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「猫を飼うと統合失調症リスクが高まる」は本当か?

いわさきはるかサイエンスライター
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2023年12月、「猫を飼っていると統合失調症リスクが約2倍になる」という研究が発表され、様々な記事に取り上げられていました。このような記事を目にして、猫を飼うことに不安を覚えた人もいるかもしれません。私もその1人です。

しかし、実はよく調べてみると本当に猫だけが要因なのかよくわからない点も多くあります。そこで、この記事では猫と統合失調症の関係について、様々な論文や調査をまとめてみました。

なぜ猫が統合失調症に関係すると言われるのか、猫を飼うことは本当に統合失調症のリスクを高めるのか、わかりやすく説明していきますので、ぜひ読んでみてくださいね。

猫と統合失調症の関係

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そもそもなぜ猫を飼うことが統合失調症の発症と関係すると言われているのでしょうか?

原因は猫を宿主とする寄生虫、トキソプラズマです。トキソプラズマに感染すると、統合失調症のリスクが2.7倍になるという報告があり、その宿主である猫が統合失調症の要因として取りざたされるようになりました。

トキソプラズマはヒトはもちろん、ブタ、ヤギ、ネズミ、ニワトリなど多くの動物を宿主にします。その中でもなぜ猫が注目されたかといえば、猫がトキソプラズマの終宿主、つまりトキソプラズマの「卵」を排出する役割を担っているためです。

ブタなどの動物にいるトキソプラズマは加熱によって死んでしまうため生肉を食べない限り感染することはありませんが、猫が排出するトキソプラズマの「卵」は数か月に渡って生き延びることができ、猫の糞便の処理などをきっかけに人の体に入り込みます。

猫は肛門を舐め、そのまま体の他の部分を舐めることがありますので、猫と接触するだけでもトキソプラズマが手につく可能性があります。その手を洗わずに食事などをとれば経口感染につながるかもしれません。

このように猫を飼っているとトキソプラズマに感染する可能性は高くなります。しかしだからといって、猫を飼っていると必ずトキソプラズマに感染し、統合失調症リスクが上がるというのは言い過ぎかもしれません。

猫を飼うと必ずトキソプラズマに感染する?

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そもそも室内飼いの猫がトキソプラズマに感染している割合は5%程度と言われています。さらに猫がトキソプラズマの「卵」を大量に排出するのは感染してから数週間ほどの期間のみなのだそうです。その後は猫の免疫機能の変化などによって少量排出することはありますが、かなり感染リスクが下がります。

また、猫がトキソプラズマに感染するのはネズミや小鳥などを食べたときです。このため、離乳前から飼い猫の場合は感染リスクはかなり低いと言えます。野良猫出身であっても、完全室内飼いで、生肉を定常的に与えたりしていない限りは数か月でリスクはかなり少なくなります。

「猫を飼うと統合失調症リスクが2倍」のからくり

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冒頭に書いた12月に発表された研究は、1980年1月1日から 2023年5月30日までの間に行われた猫と統合失調症に関する研究を統合し、分析したものです。

この研究は複数の研究をまとめたものであるため、「猫との接触」の定義はかなり広く、猫を飼っていなくても猫に噛まれたことがある人、猫とふれあったことがある人が含まれます。飼い猫だけではなくネズミや小鳥を食べることが多い野良猫との接触も含まれていればトキソプラズマ感染のリスクが高くなるのは当然です。ですがそれは「猫を飼うと」という条件とは大きく異なります。

また、猫以外の要素が全く言及されていない点も気になります。例えば、統合失調症は遺伝性が高く、両親のどちらかが統合失調症の場合、そのリスクは10倍以上にもなります。猫を飼っている家の子どもが統合失調症になった場合でも、その血縁者が統合失調症なら話は全く変わってくるはずです。遺伝以外も統合失調症のリスク因子は多岐にわたるため「猫を飼うか飼わないか以外の条件をそろえないと統計的な調査の意味をなさないのでは」というのが私の考えです。

トキソプラズマのリスクを減らす努力はできる

とはいえ、猫が持つトキソプラズマが統合失調症のリスクの一因であることは事実ですから、なるべくなら気を付けたいものです。

トキソプラズマは接触感染ではなく経口感染するものです。普段からトイレの始末のあとに手洗いをし、猫とのキスを避けたり、食事のときは猫を触らないようにしたりすることで感染のリスクを減らすことができます。

猫と一緒に元気に暮らしていくためにも感染リスクを減らす行動を心掛けるようにしたいですね。

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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