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ジャパン・稲垣啓太、スーパーラグビー挑戦から帰国「日本との違いは…」【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
代表キャップ授与式の際の稲垣。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

日本代表の稲垣啓太が南半球最高峰であるスーパーラグビーでの挑戦1年目のシーズンを終え、帰国した。

新潟工業高校時代から大型プロップとして注目された稲垣は、関東学院大学のキャプテンを務めていた頃は関東大学リーグ戦の2部降格も、2013年度にパナソニック入り後は才能が開花した。大男が8対8でぶつかり合うスクラムを最前列左で組むなど、強さと重さが求められる左プロップを務めながら、豊富な運動量と知性を長所として台頭。国内最高峰のトップリーグではチーム最多の148回ものタックル数を記録し、優勝と新人賞獲得に喜んだ。翌14年には日本代表に初選出された。

今季はレベルズの一員として日本人プロップとしては初めてスーパーラグビーに挑戦。ジャパンの一員としては、いまも今秋のワールドカップイングランド大会を見据える。サイズは、スーパーラグビーでの公式登録上では「身長183センチ、体重115キロ」となっている。

以下、一問一答(前半)。

――6月16日に帰国。21日にはチームのファン交流イベント(ラグビー祭)に参加しました。スーパーラグビーでプレーした実感は。

「ラグビー祭の時は、皆さん、僕が日本にいることを知らなかったみたいで『何でいるの?』と。とにかくたくさんサインをしていて、あとの記憶はほとんど…。まぁ、周りの人の見る目は変わった感じはしますし、高いレベルの環境でやったことで能力や技術は変化したとは思います。ただ、僕自身の人間性は変わったわけではないので」

――シーズンを振り返って。

「全体的に、スキルは日本のほうが高い印象がありました。日本はラインアウトでも、背が小さいからこそより高く飛ぶスキルを使っている。パスの球の回転も、日本のほうがきれい。ただ、向こうは球の回転が悪くても、捕る相手にとって一番、最高のところへ放っています。総括すると、日本と向こうとの違いは、一瞬、一瞬の判断。例えば、スーパーラグビーの試合を観ていても、ミスが起こった後に(ボールを拾った人が)一気に抜けるという場面がたくさんありますよね。一瞬、一瞬の判断です」

――その判断はどうやって身に付けているのでしょうか。

「経験でしょうね、こういうところ(試合レベル)で常々やってきている。僕自身も、こういうレベルに触れて初めてわかることが多かった。これから日本にスーパーラグビーのチームができて(2016年度からスーパーラグビーに日本拠点のチームができる)、こういう機会は増えていくと思います。それを先に経験できたという意味でも、レベルズでできてよかったと思います。ただ、納得いかない部分もあった。もう1年、という気持ちも…」

――誰もが待望したデビュー戦は、第15節のストーマーズ戦(5月24日/ケープタウン/●15-31)。後半17分から登場しました。

「以前から『使いたい、使いたい』と言ってもらえてはいた。そして南アフリカ遠征で、メンバーを(自分を含め)多めに連れていった。そのなかで、僕の調子がいいと見えたんじゃないですかね。相手のストーマーズはあの日、3番(右プロップ。稲垣の対面にあたる)の1本目(本来のレギュラー)をリザーブに入れていた(ヴィンセント・コッホ)。僕にとっては、そっちの方がよかったんですけど」

――ライバルチームのレギュラーと、お互い元気な状態でぶつかれるからですね。

「スクラムはチーム内でも評価してもらっているんですが、やっぱり、通用はしました。クラブでもチームの練習でも180センチ、130キロクラスの選手たちと組んできて、その重さには慣れました。…ただ、経験しておいてよかったなと思ったのは接点ですね。いっぱい入ったんですけど、まぁ、(相手が)動かなかったですね。力任せで行くことも大事ですけど、パワーとスキルを上手く使いあわせていかないと、ここではやっていけないと思います。1度(味方のボール保持者が相手の防御に)絡まれたら、日本人がはがすのは難しい。その考えを(ワールドカップ開幕より)先に持てたのは大きいですね。世界トップの選手は(ボールに)絡んだら(自軍側へ球を)持っていってしまう。だから、そうさせないよう日本特有の勤勉さを出していかないと(相手の防御が絡みつくよりも速く味方をサポートする)」

――今度のワールドカップ。日本代表は南アフリカ代表と初戦でぶつかります(9月19日/ブライトン)。

「そこで、それ(速いサポート)を80分できるのか。疲れてきて、パワーが落ちて、スピードが落ちてくるなかで…。まだあちら(代表合宿)には行っていないからわからないですけど、行ったら自分が得た知識を還元するというか、知識をプレーで示していきたいですね」

――少しずつ増やしている体重について。

「119まで、上がりました。ただ、結構重たいです。それはしょうがないと思っているんですが、こっちへ帰ってきてパナソニックの練習に出たんですが、まぁ、キツかった! 顔が真っ青になりました。(準備期間の)いまは、月曜日と金曜日が特にキツいらしいです。そして、昨日(6月22日)が特にキツかったみたいです」

――フィジカルバトルに耐えうるべく、ワールドカップまでに120キロに。

「そう考えています」

――デビュー戦以降、出番はありませんでした。チーム内での評価は。

「試合のレビューは出されていて『出場時間以上の働きはあった』と。ただ、精度。タックルの精度がかけていたんです。パワーに対し、僕もパワーで臨まないといけないと意識してしまって、その分、精度が落ちてしまっていた」

――タックルの技術的な話ですね。

「要は、『決め打ち』のような形で、スピードを落とさないで相手に(ぶつかりに)行ってしまったんです。それまではどちらにステップを切られてもいいようなスピードで(相手との間合いを詰めに)行っていたんですけど…。ただその辺は、修正できる。チームでもこの話はしました。(現地で再確認したタックルの要諦は)相手により、近づく。どれだけ近づいて、どれだけ速く、低い体勢になれるか…」

――大変でありながら、楽しんで熱中しているのは伝わりました。

「ええ。でも、英語ばかりでたまに眠くなります!」

(後半に続く)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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