24年前、夏の甲子園で対戦した投手が、球界の「レジェンド」になった!
甲子園は全ての野球人の原点だと言われる。プロ選手となっても、甲子園での試合には、特別な思いがあるという。そして先頃、甲子園で投げ合った投手が、相次いで大記録を達成した。
和田が甲子園で交流戦最多勝
「ここ(甲子園)で投げるのは、やはりいいものだと思った。(公式戦の)デーゲームで投げるのは高校時代以来なので」と、6日の阪神戦で今季4勝目を挙げたソフトバンクの左腕・和田毅(40)は語った。登板前日、「野球選手にとって憧れの場所。思い入れはある」と、甲子園に対する熱い思いも口にしていた和田は、これで交流戦最多タイの26勝となった。次回登板で単独トップの可能性もある。
石川は20年連続勝利の偉業
その2日前、ヤクルトの左腕・石川雅規(41)は、雨の神宮で熱投を見せ、今季初勝利を手にした。入団以来20年連続の勝利は、大卒投手としては史上初の快挙となる。ちなみに石川は、今季初登板となった4月16日の甲子園での阪神戦で、本職より先に20年連続安打も達成していた。2016年8月27日に通算150勝を達成したのも甲子園である。「レジェンド」の域に達したこの二人は、24年前の夏に、甲子園で対戦していた。
秋田商と浜田のエース対決
1997(平成9)年の79回選手権大会。秋田商のエース・石川と、浜田(島根)の2年生エース・和田が1回戦で激突した。県を代表する公立の名門ではあったが、スケールの大きな強豪私学と比較すれば、いかにも見劣りする。しかし、いわゆる「通」のファンの間では、「隠れ好カード」と言われていて、筆者も対戦が決まったときから楽しみにしていた。そして試合は、期待通りの熱戦となる。
大投手になるとは想像できなかった
手元にある当時の試合映像を見返すと、和田の凛々しい表情と石川の投球フォームは、現在と全く変わらない。しかし、和田の投法は、今より上から腕が出ていて、体に負担がかかっているように思う。一方の石川は、表情が非常に幼く、ユニフォームがだぶついているようにも映る。はっきり言って、この二人が、プロで大投手になるとは想像できなかった。いわゆる「甲子園の好投手」で終わると思っていた人が大半ではなかったか。
ミスの連鎖で浜田が同点許す
両投手の好投で、終盤まで1点を争う好試合は、守備の乱れで秋田商が8回に1点を献上し、3-1と浜田優勢のまま9回裏に。3、4番の連打で好機を迎えた秋田商は、同点狙いで5番打者が絶妙の送りバント。三塁線から和田が一塁へ悪送球し、バックアップした右翼手が三塁へさらに悪送球。そこまで鉄壁を誇ってきた浜田に痛すぎるミスの連鎖が起こり、一気に同点となった。
和田が石川に押し出しでサヨナラ
やむなく浜田は満塁策に出て、押せ押せムードの秋田商。アルプスからは、伝統の「タイガーラグ」が演奏される。ここで石川が打席へ。スクイズの構えを見せるなど揺さぶりをかけるが、疲れと動揺からか、和田はストライクが全く入らず、あっさり押し出しの四球を与えてしまった。逆転サヨナラという劇的な結末。試合後、秋田商の校歌がなかなか演奏されなかったことも印象的だった。
下級生投手がつかまるパターン
高校野球的な見方をすれば、勝ち急いだ下級生投手が9回につかまる典型的なパターン。また先攻後攻が入れ替わっていたら、同じ状況でも満塁策はとらないので、さらにもつれる可能性はあった。勝敗はともかく、1回戦としてはかなりの熱戦で、両投手の力投も、その後に期待を抱かせる内容だった。この悔しさをバネに、和田は翌夏の甲子園で、8強まで進む。
もう一度「レジェンド対決」を
石川は青山学院大で、1歳下の和田は早大で活躍し、自由枠でプロへ進んだ。ともに、入団1年目に新人王を獲得し、6月7日現在、石川は、現役最多の174勝、和田は147勝(MLB5勝含む)を挙げている。この両者はプロで一度だけ、マッチアップがあった。交流戦導入1年目の2005年。このときは、和田が完投勝利を挙げ、甲子園の「リベンジ」を果たしている。今季の交流戦では不可能に近いが、いつの日か、もう一度「レジェンド対決」を見たいものだ。