「日本なら1200万円の住宅だ」金正恩の"自画自賛"を国民は嘲笑
最近の北朝鮮国営メディアには、新たな住宅が建設され、入居が始まったという記事が多い。
例えば朝鮮中央通信は10月26日付の記事で、黄海北道(ファンヘブクト)の新坪(シンピョン)郡で「山間地帯の特性に即して設計された多様な形式の平屋、低層の住宅」の入居が開始されたとし、「全国の津々浦々が社会主義文明開化の新たな生活で躍動する激動の時代に建設された農業勤労者の幸福の住まい」だと自画自賛している。
こんな当局のプロパガンダを、地域住民は嘲笑している。黄海南道(ファンヘナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)
碧城(ピョクソン)郡の農場では毎朝、金正恩総書記の発言が掲載された資料を読み込む学習が行われている。「地方発展20×10政策」で、この世の誰も羨ましいと思わないほどの暮らしが10年以内にやってくるというもので、その実例として農村住宅が挙げられた。例えば、このような具合だ。
「元帥様(金正恩氏)が昨年9月にロシアを訪問した後、農村住宅においてはわが国(北朝鮮)の方がいいと評価した」
金正恩氏は、列車に乗って平壌に戻る途中に、車窓から見える農村住宅に非常に満足して、「今後、わが国の人民が外国に行く際には列車に乗せて、他の国の農村はどのような状況であるかを見せよ」と指示したとのことだ。
金正恩氏は、実際にそのような発言を行ったのかは不明だが、当局には農村住宅、さらには農村そのもののイメージ工場を図る意図があるものと思われる。
ところが、話がこのくだりに差し掛かるや、人民の間から非難の声が上がりだした。
「あなたがたは国のために何もしていないが、わが党の配慮で新しい住宅に入居できることになった」
これに農民からはこんな反応が返ってきた。
「もう聞き飽きた」
「何もしていないとはどういうことだ。1年中、無報酬の労働をさせているくせに」
北朝鮮は、国民全員を建設工事、道路掃除など様々な理由で駆り出す。もちろん報酬は払われない。また、金品の供出も頻繁にある。それなのに「何もしていない」扱いされれば、怒るのは当然だろう。
さらにこんな発言が農民を呆れさせた。
「わが党が平凡な農民に建ててやった住宅は、ロシアでは7万ドル(約1078万円)、日本では8万ドル(約1232円)するだろう」
土のレンガで建てた家が7〜8万ドルもするとは、話にもならないというのが、情報筋の反応だ。
「ここ(北朝鮮)で、住宅需要は市内中心部に集中している。市内の住宅の一般的な価格はロケーションと条件によって2000ドル(約30万8000円)から2万ドル(約308万円)ほどで、農村では1000ドル(約15万4000円)にも満たないことが多い」
北朝鮮では、土地や建物はすべて国の所有で、個人間の売買は禁止されているが、実際には不動産市場が存在する。自宅にどれくらいの価値があるかわかっているようだ。いくら新築住宅でも、農村部にあるものが、市内中心部の高級マンションの何倍もすることは、絶対にありえないのだ。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
今回の農村住宅は、国からただで得られるが、高価なものを提供してやっていると主張するために、非現実的な価格を示すことが頭にきたようだ。
「毎朝、宮殿のような現代式住宅だという宣言を聞かされたが、水、電気、暖房など基本的な設備もない宮殿がどこにあるのか」
「郡や里が労働力を動員して資材を確保し、見かけは悪くない土の家を建てたが、党と首領バンザイを叫び、この世に羨むものなしと、幸せに暮らしている様子を演出するのに嫌気が差す」
北朝鮮の新築住宅では、内装工事などが行われていない状態で、入居者に引き渡される。残りは入居者がやることになるが、その費用も決して安くない。まもなく冬が到来するため、いくらお金がなくても、最低限の内装工事を行って、寒さに耐えられるほどにしなければならない。