2021年、試練の時代、それぞれの「eスポーツ」元年に思うこと
新型コロナ感染症に翻弄された2020年のなかで実際にあった話
2021年、新年あけましておめでとうございます。
昨年は新型コロナ感染症に世界中が翻弄され、その影響は今も続き、沈静化にはまだほど遠い状況です。罹患された方々の早期の回復と、蔓延を防ぐべく注意を払っていきたと思います。
そのような状況下で、積極的にeスポーツのイベントをオンライン上で開催したり、V-RAGE(ブイ-レイジ)のようにバーチャルリアリティ(VR)空間上で大規模な大会を開催すること、また、写真でご紹介したように、地域に密着したeスポーツ体験会(KeSU・神奈川県eスポーツ連合による活動:@KeSU_esports)を行うなど、エンタテインメント業界ならではの創意工夫に溢れた発想と実行力には頭が下がるばかりです。
私自身も、eスポーツの仕事に携わる中で、各地で開催されるeスポーツ・イベントや各種講演で自身の研究成果や日本と世界のeスポーツの現況を共有させていただく機会も増えました。
そういった機会を通じて、ゲーム好きな学生さんや社会人さんたちと交流する機会も増えたのですが、よく耳にするのは、eスポーツへの周囲の無理解です。
なかでも、学校教育側からのゲームへの偏見は未だ明確にあり、学生さんが学校側に「eスポーツ部を立ち上げたい」と相談した際、担当教諭、教頭先生から
「(ゲームをすると)アタマがバカになるからやめなさい」
…と諭されたことがあったと言います。結果としては諦めざるを得ず、一個人の活動として継続しているようです。
また、とある地方自治体のスポーツ振興課のスタッフさんと、オンラインでeスポーツの現況に関してお話をさせていただいたときも「カラダを動かさずに、座ってゲームをすることは、現時点ではスポーツという認識はしていない…」という見解もいただきました。
……これらは決してマイナーな見解ではなく、おそらく世間一般に関するeスポーツ(=ゲーム)への位置付けと考えたほうが良いでしょう。他方、「そんなことを言う人たちはeスポーツへの理解が足りない」という意見もあると思いますが、現在の一般的な認識と考えたほうがいいのではないでしょうか。
かつて敵対視された月額課金制の衛星放送ビジネス
ふと、思い出したことですが、私は80後半から90年代前半まで、株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現在のGAGA)で映画配給・宣伝の仕事をしていました。
その時代はメディアが大きく変わり始めた時代です。ここで言うメディアとはパッケージメディアと放送系メディアの両方です。
なかでも強く私の印象に残っているのは…、1984年に創業した日本衛星放送株式会社(以下JSB)です。JSBは1991年から、株式会社WOWOWという名称でBS衛星放送を開始した事業会社です。
特に、1989年頃から、WOWOW立ち上げに際してのコンテンツ収集という点で、ギャガと映画コンテンツの配給製作委員会への出資者としての参加や、そのコンテンツの2次的流通などで意見交換をしていました。
ちなみに、当時のWOWOWの営業実働のメンバーは出資各社からの寄せ集めで、旧来の新聞社、テレビ局などからの方が多く、かならずしも意思統一が図れた陣容ではありませんでした。
なかでも大きな問題は、WOWOWの放送開始、つまり営業開始に際して、従来の地上波テレビでのテレビコマーシャルで自社の告知を訴求できないというものでした。
理由は簡単で、地上波のテレビ・メディアにとって、BS放送が競合相手で、「競合相手の告知を自分たちのメディアでは放送できない」という…バカげていますが、理解できなくもない理由でした。
地上波は、自社の放送コンテンツのテレビ・コマーシャル枠を視聴率という数字に置き換え、最終的には番組提供金やコマーシャルスポット放送料金に置き換えてスポンサー企業に販売しているわけですから、その視聴率という数字が減る可能性もある新規メディアを手放しで応援できないというのが理由でした。
同じような理由でスカイパーフェクTV(現在のスカパー)や、後に同社に買収されるディレクTVも、地上波でのテレビコマーシャルが訴求できなかった時代が長く続いたように記憶しています。
そのような状況下において、彼らが行った戦略は、スポーツ放送、なかでもボクシングなどのペイパービュー(有料視聴または都度課金)放送や、プロ野球全シーズンの放送、新作のアニメ映画製作などへの出資とその先行放送、それら独自のコンテンツ企画などを通じて、地上波ではできないことを生き残り戦略として講じて現在に至っているのです。
おそらく現在の地上波テレビ放送でアマゾンプライム、Hulu、ネットフリックス、U-NEXT、そして、WOWOW、スカパーなどはテレビ・コマーシャルが当然のように放送されていますが、そこに至るには、多くの人の努力と時間が根底に流れているのです。
90年代後半のBS放送の黎明期を知っている人からすれば、隔世の感があるのです。
今では、それらはサブスクリプションという、なんとなく肌触りのよいカタカタ英語で我々の生活にそうっと入り込んでいます。
もちろん、テレビ局各社も、独自のネット配信ポータルやコンテンツを持っているというメディア全体におけるリセッションも大きく影響しています。メディア自体も、理屈をこねて、つべこべ言っていると時代に取り残されることが分かっているからです。
それぞれの「eスポーツ元年」があればそれでいい…
eスポーツ(総じてゲームエンタテインメント)産業においては、2020年の新型コロナ感染症による緊急事態宣言の影響もあり、室内に籠ってできることや、オンライン対戦などのプラス要素もあり、右肩上がりの様相を呈しています。
また、家庭用ゲームでは2020年11月12日に新型「プレイステーション5」(定価39980円:税別)が発売になったことも追い風になっていることでしょう。しかし未だに供給数が需要に追い付いていない状況があり、各家庭においては「プレイステーション5」が実稼働しているという状況ではなく、「プレイステーション5」ならではのコンテンツと展開に期待がかかります。この需要と供給のバランスが安定した頃には、新しいエンタテインメントが我々に提供されていることでしょう。
そう、ふと気が付いたときには、実は我々は自分たちが想像した未来にいるというのが現実なのです。
それは前述したように、テレビ・メディアにとって、BSやCSの衛星放送は地上波の仮想敵だったということは、今はもう昔の話です。
気がつくと、未来は我々のまわりの手が届くところにあり、各社の定額制(サブスクリプション)の音楽、映像、その他のユーティリティ・サービスも含めて十分すぎるほどの環境です。その昔、地上波テレビ・メディアが懸念した仮想敵は無限に増えて、視聴者の有限な時間の奪い合いを世界中のコンテンツ・サプライヤーたちが凌ぎを削っているのです。
当然ながらその中に、家庭用ゲーム、オンラインゲーム、スマートフォンゲームまでも含めるとキリがありません。
2020年を振り返れば、様々なヒト、モノ、カネにおける、それぞれのeスポーツ元年があったと思います。
eスポーツ・プロゲーマーに関しては、新しいステイタス・シンボルとしてYouTuberと並ぶ存在になりつつあり、獲得賞金が1億円超えのプロゲーマーの誕生もありました。eスポーツ系各事業会社の体力と財力の基盤整備のための合併もありました。プロゲーマーや個人が独自に配信ができるプラットホームも選択の範囲が広がりました。それは結果として、各社が来るべきそれぞれのeスポーツの元年への備えを怠らなかったということでしょう。
VR元年と同様に、2021年は試練も多く、みんな揃ってハッピーなeスポーツ元年にはならないと思いますが、それぞれにとっての課題をクリアしていくeスポーツ元年になるでしょう。
そして、ある時が来て、気が付いたその時には、それぞれがやってきたことが正しい限りそれぞれのeスポーツの未来がそこにあると思います。小さなことからでも、まずは自分たちがなすべきことを行うこと…、未来ってそんな地道な活動から生まれるものなんだと思います。
2021年も皆様にとって、よき一年となりますように、本年もよろしくお願いします。
YouTube 黒川塾 96チャンネルにてもヤフー個人 FROM GAME TILL DAWNの捕捉をしました。御高覧よろしくお願いします。
(※1月6日18時 誤字脱字などを校正し修正しました)