9月の出塁率は.492と好調な秋山翔吾!苦しんだ8月との差は速球への対応
シンシナティ・レッズの秋山翔吾が9月に入ってから好調だ。
9月はここまで15試合に先発して、打率.333、出塁率は.492を記録。15試合中13試合で出塁している。8月31日には打率.196と2割を切っていた打率も.241まで戻してきた。
日本では9年間で通算打率.301、出塁率.376を記録した秋山は、メジャー2ヶ月目にしていよいよ真価を発揮してきた。
2015年にはNPB新記録となるシーズン216安打を放った秋山は、ずっと順風満帆なプロ野球人生を過ごしてきたイメージがあるが、プロ1年目の2011年は打率.232、出塁率.285とプロの壁に直面した。
それでもプロの水に慣れてきた夏以降に調子を上げ、9月は16試合で打率.320を打って月間MVP候補に選ばれた。
日本で9年間活躍してきた実績と自信があったので、メジャーでは僅か1ヶ月足らずで馴染むことができた。
8月と9月の月間成績を比較してみると、秋山の適応力の高さが見えてくる。
8月:22試合先発(24試合出場)、打率.192、出塁率.280、マルチ安打1試合
9月:17試合先発(15試合出場)、打率.333、出塁率.492、マルチ安打4試合
9月の月間成績を見てみると、出塁率ではアトランタ・ブレーブスのフレディ・フリーマンが.538でメジャー・トップに立ち、.492の秋山はメジャー3位にランクインする好調ぶりだ。
「(秋山は)自信を掴み始めている。(8月までとは)顔つきが全く違うんだ」とレッズのデビッド・ベル監督も最近の秋山の好調ぶりに目を細める。
「(苦しんだ)この1ヶ月ちょっとは長く感じたかもしれないけど、まだメジャーでプレーして1ヶ月しか経っていない。その短期間でメジャーに適応できているんだから大したものだ」
秋山が8月に苦しんだ大きな要因はメジャーの速球に対応できなかったから。
「ストレートをしっかりと前に飛ばす確率が低いので、(相手)バッテリーの選択肢として変化球を交ぜる配球よりもストレート主体になってくる」
日米の投手の最も大きな違いは「球の速さ」と秋山が言うように、日本では154キロを超える速球を投げる投手は数えるほどしかないが、メジャーにはゴロゴロいる。とくに秋山は高めに伸びる速球に手を焼いていた。
課題が明確になった秋山は、ボールを上から叩いてゴロになることを反省。
レッズでプレーした1996年に44セーブを挙げてセーブ王に輝き、現在はレッズ戦の解説者を務めるジェフ・ブラントリーは秋山のスイングの修正をこう分析する。
「以前は速球に対応するためにスイングスピードを速くして、打球を引っ張ろうとしていたが、今は日本でのスイングに戻している。毎回、打球をインプレーにする必要はなく、ファールにして次のチャンスを待てばいい」
秋山の打数あたりの投球数は4.52球で、メジャー平均の3.96を大きく上回りリーグ・トップクラスの数字を残している。
8月は73打数で19三振(三振率26.0%)だったのが、9月は45打席で7三振(三振率15.5%)と三振率は半減している。
8月に三振が多かった理由を「三振増の主な原因は、右投手のストレートに対応できていないことが挙げられるでしょう。追い込まれる前にストレートを打ちにいってもとらえられず、追い込まれてからもファウルにできていない」と秋山は説明する。
その速球に対応できるようになったことで、コンタクト率も上がり、相手投手の勝負球もファールで粘りながら、甘い球を待てるようにもなってきた。
「(メジャーの)速球に慣れてきたし、相手投手の配球も分かってきた」
ファールで粘るのは意図的でない部分もあると秋山は言うが、それが良い結果を生み出していることは否定しない。
「カウントを追い込まれてから打つのが全ていいとは思わないですけど、自分が打ちたいと思うボールは、振りにいっていてもなかなか前に飛んでないので。追い込まれてから何とか、バットに当ててそれがヒットになってるのもあれば、ファウルになってるのもあるのかなと思います」
2打数に1度の割合で塁に出るようになった秋山は、9月11日の試合から1番打者に固定され、チームを7勝1敗の好成績に導いている。リードオフマンにとって最も大切な仕事は塁に出ることで、その次は相手投手に多くの球数を投げさせること。秋山はこの2つの仕事を非常に高いレベルで成し遂げている。
8月末の時点でナショナル・リーグ中地区4位だったレッズは、秋山の調子に合わせるように順位を上げ、地区2位まで浮上してきた。
「(苦しんでいた8月にも)真のプロとしての姿勢を保ち、集中して試合に臨んでいた」とベル監督が語るように、秋山は不調の中でも自分を見失うことなく、冷静に復調のきっかけを探していた。誰よりも早くフィールドに出てきて練習に励んだ。
日本ではシーズン安打数でイチローを超えたように高度な打撃技術を誇る秋山が、メジャーでも活躍するには僅かな時間と慣れ、そしてきっかけが必要だった。
そのきっかけを掴んだのは同地区のライバル球団、シカゴ・カブスに所属するダルビッシュ有から放った1本のヒットだった。
8月29日のカブス戦の第3打席に、ダルビッシュが投じた97マイル(約155キロ)の速球をファールした後、96マイル(約154キロ)の高めの速球を右前に弾き返した一打だ。
「サイ・ヤング賞級の活躍と言われている人と日本人対決という形で対戦できたのは、僕にとっても思い出に残る1日になりました。すごくいろいろな感情があった試合でした」
このヒットは日米を通じてダルビッシュから初めて放ったヒットだったが、それだけではなくメジャーの壁に苦しんでいた秋山にとっては5試合、19打席ぶりのヒットでもあった。
「ヒットを打てたということは何打席ぶり……。前の打席もエラーがついたヒットにしてくれないか、いろいろ考えているんですけど……。ダルビッシュさんから打てた1本が大きいものであるのは間違いない。うちの打線が点を取れない中、劣勢の中での1本。僕の中では記憶に残る1本になったかなと思います」
苦手にしていた高めのストレート。メジャーを代表する投手から放ったこの1本は、秋山が失っていた自信を取り戻させてくれた。
「(波に)乗り切れていないというより力がまだまだ足りないというのも感じているし、今日の1本が次の試合に向けて良いヒットになっていけばいいなと思う」と秋山は試合後に語ったように、このヒットをきっかけに波に乗り始めた。
9月9日のダルビッシュとの再戦では、ファールで粘りながら安打を放ち、メジャー初の2試合連続マルチ安打を記録。11日前の初対決のときとは明らかに違う打者だった。
「1、2打席目は両方とも2球で追い込まれてから、粘りながらというか食らいつきながら(打席に)立てた」
メジャーでのダルビッシュとの初対決の後、ダルビッシュが秋山の実力を認めたコメントをしたことも自信につながった。
強力な先発投手陣を誇るレッズなだけに、核弾頭の秋山が打線を牽引できればプレイオフでサプライズ・チームに化けるかもしれない。