シリア:ダマスカスで大衆食材・料理が高騰
長期化する紛争、アメリカなどが科す厳しい経済制裁などなどにより、本来世界の良識ある市民が「独裁政権による圧政」から助けてやるべきシリア人民の生活が困窮している。人民の困窮は、今や肉や魚が手に入らないという次元をとうに超え、生活に必須な食材や燃料の入手が困難な次元に入っている。シリア政府は各種の必需品の補助金制度の維持や価格の統制に努めているが、状況の改善には全く役立っていないようだ。シリア紙は、ダマスカスやその周辺で大衆食材・料理が「公定価格」を大幅に超過して販売・提供されていると報じた。
この報道によると、ダマスカス中心部に近い歴史的住宅街の市場で公定価格を大幅に上回る価格で食材などが売られている。「フール」と呼ばれる豆煮込みの材料となるソラマメが、公定価格1kg=1000シリア・ポンド(以下SP。最近の為替相場は1ドル=2500SP程度らしい)に対し、1kg=1700SP、煮たソラマメ1kgが公定価格1800SPに対し3000SPで販売されている。煮たひよこ豆も1kg=800SPの公定価格に対し、1700SPで販売されている。一方、食堂では「フール」各種が一皿1500SP~2000SP(公定価格は800SP~900SP)、「ファッテ」と呼ばれるひよこ豆料理が2000SP程度(公定価格は1000SP)で提供されている。価格に対する監視は全く行われていないそうだ。
ダマスカス市郊外の大衆的な住宅街の市場でも状況は同様で、ソラマメ1kgが1500SP、煮たソラマメ1kgが2500SPで販売されている。ダマスカス中心部のマルジェ周辺の食堂では、「ファラーフェル」と呼ばれる豆コロッケを普通のパンで挟んだサンドイッチが600SP(高級パンを用いたサンドイッチの公定価格は350SP)、「フール」一皿が1800SP、日本でもよく知られているアラブ料理の「フンムス」一皿が1600SPで提供されている。ラッカ県からマルジェを訪れた人物は取材に対し、この地区の業者はよそ者からぼったくっていると不平を述べた。
実は、単なる価格の話をするのならば、上記の食材・料理の価格高騰はSPのドルなどに対する価値が紛争勃発前の50分の1程度にまで下落したので値札についているゼロの数がその分増えただけと考えることもできる。本稿に登場した各種料理の価格を円やドルで考えると、紛争勃発前とそれほど変わっていないようにも思われる。となると、外貨も持っている者、外貨で収入がある者は価格高騰の打撃を実感できていないかもしれないが、SPでしか収入がない者にとっては致命的な価格高騰が起きていることになる。その一方で、大衆食材・料理はもちろん、必需品の価格高騰や供給不足が今後改善するめどは全く立たない。今やシリア政府は小麦の調達も困難になっており、数日前に補助金付きのパンの価格を2倍に引き上げたばかりだ。石油・ガスの生産や供給も滞っており、ガソリンや暖房用燃料などの値上げが続いている。また、9月~10月には地中海沿岸部の果物やオリーブの果樹農園がおそらくは放火であろう「山火事」によって大きな被害を受けた。より広範な食糧不足が発生する可能性が高いだろう。再三繰り返してきたことだが、ここで紹介した価格の高騰や生活水準の低下に苦しんでいるのは、あくまで「フツー」のシリア人であり、その全員が「独裁政権」の構成員だったり、協力者だったり、積極的な支持者だったりするわけではない。彼らが飢え死にしたり凍え死んだりすることは「シリア人民を助ける」と称する人々にとって本意でないのは明らかだ。人民の困窮に一顧だにせずに展開するシリア紛争についての政策や議論を、真剣に考え直す必要がある。