中国で令和が既に商標登録されていることの影響について
AbemaTimesの報道で知りましたが、中国において「令和」が既に商標登録されていました。2017年11月16日に出願されているので勝手出願・抜け駆け出願といった不正目的出願ではなく、偶然の一致としか考えられません。なお、本出願は、2018年10月21日に登録され、既に商標権が発生しています。権利者は河北省の個人の方のようです。指定商品は(日本酒を含む)酒類です。
新元号選択時に商標登録されていないものという条件があると言われていました(そして、実際「令和」を含む登録商標はありません)が、外国の登録までは調べていなかったのでしょう。
これにより、日本企業にはどのような影響があるでしょうか?
商標権の効力は基本的にその国の中だけなので、この商標登録が日本国内でのビジネスに影響を及ぼすことは基本的にはありません。ただし、以下の点には注意が必要です。
日本国内で「令和」という名称の酒を売るのは自由(「令和」を商標登録することはできませんが、使用することが禁じられているわけではありません、独占できないだけです)ですが、その酒を中国国内で販売すると、商標権者に権利行使され、販売差止めや損害賠償を請求される可能性があります(正確には、日本から中国に輸出しただけで税関で差し止められる可能性があります)。
また、前回書いたように、「令和+識別力のある文字」で商標登録することは可能です。たとえば、「令和蔵」、「令和の宴」という商標を酒を指定商品にして日本で商標登録することは可能であり、商標権者は日本国内でその商標を独占的に使うことができますが、その酒を中国に輸出すると、「令和」と類似するとして、商標権者から差止めや損害賠償を請求される可能性があります。
さらに、もし、上記の「令和蔵」や「令和の宴」の商標権者が中国で正規にビジネスを行なおうということで、中国で商標登録出願を行なうと、先登録の「令和」と類似するとして拒絶される可能性が出てきます。
ただし、ここまでの話は海外で商標登録されている場合に共通の話であって、元号だからどうしたという話ではありません。元号特有の問題点として、たとえば、酒瓶に大きく「令和元年醸造」等と書いてあった場合に、中国における「令和」の商標権を侵害するリスクがないとは言えない点があります。日本においては、このパターンは「商標的使用ではない(ブランドとしての使用ではない)ので商標権は及ばない」と抗弁すれば済む話なのですが、中国の裁判所は商標的機能という概念が薄く、この抗弁が通用しにくいケースがあるからです。
(追記)
令和以外の候補ついて中国での登録状況を調べてみました。それぞれを含む登録商標の件数は以下のとおりです(類似についてはチェックしていません)。なお、中国は1出願1区分なので日本の場合よりも件数は多めになります。
「久化(きゅうか)」:1件
「英弘(えいこう)」:19件
「広至(こうし)」:なし
「万和(ばんな)」:なし
「万保(ばんぽう)」:156件