ジャニーズ事務所がNGリスト問題以上に深刻に考えるべき、SNS時代の「ウソ」の重さ
ジャニーズ事務所の会見時に、記者の質問を回避するためのNGリストが存在したことが報道され、大きな騒動になっています。
今回のジャニーズ事務所の会見自体は、9月の長時間にわたった会見に比べると、2時間と時間的制約もしかれ、「1社1問」というルールが繰り返し宣言されるなど、ある程度ジャニーズ事務所側のリードに従って運営されていました。
その結果、一部メディア側の不規則発言が視聴者から批判の対象になる流れになり、そういう意味では、会見自体は、ある程度ジャニーズ事務所側の思惑通りに運営された会見として成功していたと言えるでしょう。
しかし、その後、このNGリストの存在が出てきたことにより、当日の運営に不満を持っていたメディアを中心に大きな批判の波がおこっています。
もはやNGリストの関与自体は本質的な問題では無い
NGリストをめぐっては、ジャニーズ事務所側がすぐに直接的な関与を否定し、運営会社側もそれを裏付ける発表を行っていますが、そうした両社の発表とは異なる関係者のリークによる報道も展開されるなど、状況が錯綜しているのが現状です。
参考:ジャニーズ会見運営のコンサル会社「FTI」の正体…ヤバい世論工作を本国でもやらかしていた
ジャニーズ事務所のウェブサイトのお知らせでは、繰り返しNGリストがジャニーズ事務所主導ではなかったと発信されています。
ただ、結論から言うと、ジャニーズ事務所側の対応は、今回のNGリストが事務所主導だったかどうか以前のレベルで、根本的に問題に向き合う姿勢を間違えていると言えます。
それは「ウソ」をついた、と世間から受け止められる行為を選択したことです。
「メディアとの対話が必要」という発言はウソだったのか?
当然、ジャニーズ事務所側はNGリスト作成について、公式ウェブサイトのお知らせ欄でも事務所側の関与を何度も否定していますから、今回のことを「ウソ」と定義するとジャニーズ事務所側は反論されるでしょう。
ただ、一般人の目から見て重要なのは、今回のNGリスト作成自体にジャニーズ事務所が直接関与していたかどうかではありません。
前回の会見で「メディアとの対話が必要」と発言した東山社長の姿勢が本当かどうかです。
NGリスト作成への関与がどうであれ、ジャニーズ事務所側がNGリストの存在を知っていたこと、会見の場においてもメディア側のクレームを受けながら、2時間と1社1問を盾に会見を打ち切ったという事実があることを踏まえれば、東山社長の「メディアとの対話が必要」という姿勢自体が「ウソ」ではないかという疑念がNGリスト騒動により多くの人の中に生まれたのは間違いないでしょう。
筆者は8月の段階で、ジャニーズ事務所が所属タレントの未来を守りたいのであれば、絶対にしてはいけないこととして下記の3点をあげさせていただきました。
■うやむやにしようとする
■ウソをつく
■不十分な対策をする
参考:ジャニーズ事務所が性加害問題から所属タレントを守る為に、今本当にやるべきこと
その中でも「ウソをつく」という行為は、炎上状態の時に最もしてはいけない行為になります。
なぜなら、一つでも「ウソをついた」と認識されれば、その他の全ての発言も信じてもらえなくなるからです。
「ウソ」により批判が炎上状態になった数々の事例
「ウソ」によって、炎上状態が手のつけられないほど大きくなってしまったという事例は、これまでにも多数存在します。
象徴的なのは、2016年のベッキーさんの不倫騒動をめぐる会見で「友人関係」を強調した後に、不倫の証拠となるLINEのやり取りが流出して大きな批判を集めたケースでしょう。
また、東京オリンピックのエンブレムの盗用疑惑において、デザイナーの佐野さんが「アートディレクター・デザイナーとして、ものを“パクる”ということをしたことは一切ない」と断言した後に、別の仕事におけるトレース問題が発覚したことで、最初の会見も「ウソ」だったのではないかというレッテルが貼られてしまったケースがあります。
参考:五輪エンブレム騒動に私たちが学ぶべき炎上対応4つの基本
明確な「ウソ」が一つ見つかると、全ての発言を信じてもらえなくなるわけです。
NGリストによりジャニーズ事務所の信頼性が地に落ちる
ジャニーズ事務所は、今回のジャニー喜多川氏の性加害問題について、5月に藤島元社長の謝罪動画をアップした際にも「知りませんでした」という発言をしたことが、「ウソ」という指摘を多数受けていた過去があります。
そういう意味で、これ以上の「ウソ」は絶対についてはいけない状態だったのですが、そこに来ての今回のNGリスト発覚は、残念ながら非常に深刻です。
もちろん、PR業界関係者が指摘しているように、こうした規模の大きい会見で注意すべきメディアのリストが作成されるという行為自体は良くある話ではあります。そのため、ジャニーズ事務所や運営会社側からすると、NGリストの存在自体はたいした問題では無いと考えていたのかもしれません。
ただ、社会全体がジャニーズ事務所の発言の一つ一つが「本当」か「ウソ」か、を注目しているこのタイミングでは、「メディアと対話が必要」という重要な発言が「ウソ」と捉えられる今回のNGリスト発覚は深刻です。
「メディアとの対話が必要」と本気で考えているのであれば、NGリストの作成など必要ありませんし、作成が分かった時点で廃棄を命じるべき行為だったはず。
今回、NGリストの存在が明らかになったことで、ジャニーズ事務所側の「メディアと対話が必要」という姿勢が「ウソ」であると多くの人が受け取ります。
それは、今後、ジャニーズ事務所や関係者の全ての発言を疑わせる根拠となってしまうわけです。
ジャニーズ事務所の報道否定にも疑惑の目が
実際問題、現在のジャニーズ事務所をめぐる報道は、混乱の一途を辿っており、さまざまな憶測や伝聞が飛び交っている状態になっています。
そうしたものの一部を否定するために、ジャニーズ事務所の「お知らせ」には、今回のNGリストの作成を指示したのは事務所側ではないというお知らせの他に、木村拓哉さんに関する報道や、藤島元社長が会見場に実は来ていたという報道を否定するお知らせが掲載されています。
しかし、今回の一つの明白な「ウソ」の発覚により、こうした報道を否定する「お知らせ」も多くの人の耳には届かない状態になってしまっているわけです。
なにしろ、ジャニーズ事務所は、過去に週刊文春がジャニー喜多川氏の性加害問題を報道したときに、週刊文春を名誉毀損で起訴している過去があります。
参考:ジャニーズ事務所による「訴訟を濫用した報道への威嚇」がなぜ問われないのか…日本の司法界の死角、世界では大問題に
新経営陣の元でも「ウソ」をつく体質が改善してないのであれば、メディアの報道を否定する「お知らせ」も「ウソ」の可能性があると疑われるのは当然と言えるわけです。
SNSによる個人の告発が容易にできる時代
今回の会見であらためて明確になったのは、残念ながらジャニーズ事務所側の問題に対する姿勢が、古い時代の「常識」に沿ったものになっているという点です。
SNSやネットが普及する前の時代であれば、ジャニーズ事務所側が伝えたいことだけを伝え、都合が悪い質問をするメディアからは距離を置くという小さな「ウソ」を重ねるやり方で、会見を無事に終えることができたのかもしれません。
しかし、今はSNSやネットの普及により、一人の社員や関係者のリークにより、全ての「ウソ」がさらされる時代です。
今回のNGリストについても、証拠として報道されたのはNHKのテレビカメラの映像でしたが、実は一部メディア関係者には会見後にNGリストの文書ファイルがリークして送付されていたという報道もあります。
もともと、ジャニー喜多川氏の性加害問題がここまで日本で報道されるきっかけになったのも、BBCによるドキュメンタリーと並行して、自らの性被害を顔出しで告発したカウアン・オカモト氏のYouTubeやSNSでの発信があります。
参考:「きっかけはキンプリ分裂だった」ジャニーズ性加害問題を実名告発…カウアン・オカモト氏が明かした“決意の理由”
もはや、SNS時代においては被害者や関係者が、容易に証拠の動画や素材を元に告発ができる時代になっています。
「ウソ」をついたり、「ウソ」と思われる行為をすること自体が、大きなリスクがある行為なのです。
ジャニーズ事務所が根本的に変えるべきこと
一部メディアからは、9月に責任を取って退任したはずの白波瀬元副社長が、実はまだ「嘱託社員」として勤務しているという驚きの報道もされています。
参考:ジャニーズ前副社長の白波瀬氏は「嘱託社員」 説明責任問う声も
白波瀬元副社長はメリー氏とともに、ジャニー喜多川氏の性加害問題を隠蔽し、メディアのコントロールをしてきた人物とされていますから、当然今回の会見のNGリストなどの手法も、白波瀬氏の影響が疑われることになります。
そうなると、白波瀬氏は退任したということや藤島元社長が経営に関与していないことも「ウソ」ではなかったのかと疑われ、ジャニーズ事務所が新経営陣によって運営されていること自体も疑われることになるわけです。
もちろん、白波瀬氏の関与に関しては今の時点では憶測にしか過ぎませんが、いずれにしても東山社長と井ノ原副社長をはじめとした新経営陣が、本当に所属タレントの未来を考え、過去の過ちを正そうと考えているのであれば、やるべき事は明白です。
まずは従来のジャニーズ事務所の「常識」を元に行動している現在のやり方を全て見直し、全てが白日の下にさらされる前提で、真剣に「ウソ」のない対応を実施するべきでしょう。
自分達の「常識」が間違っていることに気づくために、外部の視点は重要ですから、やはり外部経営者の招聘は必須であると考えられます。
被害者に対する謝罪や補償と、所属タレントや若いジュニアメンバーの未来を本気で最優先する気持ちがあるのであれば、今回の騒動で傷ついているファンに少しでも早く報いたいのであれば、会見での厳しい質問によって傷つく自分達のメンツやプライドなど小さなもののはずです。
是非ジャニーズの新経営陣の方々には、これ以上の「ウソ」は新会社の未来を潰しかねないことを踏まえて、関係する全ての方の未来のために行動されることを期待したいと思います。