン(女性を恋愛や性愛の対象とする女性)、

G:ゲイ(男性を恋愛や性愛の対象とする男性)、

B:バイセクシュアル(男女どちらにも恋愛や性愛の対象が向く人。あるいは、同性か異性かなどという問いそのものを拒否する人)

(中略)

T:トランスジェンダー(出生時に応じて割り振られたジェンダーと、自らのアイデンティティが一致しない人の総称。いわゆる身体の性別と心の性別が一致せず違和感を持つこと。あるいは、既存のジェンダーのあり方に疑問を付し、それを越えようとする人。

出典:シノドス『セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編』

セクシュアル・マイノリティは幅広い概念ですが、狭義では上にあげたLGBTの人々を指す場面が多くなっています。実際には、LGBT以外にもAセクシュアルといって、恋愛や性愛への関心が無かったり、関心が希薄であったりする人々なども存在します。

「ゲイは少子化の原因」とウェブ記事が大炎上

昨年1月、私が寄稿したウェブ・ジャーナルのコメント欄が大炎上するというちょっとした事件が起きました。その記事は「性的マイノリティへのいじめをなくすために――同性愛者の目線から見える日本社会の課題」というテーマで、そもそもがいじめをなくすための趣旨だったにも関わらず、当時コメント欄に寄せられたのは「きもちわるい」など、いじめそのものを再現している内容でした。

そのコメントの中には「ゲイが今以上に増えたら、さらに日本は少子化の原因になるだろう」と書いている人がけっこういました。差別やいじめは、それをする側はなんとでも理由をこじつけようとするものですが、少なくない人々が「セクシュアル・マイノリティ=少子化=だから良くない」と思っていることはおそらく事実でしょう(一方で、いざセクシュアル・マイノリティが親として子育てに関わろうとしたときには「お前たちは子どもに関わるな」という偏見もあるので、ややこしい……)。

セクシュアル・マイノリティは「いつの時代も、どの地域にもだいたい同じくらいの割合で存在する」ことが知られていますので、同性愛者がいきなり急増することはありません。望まない結婚や出産を強いられるセクシュアル・マイノリティの数が減ることはありえますが、それをネガティブに捉える考え方は恐ろしいですし、少子化の問題を考えるのであれば、他に取り組むべき課題があるはずです。私は認定NPO法人フローレンスで働く中で、病児保育や小規模保育、障がい児保育など、様々な「子育て支援」に関わるようになりましたが、日本は子育てしにくい社会だということをつくづく感じています。

1点目は、社会の価値観です。子育てしながら働きたくても、女性の社会進出は阻まれており、女性たちは葛藤を強いられています。「普通の家族」「伝統的な子育て」「ストイックなまでの母親像」などの価値観を前にして、子どもを持つことがとても大変なことになってしまっている現状がある中で、実は「男らしく、女らしく」という押し付け自体が子どもを持ちにくくさせている可能性もあります。

2点目は、子ども・子育てに関する税金の使われ方です。2015年度から始まる子ども・子育て支援新制度では保育サービスの量的拡大や保育士の処遇改善などがうたわれていますが、実はまだ必要予算が4000億円も足りません。国会議員や厚生労働省の方たちに尋ねても「年金・医療・介護が優先」「高齢者は票になるけど、子どもは票にならないから」という声もあります。

『保育新制度:子育て支援が軒並み縮小、先送り(毎日新聞 2014年03月11日)』

少子化対策は出生・育児を奨励する政策にお金を出せば成果が得られるという単純な話ではないと思いますが、まずは日本人のライフスタイルや考え方を変えていき、徐々に日本の社会が子育てしやすい環境へと変えていくという長期的な視点が必要だと思います。そのためにもこれからの日本はマジョリティもマイノリティも、お互いが知恵を出し合って共存・共生していくために協働していくべきではないでしょうか。

すでに子育てしているLGBTの家族たち

同性パートナーと子育てしているレズビアンカップル
同性パートナーと子育てしているレズビアンカップル

冒頭で、性同一性障害の夫婦のニュースを取り上げましたが、実際には様々な事情で子育てをしているセクシュアル・マイノリティの家族が存在します。

日本では、同性カップルは法律上の婚姻ができませんが、前夫との離婚後に、子連れのシングルマザーが同性パートナーと新たに家族を作り子育てしているケースなどがあります。最近では、精子提供を受けて出産し同性パートナーと子育てしているレズビアンカップルも現れるようになりました。また、トランスジェンダーや性同一性障害の場合には、性別を変更する前に子どもを持つ例があります。現在の「性同一性障害特例法」では、未成年の子どもがいる親は、戸籍の性別を変更できない規定になっています。「親の性別が変更されると、子の福祉に悪影響ではないか(かわいそう、混乱させるのではないか)」といった考えから、このような制約が存在しますが、この規定についても見直しの段階が必要ではないかと思います。

子育ては、それでなくても大変で、時間やエネルギーやお金もかかることですが、セクシュアル・マイノリティの場合には、「子どもがかわいそうじゃないのか」「子どもが混乱するのではないか」というあらぬ疑いの目にもさらされる現状があります。実際には、「そのこと」じゃなくても、どこの家族にも様々な事情はあり、考えるべき事柄もあるはずです。既に子どもを育てている家族が孤立しないような社会の風潮を望みます。

「育てる親のいない子ども」の里親になる

4/3(木)映画『チョコレートドーナツ』試写会シンポジウムの様子
4/3(木)映画『チョコレートドーナツ』試写会シンポジウムの様子

欧米では、上のような「生物学的に子どもをもうける」例に加え、LGBTが里親あるいは養子縁組という形で、「育てる親のいない子ども」(要保護児童)を育てているケースが数多く見られます。

4月19日公開の映画『チョコレートドーナツ』は、1970年代アメリカにおいて、育児放棄されたダウン症の子どもを育てようとした同性カップルの家族を描いています。既に全米の映画館で大絶賛されており、「観客賞」総ナメの映画ですが、70年代当時は、同性カップルが「親」になることに対して、いかに社会が冷酷であったかも如実に描かれている作品です。

先日行われた同映画の試写会では、日本の里親制度の現状や、同性カップルが親になることについてパネルトークが行われ、弁護士や全国里親会副会長などからは、「親のセクシュアリティに関係なく、愛情をもって子どもを育てられる家庭があれば、その家庭での子育てを支援すべきだ。世の中の偏見をなくしていき、法律や制度が整えられるべきだ」との意見が出されたそうです。

同性愛のカップルが親になる課題とは(NHKニュース 2014年04月04日)』

日本では、なんらかの理由で「育てる親のいない子ども」のうち、里親家庭に委託される児童は全体の12%(2011年3月末現在)にすぎず、残りの児童は乳児院・児童養護施設等で養育されています。一方では、アメリカ・イギリスなどの欧米各国では、70%~80%の児童が里親家庭で育っています。国や行政は里親家庭になる人を増やすべく努力していますが、他の先進国と比べて、日本は「育てる親のいない子ども」への対策が非常に遅れています。

里親の委託は各都道府県の判断に任されていますが、原則として「夫婦」でなければ里親になれない運用がなされていることが多く、また、特別養子縁組制度は法律婚をしている夫婦にしか適用されません。先日、性同一性障害で男性から女性へ性別変更した人が結婚し、児童養護施設から引き取った子どもとの特別養子縁組を申し立て、大阪家裁に認められたという報道もありましたが、里親や特別養子縁組等の制度をセクシュアル・マイノリティが使うためのハードルは高い状況にあります。

『性同一性障害 性別変更後「母親」に 特別養子縁組認定(東京新聞 2014年04月02日)』

「社会の中で子どもを育てる」という視点から考えたときに、セクシュアル・マイノリティの人たちが里親として、子どもに向き合う大人になることは、日本の抱えている社会的養護の課題を解決する際にも、実は有益なことではないでしょうか。

昨今では、LGBTと社会的養護について考える団体が設立され、LGBTを積極的に「里親の人材」としてとらえていこうという提言もなされています。

LGBTと「社会的養護」――家庭を必要としている子どもたちのために/藤めぐみ RFC代表

愛情をもって育ててくれる家庭を必要とする子どもたちはたくさんいます。里親や養子縁組などによって一人でも多くの子どもたちがそのような家庭で育つための制度が整えられれば、それは子どもにとっても、日本の子育て環境にとっても、とてもよいことではないでしょうか。マイノリティ/マジョリティを問わず、「子育てしやすい社会」を作っていくことこそ現在の課題といえるでしょう。

--------------------------------

映画『チョコレートドーナツ』

4月19日(土)より シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

同性愛に対して差別と偏見が強く根付いていた1970年代のアメリカでの実話をもとに、育児放棄された子どもと家族のように暮らすゲイカップルの愛情を描き、トライベッカやシアトル、サンダンスほか、全米各地の映画祭で観客賞を多数受賞したドラマ。カリフォルニアで歌手になることを夢見ながら、ショウダンサーとして日銭を稼いでいるルディと、正義を信じ、世の中を変えようと弁護士になったポール、そして母の愛情を受けずに育ったダウン症の少年マルコは、家族のように寄り添って暮らしていた。しかし、ルディとポールはゲイであるということで好奇の目にさらされ、マルコを奪われてしまう。

--------------------------------

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

明智カイトの最近の記事