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2024年の海外音楽シーンの潮流は「歌心への回帰」だった? 各種年間チャートから読み解く

柴那典音楽ジャーナリスト
Benson Boone/Photo: Jonathan Weine

2024年の海外音楽シーンにはどんな潮流があったのか。どんな曲がヒットし、どんなアーティストがブレイクしたのか。各種ランキングから振り返りたい。

■2024年を象徴するヒット曲はベンソン・ブーン「Beautiful Things」

米ビルボードが発表した全米ソングチャート「Hot 100」、そしてグローバルソングチャート「Global 200」のTOP10は以下のような並びとなっている。

2024年「Hot 100」年間TOP10

  1. テディ・スウィムス「Lose Control」
  2. シャブージー「A Bar Song(Tipsy)」
  3. ベンソン・ブーン「Beautiful Things」
  4. ポスト・マローン「I Had Some Help feat. Morgan Wallen」
  5. ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」
  6. ケンドリック・ラマー「Not Like Us」
  7. サブリナ・カーペンター「Espresso」
  8. トミー・リッチマン「Million Dollar Baby」
  9. ザック・ブライアン「I Remember Everything feat. Kacey Musgraves」
  10. ホージア「Too Sweet」

2024年「Global 200」年間TOP10

  1. ベンソン・ブーン「Beautiful Things」
  2. テディ・スウィムス「Lose Control」
  3. サブリナ・カーペンター「Espresso」
  4. テイラー・スウィフト「Cruel Summer」
  5. テイト・マクレー「Greedy」
  6. シャブージー「A Bar Song(Tipsy)」
  7. ビリー・アイリッシュ「Birds Of A Feather」
  8. ホージア「Too Sweet」
  9. FloyyMenor X Cris Mj「Gata Only」
  10. ノア・カーン「Stick Season」

「Global 200」年間1位はベンソン・ブーン「Beautiful Things」。全米ソングチャート「Hot 100」でも年間3位にもなったこの曲が2024年を最も象徴するヒット曲と言っていいだろう。

ベンソン・ブーンは米ワシントン出身で現在22歳のシンガーソングライター。2024年4月にデビューアルバム『Fireworks & Rollerblades』をリリースしたばかりの気鋭のニューカマーだ。彼の魅力は情感豊かな歌声にある。「Beautiful Things」は素朴なフォークソングからパワフルなロックへと展開するドラマティックな一曲。切なく哀愁あふれるメロディから力強い叫びへと感情を昂らせる歌声が胸を掴む。

■エモーショナルで力強い男性の歌声がヒットに結びついた

全米ソングチャート「Hot 100」の年間1位はテディ・スウィムズの「Lose Control」となった。

テディ・スウィムズは米ジョージア州出身のシンガーソングライターで、こちらも2023年9月にデビューアルバムをリリースしたばかりの気鋭のニューカマーだ。彼の魅力は表現力豊かでソウルフルなヴォーカルにある。「Lose Control」はソウルやブルースをベースにしたパワーバラード。2023年6月にリリースした楽曲は2024年3月に全米チャート1位を獲得。その後も異例のロングヒットを続けている。

全米年間2位はシャブージーの「A Bar Song(Tipsy)」となった。

シャブージーはヴァージニア州出身のシンガーソングライターで、黒人男性のカントリーシンガーだ。昨年までは全く無名な存在だったが、ビヨンセが2024年3月にリリースしたアルバム『Cowboy Carter』のフィーチャリング参加が注目を集め、「A Bar Song(Tipsy)」で一躍ブレイクを果たした。アコースティックギターやフィドルなどを配した温かみのあるカントリーのサウンドに耳馴染みのいいメロディが特徴だ。

年間TOP3の顔ぶれから伺えるのは「歌心への回帰」とも言うべきアメリカの音楽シーンの潮流だ。テディ・スウィムズはソウル、シャブージーはカントリー、ベンソン・ブーンははフォークと、それぞれ軸にしている音楽性は少しずつ異なるものの、エモーショナルで力強い男性の歌声がヒットに結びついたという点は共通している。ヒップホップやEDMではなく生音のサウンドを用いたオーセンティックな曲調もポイントだ。加えて言えば、3人とも髭をたくわえた貫禄あるルックスであることも目を引くポイントだ。

■カントリー/フォークの躍進

カントリーの躍進も2024年の潮流と言っていいだろう。ビヨンセやシャブージーのように、従来の枠組みを打ち破りジャンルを越境したカントリー・ソングが人気を集めた。全米年間4位のポスト・マローン「I Had Some Help feat. Morgan Wallen」もその象徴だ。他にもザック・ブライアンの「I Remember Everything feat. Kacey Musgraves」が年間9位となり、年間TOP10に3曲のカントリーソングがランクインを果たした。

一方、イギリスではフォークが大きなムーブメントを巻き起こしている。全英年間チャートの最終的な結果はまだ発表されていないが、10月時点で2024年最大のヒットとなっていたのが「Global 200」でも年間10位となっていたノア・カーン「Stick Season」。2位にベンソン・ブーン「Beautiful Things」が続いている。

ノア・カーンはアメリカ・バーモント州出身のシンガーソングライター。「Stick Season」は2022年10月にリリースされた同名アルバムの表題曲だ。リリースされた当初はほとんど話題にならなかったが、口コミで人気が広がり、ポスト・マローンやケイシー・マスグレイヴスやホージアなどとのデュエットが話題を呼び、こちらも異例のロングヒットを果たした。ポール・サイモンやマムフォード&サンズに影響されたというみずみずしいフォーク・ポップの音楽性が特徴だ。

ノア・カーンはすでに北米やヨーロッパではフェスのヘッドライナークラスとして呼ばれ、スタジアムで数万人クラスの公演を成功させるなど大スターとなっている。

また、2024年に「Stargazing」で一躍ブレイクを果たしたUKルートン出身(ジャマイカ系イギリス人)のシンガーソングライター、マイルズ・スミスもフォーク・ポップの音楽性が特徴だ。

ベンソン・ブーンは、こうしたオーセンティックな歌心の魅力を持つニューカマーが躍進した2024年を象徴する存在になったと言えるだろう。

ベンソン・ブーンは2025年1月14日にはZepp Haneda(TOKYO)で初来日公演も予定。こちらも見逃せないものになりそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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