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【獣医師からの提案】譲渡先で“子猫虐待事件” 危険な目に遭わないための二つの条件

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

2023年5月、沖縄県うるま市に住む20代男性が預かった子猫2匹を虐待したとして、器物損害や動物愛護法違反の罪で書類送検されました。この男性の卑劣な行動に対し、ネット上には非難の声が殺到しました。こういった犬や猫の譲渡の際に、虐待事件が稀に発生してしまうことは、動物愛護活動を行う上での課題になっていますと、SPA!は伝えています。

保護猫活動をしている人はできれば全部の野良の子猫を飼いたいのです。しかし、現実は、飼えきれないほど多数の子猫がいるので、譲渡をする必要があるのです。慎重に譲渡しているのですが、それでもこのような悪質な事件が起こってしまうのです。そこで、臨床獣医師から、子猫が危険な目に遭わないための二つの条件を提案します。

子猫の譲渡の条件は、猫を飼ったことのある人

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イメージ写真写真:イメージマート

生まれてから2カ月前後までの幼い子は、動物保護団体から譲渡に出されることはあまりありません。動物愛護活動をしている人は、ミルクからキャットフードが食べられるようになった離乳期が終わった生後2カ月以降の猫を里親に出します。

子猫は、生後2カ月から生後10カ月ぐらいの猫とします(1歳ぐらいまでにするところもありますが)。

子猫は、成猫より飼うのはやはり難しいのです。離乳が済んだ子猫でもまだ体重が2キロになっていない子は以下のような問題点があります。

・体温調節がうまくいかない

・下痢が続いて食べないと低血糖になる可能性がある

・免疫力が弱い

・寒さ暑さで体調を崩しやすい

初めて猫を飼った場合、食欲がないけれど少し様子を見ようと考える人もいます。しかし、子猫の場合はそれが命の危険につながることもあります。猫を飼ったことのない人は、どれが正常かそうではないかということが見極めにくいのです。そのため、子猫を譲渡する場合は、猫を飼ったことのある人がいいです。

子猫の譲渡の条件は、動物病院に行ったことのある人

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イメージ写真写真:イメージマート

筆者の病院に通っている飼い主のKさんは、ミニチュアダックスフンドのマロちゃんを17歳まで飼われていました。マロちゃんは心臓病、腎臓病、そして口内炎などを持っていたのですが、Kさんは寿命だからと諦めることはしませんでした。

飼い主のなかには、犬の平均寿命が約14歳なので、この年になると治療を希望しない人もいます。しかし、Kさんはマロちゃんが嫌がらない範囲で、懸命に治療を希望されました。Kさんは「今日はいままで以上に歯が痛そう」「食欲がない」などマロちゃんの様子を見ながら報告しました。それに合わせ筆者は治療をしました。

マロちゃんは、Kさんに見守られてあちらに逝きました。そんなKさんのところでは、マロちゃんが死んでから数年して保護犬を飼いました。Kさんは、以前から今度飼うのなら保護犬をと言われていました。

そして、Kさんが気にいった保護犬が見つかりました。その犬を保護する団体から、Kさんについての問い合わせがありました。筆者は、事前にKさんから保護犬を飼うことを聞いていたので、Kさんは愛情深い飼い主であることを説明しました。

Kさんは、定期的に元保護犬を連れて来ますが、幼いときから飼っていたように、Kさんとその子は深い絆で結ばれています。

つまりいまや猫の平均寿命が約15年あるので、ペットを飼っていれば全く動物病院に行かなかったことは考えにくいです。猫を飼っていた人であれば、動物病院に通っています。一般的に猫は、若いときはあまり病気をしませんが、腎不全になりやすい動物なので、高齢になれば通っていることが多いです。

以前、猫を飼っていたなら、かかりつけの動物病院があるはずなので、それを尋ねることもおすすめです。

まとめ

保護猫や保護犬は、里親のところで虐待に遭うことはゼロではありません。そのなかでも、特に子猫は沖縄県うるま市のような悲惨な事件は起こりやすいのです。

信じたくはないですが、人間のなかには自分より弱いものを虐待したい人もいるようです。子猫は成猫ほど歯向かってくることが少ないので、虐待がしやすいのでしょう。

そんなことを考慮すると子猫を譲渡するときは、より慎重にしてほしいです。上述の二つの条件を入れていただくと、子猫の虐待事件は減る可能性があります。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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