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ディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストア~40年の旅路の邂逅

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
ディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストア店内ディスプレイ 筆者撮影

ゲーム関連書籍は売れない…!?

 9月8日、拙著「ビデオゲームの語り部たち―日本のゲーム産業を支えたクリエイターの創造と挑戦」がディスクユニオンブックスより出版され、一般書店、Amazonや楽天ブックスなどネット書店でも購入ができるようになりました。

「ビデオゲームの語り部たち―日本のゲーム産業を支えたクリエイターの創造と挑戦」写真提供@DUB
「ビデオゲームの語り部たち―日本のゲーム産業を支えたクリエイターの創造と挑戦」写真提供@DUB

ビデオゲームの語り部たち―日本のゲーム産業を支えたクリエイターの創造と挑戦」、この書籍は2017年から@4GamerNewsにて連載を続けているもので、ビデオゲーム産業に関わった人々の歴史にスポットをあてたものです。一般的なゲームの歴史を俯瞰したものとは趣向が異なり、ゲームに関わった人々の歴史やキャリア、人生観を紐解くという位置づけで書き綴ったものです。私はそれを「ゲーム考古学」と呼んでいますが、このところ、セガ社員である奥成洋輔氏による「セガハード戦記」、ゲーセンミカドの池田店長による「ゲーセン戦記」、そしてゲームライターの鴫原盛之氏による「ナムコはいかにして世界を変えたのかーゲーム音楽の誕生」など…、どれも素晴らしい力作と言えるビデオゲームをテーマにした書籍が、このところ、数多く出版されています。

ナムコはいかにして世界を変えたのか 表1 提供@Pヴァイン
ナムコはいかにして世界を変えたのか 表1 提供@Pヴァイン

 私の書籍に限ったことで言えば、出版に至るまで、大手から中小まで出版数社に打診をしましたが、多くの場合、「ゲーム系の出版物は売れない」、「ジャンルとしてニッチで売り場を確保できない」などの理由で散々断られてきました。

 今回の「ビデオゲームの語り部たち」が出版できたのも、私がたまたまネットで見つけた「象の記憶」という書籍がきっかけでした。著者はYMO(イエローマジックオーケストラ)が所属していたアルファレコードの共同創業者のひとりである川添象郎氏です。

 「象の記憶」に関して詳細な御紹介は控えますが、このようなアバンギャルドな内容の出版物を扱える会社ならば、私のビデオゲーム関連書籍の出版も現実的ではないか…と考えて、オファーをしたことがきっかけで、今回の出版に至った次第です。

40年目の邂逅…栄枯盛衰のラストマン・スタンディング

 話は40年前に遡(さかのぼ)ります。

 私が新卒で入社した会社はアポロン音楽工業株式会社、レコードや8トラックで音源を企画販売する会社でした。ご記憶のあるかたもいると思いますが、アポロンは、エニックス(当時・現在のスクウェア・エニックス)の「ドラゴンクエスト」のゲーム音源を使ったサウンドトラックLPレコードを制作販売した会社でした。

 制作に携わったのは、隣のデスクに座っていたKさんという先輩社員、私は隣でKさんの仕事をみながら、「ゲーム音楽かぁ・・・時代も変わったな」と思っていました。しかし、そんな思いとは裏腹にリリースすると、多くの熱狂的なゲームファンの支持を受けて、アポロンにとって起死回生のヒットアルバムになったのです。続く「ドラゴンクエストⅡ」では、当時新人アイドルだった「牧野アンナ」さんの歌唱による「Love song 探して」がヒットしました。

 そして、その当時から在京の大手レコード販売店として、ディスクユニオンは存在していました。

ディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストア 外観 @新宿 撮影筆者
ディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストア 外観 @新宿 撮影筆者

 あの頃はレコードからCDにメディアが移行する過渡期で、現在はダウンロード販売が主流になり、音楽販売の路面店の多くは廃業していきました。有名なところでは新星堂(事業縮小)、石丸電気レコード館(閉館廃業)、山野楽器銀座店(店舗縮小)などです。地方のそれらは、さらに言うに及ばず、軒並み廃業、音楽文化というものがあったとしたら、それを間接的に伝えていた店舗は絶滅危惧種と言っても過言ではないという状況です。

 このような状況にもかかわらずディスクユニオンが事業を維持できているのは中古販売に積極的だったこと、時代のトレンドに合わせた品ぞろえを行い、ロック館、ジャズ館などのユーザーの嗜好に合わせた店舗構成を行ったこと、音楽関係を中心にした書籍刊行物などの出版を積極的に推進したことが生き残った要因ではないかと考えます。

 そして、2023年7月24日にディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストアを新宿にオープンしました。ここには常に1000枚以上のビニール・レコード(シングル・LP・ソノシート含む)、CD、カセットテープ、ゲーム関連書籍などは10000点が常時販売用に揃っています。来店者のなかには海外からの訪日客も多く、接客カウンターの後ろのパネル状に飾ったLPレコードのディスプレイを観て「全部買う!」、「欲しかったものがあった」という声もあるといいます。まさに40年目のラストマン・スタンディングがここにあったと言えます。

 もちろん、国内のゲームミュージックマニアの方の購買も多く、かつて、私のデスクの隣でK先輩が一生懸命に制作した「ドラゴンクエスト」を始めとした貴重なLPレコードも在庫があります。

 また、ディスクユニオン独自の音楽レーベルまでも設立してしまったといいます。マニアックな店舗スタッフのセレクトと、制作によりマニアックなゲームミュージックレーベル「CASSETRON」も立ち上げています。ラインナップも独自のセレクトで、「飛龍の拳」、「ドーナツドードー」などの品ぞろえです。

 大学生から新卒で社会人を経験したあのときから40年のときを経て、変わらないエンタテインメントの本質と、ディスクユニオンとディスクユニオンブックス、そしてディスクユニオン アニソン・ゲームミュージックストアを通じて、再び音楽とゲームの接点が繋がり、今回の書籍に至ったという人生の40年の旅路は、まだまだ次のステージがありそうです。

(了)

去る9月9日 店頭でトークイベントと書籍サイン会を開催させていただいたときのヒトコマ 写真提供松村氏
去る9月9日 店頭でトークイベントと書籍サイン会を開催させていただいたときのヒトコマ 写真提供松村氏

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メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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