U-20女子W杯が開幕へ。今大会に臨む21名のヤングなでしこの強みと大会の見どころ
【チームは直前合宿を経てコスタリカ入りへ】
8月5日にフランスで開幕するU-20女子W杯に臨むU-20日本女子代表。
21名のメンバーが7月29日、日本を出発した。リベリアで直前合宿を行い、8月6日にコスタリカ入りした後、10日に開幕。大会は8月28日まで行われ、日本はグループステージで11日にオランダ、14日にガーナ、17日にアメリカと対戦する。
前回大会はコロナ禍の影響で中止となったため、今大会は日本が初優勝した2018年のFIFA U-20女子ワールドカップフランス大会以来。当時のチームを率いた池田太監督は現在、なでしこジャパンとU-20代表を兼任している。
今大会のU-20代表は、WEリーグでプレーする選手が7割以上を占めており、プロリーグとして環境が整備され始めた中でプレーする選手が多い。その中で、強みとなるのは個々のテクニックやプレーの引き出しの多さ。池田監督は、このチームの特徴について、「いろいろなイメージや考えを持ってプレーできる選手が多いので、そういうアイデアを大切にしていきたい」と語った。
この年代は、なでしこジャパンがW杯で優勝した2011年ごろにサッカーを始めた選手たちだ。
元々、身体能力の高い選手たちはバレーボールなどの他競技に人材が流れることが多かったが、W杯優勝の「なでしこフィーバー」による女子サッカー人気によって、パワーやスピードを備えた選手たちがサッカーをするようになった。その選手たちが、現在の20歳以下の世代で順調に育ってきている。今大会のメンバーの中で、飛び級の選手が7名と全体の1/3を占めることからも、下の世代の逞しい成長が感じられる。
ただし、感染拡大の影響で2年前のU-20W杯とともにU-17W杯も中止になったため、選手たちは今大会が初の世界大会となる。
チーム作りにおいては海外勢との対外試合を行うことができず、今年4月に予定されていたアジア予選も中止(*前回大会アジア予選の上位4チームに出場権を付与。同大会で優勝した日本は出場権を獲得)に。例年のような強化ができずに苦しんだ面もあるが、昨季リーグ戦が終わった今年5月から毎月、国内合宿を重ねてきた。
男子高校生相手に海外勢のスピードやパワーをシミュレーションし、本大会の相手の特徴を踏まえた対策を徹底。本大会を意識した中2日のスケジュールで試合を行うなど、工夫することで対外試合の不足をカバーした。
7月の合宿時には、同世代のライバルであるU-20韓国代表と対戦し、1-0で勝利。最年長のDF西野朱音は、チームの成長をこう口にした。
「コロナ禍という状況もあって海外のチーム対戦とできない中で、女子選手とはスピードやパワーが違う男子高校生相手に、最初はなかなか勝てませんでした。それが、キャンプを積み重ねるごとに(スピードやパワーに)どんどん慣れて一人一人が戦えるようになり、韓国との対戦でしっかり勝ちきれたことで、チームが良くなってきていると感じます」(西野)
【注目のアタッカーは?】
今回のチームで背番号10のエースナンバーを背負うのが、18歳のFW藤野あおばだ。昨季途中から日テレ・東京ヴェルディベレーザに加入。徐々にギアを上げ、10試合に出場して4ゴール。特に、シーズン後半戦の活躍は目覚ましかった。スピードとテクニックを兼ね備え、滑らかに方向転換しながら切り込んでいくドリブルが魅力。味方と連係してゴールに迫るプレーの選択肢も豊富だ。
そのほか、前線はFW島田芽依、FW山本柚月、FW浜野まいから、昨季のWEリーグで輝いた選手が多く、藤野は仲間たちとのコンビネーションにも自信を見せる。
「技術の高い選手が揃っていて、(同)世代でも個の力は飛び抜けた選手が多いのではないかなと思っています。一人ひとりが持っている引き出しが多いと感じるので、その選択肢を全員で共有して体現できれば見ている人を楽しませて勝つことができると思います」(藤野)
クラブ別では、ベレーザとその下部組織のメニーナから合わせて6名が選ばれた。そのほか、三菱重工浦和レッズレディース(3名)、INAC神戸レオネッサ(2名)と、WEリーグの上位3チームから過半数が選出された。また、なでしこリーグからは、セレッソ大阪堺レディース(2名)、JFAアカデミー福島(2名)と、育成に定評のあるチームがタレントを輩出している。
昨季のWEリーグで16試合に出場し、神戸の初代タイトルに貢献したDF竹重杏歌理がコンディション不良のために不参加となった(JFAアカデミーのDF林愛花が招集)が、同じく神戸出身選手のDF長江伊吹(現AC長野パルセイロ・レディース)が、西野とともにディフェンスリーダー格となる。長江は159cmと小柄だが予測力とジャンプが武器で、1対1にも自信を見せる。
「1対1の対人では絶対に、どの国のどの選手にも負けたくないので、小柄でも大きな選手に遠慮なく挑んで勝つ姿を見せたいなと思います。(チームカラーについては)少し大人しいですが、試合になるとみんな人が変わるというか、年齢関係なく言い合えるチームです」(長江)
男子チームとの対戦で出た様々な課題を克服し、完成度を高めてきたU-20代表は、その強さと魅力を世界に示すことができるだろうか。
【強豪揃いのグループステージ】
グループステージで対戦するオランダ、ガーナ、アメリカは、身体能力に秀でた選手が多いのが特徴だろう。特に、オランダ戦は大会の入りを決める重要な初戦。世界ランク4位の強豪であるA代表同様、ポジショナルプレーをベースとして各カテゴリーで戦い方に一貫性がある。「世界一の高身長国」と言われ、一般女性の平均身長が170cm前後で、日本人の平均身長とは10cm以上の開きがあり、クロスからの攻撃は脅威だ。FW山本柚月は、「クロスを上げさせない守備」をキーワードに挙げた。
また、ガーナはアフリカ予選を1位で勝ち上がっており、ボールを優位に支配できたとしても、カウンターからの「一発」に最大限の注意をしたい。
アメリカは言わずと知れた世界一の女子サッカー大国で、ドイツと並んで最多優勝回数を誇る強豪国。今年に入って対外試合を11試合こなし、全勝中で勢いがある。前回大会のグループステージでは日本が1-0で勝ち、アメリカは予選敗退の苦渋を舐めさせられただけに、全力でリベンジを挑んでくるはずだ。
強豪揃いのグループステージを突破し、1試合ごとに成長して決勝トーナメントへと駒を進めたい。その先のステージでは、最多優勝国のドイツや、日本が2016年大会の準決勝で敗れたフランス、前回準優勝のスペインといった分厚い壁が立ちはだかる。
話は変わるが、7月にイングランドで開催された女子ユーロ2022では、31日にウェンブリー・スタジアムで行われたイングランドとドイツの決勝戦に8万7192人もの観客が詰めかけた。これは男子のユーロ決勝戦の記録を塗り替える大会史上最多記録とのことで、ヨーロッパの女子サッカーのレベルアップと共に、人気の沸騰ぶりがうかがえる大会となった。
日本は育成年代ではU-17(2014年)、U-20(2018年)と各年代で世界一になっている強豪国だが、今大会は、そうしたヨーロッパ勢の急成長が育成年代にも及んでいることを実感する大会となるかもしれない。
特に、スペインのU-20年代の強さは、近年のA代表の著しいレベルアップと連動しており、日本にとって大きな壁となりそうだ。
今大会はコスタリカ中部のアラフエラと首都のサンホセの二都市で集中開催されるが、同地域の気温は20度〜25度前後で、比較的過ごしやすいと予想される。ただし、大会期間中は雨季に当たるため、突然のスコールがあるという。池田監督は事前に視察した感触について、「芝生が試合会場と練習場で違っていたり、芝の状態も日本とは違った」と話していた。そうした変化への適応力も、短期間の大会を勝ち抜くポイントになる。
また、今大会で選手たちに持ち帰ってほしい成果について、「いつも対戦しているタイプとは違う相手との戦い方や、国ごとのカラーを知って世界を広げることを肌で感じて欲しいですし、また、ワールドカップという大会の中で、スポーツの持っている素晴らしさを味わって欲しいなと思っています」と語っている。
来年7月には、女子W杯が行われる。今大会で、なでしこジャパン候補へと昇格する新たなヒロインが現れるか。ヤングなでしこの冒険が、いよいよ幕を開ける。
U-20女子W杯はテレビ中継で全試合が視聴できる。
*表記のない写真はすべて筆者撮影