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一番星が見えたらクリスマス:心理学から見たクリぼっちと「夜の物語」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:クリスマスの星空)(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

<クリスマスが辛い、嫌いと思う人のために、クリスマスはある。>

■クリスマスの夜

12月24日の日が沈み、一番星が出ると、ユダヤでは12月25日が始まります。だから、「クリスマスの夜」(クリスマス・イブニング、クリスマスイブ)は、現代の暦では12月24日の夜になります。

夜から一日が始まるというのは、ちょっとピンときませんが、クリスマスは「夜の物語」かもしれません。

多くの降誕劇(イエス・キリスト誕生の劇)では、夜、羊飼いが野宿をしていると、夜空に天使が現れて、救い主の誕生を知らせる歌を歌い始めるという場面から始まります。

(提供:写真AC)
(提供:写真AC)

3人の「東方の博士」たちが、イエス・キリストを訪問するのも、「星に導かれて」ですから、夜の物語です。

クリスマスのイルミネーションも、サンタクロースも、活躍するのは、夜ですね。

■冬至の時期のクリスマス

クリスマスは、イエス・キリストの誕生日ではありません。羊飼いは冬の夜に野宿しないからです。クリスマス(クライスト・マス:キリスト祭)は、冬至の時期に行われてきた、キリスト誕生記念祭です。

古代ローマでは、太陽の力が一番弱まる冬至の時期に太陽神の祭りが行われていました。これに対して、キリスト教徒たちは、太陽を拝むのではなく、太陽を作られた真実の神を礼拝しようと主張し、夜が一番長いこの時期にクリスマスをはじめました。

■2000前のユダヤ

ユダヤ人たちは、誇り高き民族です。神に選ばれたという選民思想を持っています。そのユダヤの国はローマ帝国に支配され、属国の地位に甘んじていました。これは、屈辱です。

さらに、国を導く宗教的指導者である預言者も、この数百年大した人は登場していません。2000年前のユダヤは、まさに夜の時期を迎えていました。

■羊飼い東方の博士たち

当時のユダヤでは、羊飼いはとても社会的地位の低い人たちでした。家畜の世話をするためには、宗教的律法である安息日も守れなかったからです。彼らは、日陰者、夜の人々です。

東方の博士たちは、どこの国なのかははっきりしませんが(多分、現在のペルシャのあたり)、ユダヤ人から見れば「異邦人」であり、自分たちよりも一段低いとされる外国人です。

けれども、聖書の記述によれば、このようなユダヤ人から見下されていた人たちに、救い主の誕生が知らされたとされています。

■商業化したクリスマス

クリスマスは、最も成功した行事の一つかもしれません。世界各地で、クリスマスはお祝いされ続けています。キリスト教人口がたったの1%の日本でも(インドだって2%なのに)、クリスマスの行事があちこちで行われています。

いろんなお店が、クリスマスだから、チキンを買いましょうとか、ワインを買いましょうと、宣伝しています。デパートも、商店街も、クリスマスの飾り付けをしています。

■クリスマスが辛い、嫌い

クリスマスが派手になったからこそ、クリスマスはみんなが幸せそうだからこそ、だからクリスマスは辛い、嫌いという人もいます。

有名なところでは、ディケンズの『クリスマスキャロル』の主人公、スクルージです。今年話題になっているのは、大泉洋さんが吹き声をするアニメ映画『グリンチ』ですね。

現代でも、欧米のクリスマスは日本のお正月のように家族みんなが集まる時期なので、この時期に心が苦しくなる「クリスマスうつ」などという言葉もあります。

日本でも、数年前から「クリぼっち」が話題になりました。クリスマスを一緒に過ごす家族も恋人も親友もいない、ひとりぼっちのクリスマスです。

心理学的に考えれば、私たちの感覚は、いつも比較から生まれます。みんながハッピーだと、自分の惨めさを強く感じますし、どん底の暗闇の中だからこそ、希望の光が見えることもあります。

(写真提供:写真AC)
(写真提供:写真AC)

■本当のクリスマスは

クリスマスは夜の物語です。2000年前の、世界で初めのクリスマスも、社会的地位が高い人、金持ち、派手好き、リア充の人には、関係のないものでした。

クリスマスは、むしろ泣いている人のためのものです。

イエス・キリストは、差別されている人々のところに訪問して食事を共にしているのですが、社会的地位の高いリア中の人たちから、「なぜ、あんな人たちのところへ行くのか」と非難されます。キリストは答えます。「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく、病人です」。

キリストは、病気の人、飢えている人、泣いている人、孤独な人のために来たと語っています。賑やかなクリスマスよりも、静かなクリスマスの方が、本当のクリスマスに近いのかもしれません。

スクルージも、グリンチも、みんなの嫌われ者でしたが、どちらも自分の本心に気づきます。

自分も愛されている、自分も人を愛することができる。愛することは、自分の幸せになると。

・・・もっとも、落ち込んでいると、こんな真面目な話など聞きたくないと思うこともあるものです。クリスマスイブの今日、ヤフーニュースのトップページに、「上馬(かみうま)キリスト教会のツイッター公式アカウント」を朝日新聞の記者が取材した記事が掲載されていました。

「破壊力抜群の自虐」ツイートとか、クリスマスのツイートで、「イチャイチャすんなよ」なんてツイートが紹介されています。でも、ただふざけているのではなく、おふざけツイートと見られる発信の中に、きちんと真面目なメッセージが潜んでいます。

記事は、「『ゆるさ』の中の真面目さが、人気の秘密なのかもしれません」と結んでいます。イエス・キリストも、実はユーモラスな人だったと考える神学者もいます。

イエスのもとには、差別されている人々や、子供達が寄って来たという聖書の記述もあります。偉そうに威張っている人、真面目だけで冷たくて固そうな人には、このような人々は寄ってこないでしょう。

真面目なだけでは、聞きたくない。盛り上がっているだけでは、ついていけない。そう感じている人は、実はたくさんいると思います。クリぼっちは、クリスマスだけの問題ではありません。孤独、引きこもり、無縁者、自殺、そんな問題が飛び交う現代社会の問題なのでしょう。

クリスマスは、夜の物語であり、同時に暗闇にかすかに輝いた光の物語です。クリスマスは、私たちの心を癒し、愛を思い出す日なのでしょう。

上馬教会のクリスマスツイート

☆We wish you a Merry Christmas,And a Happy New Year.

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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