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『R-1グランプリ2023』注目芸人は誰か、バカリズムの前年審査評「本人の要素」「人間力」がポイント

田辺ユウキ芸能ライター
イメージ画像(筆者制作)

ピン芸のナンバーワンを決めるお笑いの賞レース『R-1グランプリ2023』(カンテレ・フジテレビ系)の決勝進出者が2月11日に発表され、きょん(コットン)、都留拓也(ラパルフェ)、永見大吾(カベポスター)、田津原理音、サツマカワRPG、寺田寛明、Yes!アキトの7名がファイナリストに。3月4日の決勝戦では敗者復活1名を加え、計8名が芸を競わせる。

今大会でまずトピックスとなっているのは「『R-1』には夢があるのか問題」。これは『M-1グランプリ2022』でチャンピオンに輝いたウエストランドがネタ中「『M-1』にあって『R-1』にはないもの」として「夢」を挙げたことに端を発している。ファイナリストによる記者会見でも「夢問題」が話題となり、きょんが「優勝して、『R-1』にも夢があるんだぞと証明します」と発言するなどした。

ZAZYも意識した、「僕じゃなくて良い感」への危機

「夢があるのかどうか」も気になるところだが、もうひとつ興味深いのが、前回大会『R-1グランプリ2022』決勝のファーストステージで審査員のバカリズムが、kento fukayaのフリップ芸について「本人以外の要素があまりにも大きかった」と講評した点だ。

バカリズムはそういった小道具ほか、あらかじめ用意された音声などにボケの比重を置くことに疑問を投げかけた。同じく審査員の小籔千豊もkento fukayaのネタには「ピン芸のシステムではなかった」と同意見を口に。バカリズムは、デジタル紙芝居というフリップ系統のネタで高得点を叩き出して準優勝を飾ったZAZYにもファーストステージで86点と下から3番目の点数をつけていることから、自身の審査基準のひとつとして「本人の要素」を持っていることをうかがわせた。

筆者は『R-1グランプリ2022』終了後、ZAZYにインタビューをおこなったが、彼自身も決勝戦前から、『R-1』には「本人の要素」が重要だと考えていたという。ZAZYはこのように語っていた。

「パソコンをつないでモニターにイラストを映し出す方法に変えたとき、「僕じゃなくて良い感」がより出てしまうようになった。そうなると、パフォーマーではなくクリエイターになってしまうんです。つまり「おもしろい映像を作ってきました、どうぞ」って感じになる。あの『R-1』のファーストラウンドのネタは、僕がやれるギリギリの「本人の要素」でした。」

「映像をもっとおもしろくしようと思えばできるんです。コマ送りじゃなくてアニメも作れるし、エフェクトをかければ映像の完成度もあがる。でも映像作品としておもしろくしすぎると、芸人じゃなくなる。おもしろ映像を持ってきた人になるので。それが僕のなかでのサジ加減としてあって、「これがギリギリ、芸人やな」って。ファイナルステージのラストに自分の幼少期の写真を持ってきたのも、まさにそういうことなんです。」

Lmaga.jp:2022年3月31日掲載「芸歴10年目ZAZY、『R-1』ラストイヤーネタへの思い」より

2023年決勝は「かぶり」が少ない?

バカリズムが話した「本人の要素」は、あらためて『R-1』のポイントとして意識づけられるものがあった。

ただ、2月11日におこなわれた2023年大会の準決勝を鑑賞したうえでファイナリストの顔ぶれを見ると、フリップ、音声、既存曲など「道具」が登場したとしても、「本人の要素」の方がいずれも上回る決勝戦になるのではないだろうか。準決勝のネタが決勝戦のファーストステージ、ファイナルステージに直結する可能性が高いので、それぞれのネタ内容は明かせない。しかし、そもそも今大会のセミファイナリストは「道具」以上に「肉体性」が表立つものが多かった。つまり「本人の要素」がかなりあったのだ。

ちなみに「フリップネタかぶり」「音楽ネタかぶり」などは『R-1』決勝戦につきものだが、今回は準決勝の審査段階で、手法の「かぶり」に関してはできるだけ絞っていったように思える。手法がかぶった場合は「では、どちらがおもしろかったか」ではっきり当落を決めたのではないか(もちろん純粋に「ネタがおもしろかった」が前提にあるとして)。準決勝はフリップを使ったネタ、音楽ネタが目立ったが、そういった定番手法はかなりシビアに審査された印象である。たとえばフリップ系は2022年大会でZAZYが進化させたこともあり、よほどのアイデアがないと厳しい。

その点でも今大会の決勝は「かぶり」が少なく、例年以上にネタのバラエティに富んでいるように見え、バランスもかなり良く映る。なによりそれぞれのパーソナリティの濃さが際立つはず。

2022年大会でバカリズムから「人間力」が求められた寺田寛明

決勝戦でどういったネタが披露されるかは分からないが、筆者個人が注目したいのが、まずカベポスターの永見大吾だ。『M-1グランプリ2022』決勝戦では、1番手で「大声コンテスト」のネタを披露し、大声で叫ぶ際のワードのチョイスで笑わせた。今回の『R-1グランプリ2023』準決勝でもフレーズのおもしろさを感じさせ、決勝の舞台で爆笑を誘う光景が浮かんだ。ファーストステージの出番順も絶好の5番手だ。

コットンのきょんは、準優勝した『キングオブコント2022』で高く評価された演技力が冴え渡りそうだ。「ひとりコント」は、近年の『R-1』では2019年にゆりやんレトリィバァが優勝しているものの、苦戦傾向ではある。物語の設定と演技で観る者をどれだけ引き込めるか。出番はラストの8番手。最後にすべてをかっさらう可能性がある。

準決勝のウケ具合を見ると、優勝最有力は3年連続決勝進出となった寺田寛明ではないか。記者会見では、司会の河井ゆずる(アインシュタイン)から「寺田くんだけ個人Wi-Fiを使ってる?」とツッコまれるほど、相変わらず平場ではたどたどしいコメントを連発(それが逆に爆笑をあつめた)。塾講師という一面を持ち、これまでも勉強をからめたネタを披露してきた。ただ準決勝のネタは、アイドル好きであることや、ネタ時と平場時のギャップなど、彼のなかにあるさまざまなパーソナリティが絶妙にブレンドされているように思えた。2022年大会の決勝ではバカリズムから講評で「人間力」を求められる場面があったが、寺田寛明独自の解釈で課題がクリアされているのではないか。

『R-1』で夢をつかむのは誰なのか、3月4日の決勝戦を楽しみに待ちたい。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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