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ジャニーズ事務所が性加害問題から所属タレントを守る為に、今本当にやるべきこと

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(写真:ロイター/アフロ)

ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害問題に対し、国連の人権理事会から非常に厳しい指摘がされ、大きな話題を集めています。

国連人権理事会の専門家2人は、7月24日に来日し、複数の関係者への聞き取り調査を実施、「ジャニーズ事務所の所属タレント数百人への性的搾取と虐待の疑惑が明らかになった」と明言。

さらには、ジャニーズ事務所の特別チームの調査による透明性と正当性に疑問を表明した上に、この問題を日本のメディア企業が数十年にわたりもみ消しに加担したと、日本のメディア構造の問題についても指摘したのです。

参考:国連人権理「被害者の実効的救済を」 ジャニー氏の性加害問題で声明

記者会見を受けて、ジャニーズ事務所も即座にメディアに声明を発表。

「見解を厳粛に受け止め、被害を申告されている方々と真摯に向き合い、丁寧に対話を続けたいと考えている」というコメントが各メディアで報道されています。

ただ、残念ながら現時点でのジャニーズ事務所の対応は、明らかに不十分であると言わざるを得ません。

特別チームへの問題提起には言及せず

特に、象徴的なのは、記者会見の直後にジャニーズ事務所がサイトに公開したお知らせでしょう。

「故ジャニー喜多川による性加害問題に関する件について」というタイトルで公開されたそのお知らせには、ジャニーズ事務所が編成した「外部専門家による再発防止特別チーム」が8月末に提言を行うため、その提言を受けて取り組みなどについて説明することを予定している、という内容が書かれています。

参考:故ジャニー喜多川による性加害問題に関する件について

国連人権理事会からは、その肝心な特別チームの透明性と正当性への疑問が表明されたにもかかわらず、それを一切無視する形で、今の体制を継続し更に8月末までは何も追加の行動はしないと受け止められかねない発表をしたことになります。

国連人権理事会の2名は来日から10日ほどの調査で、今回の様々な問題を把握し、厳しい声明を出すまでに至りました。

一方、ジャニーズ事務所は、藤島社長の謝罪動画が公開された5月14日から既に2ヶ月半以上、特別チームが記者会見を開いた6月12日からも1ヶ月半以上、あらたな声明を出していません。

その間、世間の厳しい視線の矢面にさらされ続けているのは、ジャニーズ事務所の所属タレントの方々になりますし、今回のジャニーズ事務所の発表どおりになるとすれば少なくとも8月いっぱいは、引き続き今の状態は変わらないことになります。

所属タレントの方々はもちろん、そのファンの方々も、その間不安な状態が継続してしまうことになるわけで、当然ながらとても良い対応とは言えない状態です。

では本来、所属タレントを守る存在であるべきジャニーズ事務所が、今やるべき事は何なのでしょうか?

ジャニーズ事務所が絶対にやってはいけないこと

まずは過去の事例を元に、ジャニーズ事務所が絶対に避けるべき対応を明確にしておきたいと思います。

それは下記の3点です。

■うやむやにしようとする

■ウソをつく

■不十分な対策をする

一つ一つ過去の事例を例に説明します。

■うやむやにしようとする

今回、芸能関係者に話を聞くと、今後ジャニーズ事務所が選ぶやりかたとして可能性が高いと話していたのが、対応を長引かせて世間の注目が他に移るのを待つという選択です。

実際に、ジャニー喜多川氏の性加害の問題は、数十年にわたって大手メディアに取り上げられずに来ましたから、今回も似たような対応をするだろうと考える芸能関係者が多いことは理解できます。

ただ、今の時代において、この選択は確実に悪手です。

象徴的なのは今週大きな話題になったビッグモーターの対応です。

7月に入って大きくメディアでも不正行為が報道されるようになったビッグモーターですが、実は過去に何度も不正報道がされ、ネット上でも炎上騒動になっていたものの、完全黙殺を貫いてきていた経緯があります。

参考:ビッグモーター不正報道「完全黙殺」成功の諸事情 メディア追求かわすも…国が動く「もうひと押し」

5月の時点では上記の記事にあるように、週刊誌では報道されたものの大手メディアは追随せず、大きな話題にはなりませんでした。

しかし、結局は完全黙殺の過程で徐々に様々な告発や調査が積み重なり、今回の大きな騒動になったわけです。

ジャニー喜多川氏の性加害も、一時期は同様の状態だったことを考えると、こうした「完全黙殺」が、残念ながら騒動を起こした企業側の選択肢として有効なケースがあるのは事実です。

ただ、ジャニー喜多川氏の性加害については、すでにそういうレベルの状態ではありません。国連人権理事会が動いたように、いまや日本だけでなく世界中が注目している事件です。

実名で被害を告白している方も増えており、対応を長引かせれば長引かせるほど、ビッグモーター同様に最終的な反動が大きくなる可能性の方が高くなります。

今回の問題においては、最初に口火を切ったカウアン・オカモト氏が、ジャニー喜多川氏に対してまだ比較的好意的な立場を取っている方だったため、ジャニーズ事務所にとっての最悪の展開にはなっていません。

参考:記者会見での性加害告発から4か月、カウアン・オカモトが語る自身のルーツと生き方

ただ、当然対応を長引かせてうやむやにしようとすればするほど、ジャニーズ事務所の反撃が怖くて声があげられなかった被害者の方が声をあげるようになるでしょう。

ジャニーズ事務所側も今後会見を開くことは明言しており、さすがにこのまま騒動が忘れ去られるとは考えていないと思いますが、もし時間をかけて事態が沈静化することを期待しているのであれば、反動のリスクを溜め込んでいると考えた方が良いでしょう。

■ウソをつく

今後、ジャニーズ事務所側が会見を開く際に、絶対にしてはいけないことの一つが「ウソをつく」ことです。

あまりに当たり前すぎて、文字にすることすら意味がないと思われるかもしれませんが、実際には過去に会見でウソをついたり、ウソをついたと思われたりすることで、本来の罪よりも大きな社会的制裁を受けるケースは後をたちません。

そうした傾向が明確になったのは2016年のベッキーさんの不倫騒動をめぐる会見で「友人関係」を強調した後に、LINEが流出して大きな批判を集めたケースでしょう。

参考:ベッキー復帰騒動で考える一発レッド社会のウソの代償

ウソをついたり、ウソをついたと思われる発言をしたりすると、全ての発言が信憑性を失うどころか、ウソをついたこと自体で大きな批判を集めることになります。

今回のジャニーズ事務所のジュリー社長の謝罪動画においても、性加害を「知りませんでした」と発言したことが、複数の関係者からウソと指摘されています。

参考:近藤真彦が「うそはダメ。知ってるでしょ」 ジャニーズ性加害問題でジュリー社長に苦言

この「知りませんでした」発言や、「事実であるとすれば」とジャニー喜多川氏の性加害自体を事実として認めていない可能性を示したことが、5月の謝罪動画が世間的に正式な謝罪として受け止められなかった背景にあります。

更に問題なのは、そこから2ヶ月半たったいまも、こうした問題の認識に対する姿勢を公式に改める声明を出していない点です。

この問題に詳しいジャーナリストの松谷氏によると、ジャニーズ事務所がこうした曖昧な発言を続けるのは、現役のタレントに与える影響や、テレビCMの契約打ち切りの事態を懸念してのことのようです。

参考:ジャニーズ性加害問題が進む先──はっきりと認めるか、それとも曖昧に認めるか

ただ、この状況のまま次の会見でまたウソと捉えられるような発言をすれば、当然被害者からさらなる厳しい指摘を受けますし、関係者からウソを否定するリークが出てくる可能性も高いでしょう。

藤島社長やジャニーズ事務所の経営陣は、5月の謝罪動画の発言の背景も含めて、誠実に真実を明らかにすることが必須と言えるでしょう。

■不十分な対策をする

また、次回の会見で問われるのが、本当にジャニーズ事務所はこの問題を徹底的に追及し、被害者に必要な謝罪や対応をし、二度と同様の被害が起こらないように対策を講じることができるのかという点です。

日本のメディアでは性加害報道後も、引き続き多くのジャニーズ事務所所属タレントが活躍している姿を見ることができますが、海外からは今回の性加害問題はジャニー喜多川氏個人の問題ではなく、ジャニーズ事務所の組織的問題ではないかという疑いの目が向けられています。

象徴的なのは、バレーボールのW杯において、ある参加国から「ジャニーズのアイドルが大会に関わるのであれば出場を取りやめる」と強い抗議があったと報道されている点です。

参考:「性加害問題に参加国が“NO”」ジャニーズ Aぇ! groupがバレーW杯から排除された!

日本の大手メディアは5月の藤島社長の謝罪動画をもとに、今回の性加害はあくまでジャニー喜多川氏個人の罪であり、現在のジャニーズ事務所に罪はないという判断を行い、引き続きジャニーズ事務所との取引を続けています。

しかし、海外から見れば、今回の性加害問題はまだ全く対応がされていない現在進行中の問題であるということなのです。

当然、ジャニーズ事務所側が今後十分な対策を取らなければ、こうした海外からの厳しい視線は続くことになります。

場合によっては、外資系企業を中心にジャニーズ所属タレントのテレビCM等への起用を見送る流れさえ生まれかねません。

海外の視点から見れば、ジャニーズ所属タレントを起用するということが、性加害問題の温床となっていたジャニーズ事務所を儲けさせる行為という見え方になるからです。

それにより被害を受けるのは当然ジャニーズ所属タレントであり、そのファンの方々になります。

おそらくは経営体制の刷新も含めて、根本的な問題解決を行わなければ、こうした海外からの厳しい視線が和らぐことはないでしょう。

ただ、逆に予想を上回る抜本的な対策を行うことで、ファンの信頼を取り戻した事例も過去に複数存在します。

象徴的なのは、ペヤングの炎上騒動でしょう。

ペヤングは、異物混入騒動で一時は混入疑惑を強気で否定して炎上しますが、その後姿勢を一変し、全国で販売を休止し、製造ラインに10億円を投資して改善。

半年後に販売を再開した際には、待ちかねたファンによって売上が急増するという復活を遂げました。

参考:「ペヤング」が炎上から大復活を遂げられたワケ むしろ直近5年で売上高は約2倍に急成長

中途半端な対応ではなく、問題を上回る根本的な対策をできれば、評価を上げることも可能なわけです。

人類史上、最悪の性虐待事件

ジャニーズ事務所側も、これだけ対応に時間をかけているわけですから、普通に考えれば当然上記の3点のような対応はしないと考えられます。

ただ、現時点で明らかに国際社会からの反応と、ジャニーズ事務所やメディア側の報道に温度差を感じるのが、今回のジャニー喜多川氏の性加害問題の深刻さを、ジャニー喜多川氏が故人ということで軽く考えているのではないかと言う点です。

日本には、死者に鞭を打つなという考えを持っている方が多く、特に芸能界でジャニー喜多川氏に恩がある方々が、不用意な擁護発言をして炎上するケースが続いています。

ただ、残念ながら、今回明らかになったジャニー喜多川氏の性加害は、彼が日本を代表する多数のアイドルを育てたという実績を帳消しにしても、さらに埋め切れないレベルの深刻な犯罪です。

3月にBBCが「Predator」というタイトルで、ジャニー喜多川氏の性加害問題を報道しましたが、この「Predator」という捕食者を意味する単語は性犯罪者を意味する単語として使われる単語でもあります。

今回、国連人権理事会が言及したように、その性加害の対象は数百人に上り、その大半が未成年です。

未成年に対する性犯罪というのは、特に米国においては非常に深刻な重罪です。

米国で「億万長者の顔をした怪物」という書籍まで出されてしまった、ジェフリー・エプスタイン氏は、14~15歳の少女数十人を暴行したとして起訴され、世界中にNetflixのドキュメンタリーなどで性犯罪者として知られる結果となっています。

ハリウッドを起点とする#Me Too運動のきっかけになったとされる、ハーヴェイ・ワインスタイン氏も70名を超える女性に対して性暴力をおこなったことで有罪判決を受けました。

この問題も「SHE SAID」という映画になり、ハーヴェイ・ワインスタイン氏も犯罪者として世界に知られるようになりました。

ジャニー喜多川氏は、数百人という被害者の人数だけで考えても、彼らの数倍の規模の犯罪と言えますし、被害者のほとんどが未成年という意味でさらに人数以上に重い罪という考え方もできるわけです。

ジャニー喜多川氏の性加害は法廷で指摘されたにもかかわらず、日本では不幸にも未成年の男性への性犯罪を防ぐための法律が整備されておらず、メディアも大きく報じることがないまま、何十年も続き、ジャニー喜多川氏が存命の間に犯罪者として逮捕されることはありませんでした。

しかし、ジャニー喜多川氏が亡くなったことによりその罪の重さが軽くなるわけではありませんし、性被害を受けた方々の忌まわしい記憶が消えるわけではありません。

国連人権理事会の記者会見の後に実施された、元ジャニーズ7人による会見では「人類史上、最悪の性虐待事件」と言及されています。

参考:元ジャニーズ7人が糾弾「人類史に残る史上最強の性加害」 被害者は数百人か

実際に、今後おそらくジャニー喜多川氏の名前は、ジェフリー・エプスタイン氏やハーヴェイ・ワインスタイン氏を超える史上最悪の性犯罪者として、世界に知られることになる可能性が高いわけです。

東山さんが言及されていたように、ジャニー喜多川氏の名前を冠している事務所の名称変更も、真剣に考えるべき事態だと言えるでしょう。

参考:「ジャニーズ事務所」改称の可能性も “長男”の東山紀之がジャニー前社長の性加害問題を謝罪

本当に守るべきは所属タレントとファンのはず

現時点でのジャニーズ事務所側の対応を見ていると、ジャニー喜多川氏の成し遂げた功績や、その後継者である藤島社長を守ることの方に、重点があるように見える対応が散見されます。

しかし、今回の性加害問題の規模の大きさや深刻さを考えると、ジャニーズ事務所が優先すべきはあきらかにそちらではありません。

奇しくもジャニーズ事務所のお知らせに明記されているように「今回の問題については、声をあげられたかどうかに関わらず、所属経験のあるすべてのタレントへの心のケアが最重要」のはずです。

参考:「心のケア相談窓口の開設」 「外部専門家による再発防止特別チームの設置」 「社外取締役」についてのお知らせ

犯罪行為の被害者になった元所属タレントへの対応は当然必須です。

さらに、現在のジャニーズ事務所の所属タレントには、今も大勢のファンがいて、今回の性加害問題の報道に心を痛めているのは間違いありません。

今回のジャニー喜多川氏の性加害問題においては、ジャニーズ事務所の影響力の悪い面に大きくスポットライトが当たっているのは事実です。

一方で、ジャニーズ事務所の所属タレントの影響力の良い面が、日本中の大勢のファンを楽しませてくれていたのは間違いありませんし、今後もそれを期待しているファンが固唾をのんでジャニーズ事務所の対応を見守っているはずです。

ジャニーズ事務所の対応次第で日本のエンタメの未来が変わる

今後のジャニーズ事務所の対応次第では、当然所属タレントの将来に大きな影響が出ます。

現時点では、TOBEや新しい地図など、元ジャニーズのメンバーが所属する新しいタレント事務所も生まれており、そこに移籍するという選択肢も当然考えることになるでしょう。

最近では、ジャニーズ事務所も、他のタレント事務所のアーティストとコラボを行うなど、従来行わなかった新しい取り組みに挑戦する姿勢も見せてきていますから、変化しなければいけないという意識を持っている方も間違いなく増えているはずです。

現時点で日本のエンタメ業界の中心で、ジャニーズ事務所が重要な役割を担っていることは誰も否定しないでしょう。

そのジャニーズ事務所が今回の問題にどう対応するかによって、日本のエンタメの未来が大きく変わるのは間違いありません。

それどころか、世界が日本のエンタメ産業や日本のタレントを見る目にも大きく影響する可能性があるのです。

是非、藤島社長とジャニーズ事務所の経営陣の方々には、問題の深刻さを見誤ることなく、誠実に所属タレントやファン、そして被害者の方々と向き合い、根本的な問題への対応を早期に実施いただきたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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