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やっぱり強い藤井聡太竜王、苦戦をしのいで2勝目! 竜王戦七番勝負第3局で広瀬章人挑戦者を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月28日・29日。静岡県富士宮市「割烹旅館 たちばな」において第35期竜王戦七番勝負第3局▲広瀬章人挑戦者(35歳)-△藤井聡太竜王(20歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 28日9時に始まった対局は29日17時17分に終局。結果は112手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで藤井2勝、広瀬1勝。第4局は11月8日・9日、京都府福知山市・福知山城天守閣でおこなわれます。

 2日制のタイトル戦では特に無類の強さを誇る藤井竜王。今期竜王戦でもこのまま走るのでしょうか。

 藤井竜王の今年度成績は20勝5敗(勝率0.800)となりました。

1日目、広瀬挑戦者がペースをつかむ

 両対局者にとって、富士宮は初めて訪れる地でした。

藤井「対局室から本当に、富士山がすごく大きく見ることができて。とてもよいところで対局させていただいたな、というふうに思っています」

 第1局、第2局の戦型は角換わり。本局は広瀬挑戦者先手で、相掛かりに進みました。

広瀬「まあ作戦というか。同型になるんですけど。先後。ちょっと前にやったこともあって。まあちょっともう一回やってみようかなと思いまして」

 単純に相手の指し手を真似る「オウム指し」ではなく、相掛かりにおける現代最先端の序盤戦術を前提にした細かい駆け引きの末に、40手目の時点では先後同型です。そこから広瀬挑戦者が角交換して、両者の布陣に少しだけ違いが生じました。

藤井「相掛かりから駒組になって。バランスが取れればと思っていたんですけど」

 1日目昼食休憩前の53手目。広瀬挑戦者は4筋で歩を突っかけます。これが意表の動き方でした。以下は手詰まり模様を打開した広瀬挑戦者が4筋の位を取ることに成功し、ペースをつかんでいきます。

広瀬「どう打開するかというところで▲4五歩と。まあ、あんまりない筋だと思うんですけど。まあでもちょっとずつ駒が前に進んでいきそうなので。まあひょっとしたら模様がよくなっている。数手進んだら、模様はよくなっている気はしていて」

藤井「▲4五歩と突かれてくるのがちょっと見えていなかった手で。ちょっとそうですね。そこまで進んでみると、なんか、こちらの主張がなくなってしまって。失敗してしまったのかなと思っていました」

 藤井竜王は端1筋から突っかけて揺さぶりをかけます。対して広瀬挑戦者は桂を打ってしっかり受け止めました。

藤井「本局は駒組の段階でちょっと形勢を損ねてしまって。かなり苦しい時間が長い将棋だったのかな、と思います」

 苦しくしてしまったと感じていたという藤井竜王。あと十数分で1日目も指し掛けという時間帯に72手目を指して、相手に封じ手を委ねました。難しそうな局面ですが18時、広瀬挑戦者はすぐに73手目を封じる意思を示して、1日目が終わりました。

2日目、昼食休憩後に流れが変わる

 明けて2日目開始。広瀬挑戦者の封じ手は1筋の歩を伸ばす自然な一手でした。じっとしていては苦しくなる藤井竜王。ここからさらに積極的に動いていきます。

藤井「1日目の封じ手のあたりで、確かに苦しくしてしまったかなと思っていたんですけど。そのあとはちょっとこちらは、なんというか、やっていかざるをえない形なので。ちょっと本譜も、無理気味だとは思ったんですけど。仕方ないのかなと思って進めていました」

広瀬「1日目から2日目の午前中ぐらいまでは、調子よく進めていたのかなと思ったんですけど」

 84手目。藤井竜王は7筋で歩を突っかけます。

藤井「7筋から攻めていったんですけど、反動の大きな形なので、ちょっと苦しいのかなと思っていました」

 持ち時間8時間のうち、残りは広瀬4時間19分、藤井2時間13分。形勢も時間もリードしていた広瀬挑戦者は、ここで長考に沈みます。主な選択肢は2つあって、1つは相手の桂を取る手。もう1つは、突っかけられてきた歩を取る手。広瀬挑戦者の手番のまま、12時30分、昼食休憩に入りました。

 藤井竜王は1日目、広瀬八段は2日目の昼に、地元名物の「富士宮やきそば」を選んでいます。昼食休憩の間にも、広瀬挑戦者は考え続けていました。

 13時30分、対局再開。そこで広瀬挑戦者が選んだ手から、流れは次第に変わっていきます。

 13時30分、対局再開。広瀬挑戦者はさらに考え続けます。そして選んだのは、歩を取る順でした。局後、広瀬挑戦者はこの手を悔やんでいます。

広瀬「▲6五歩と(桂を)取る手はなかったですかね。というか、たぶんそう指すべきだったんじゃないかと思うんですけど」「こう取ったらどうでしたかね。▲6五歩取ったら△6六歩ですか」

藤井「あ、はい」

広瀬「△6六歩▲同銀△同角、まあ6八か6七に香車を打つような手が、自分の中では最有力だったんですけど。どうでしょうか(笑)。正直言うと、こっちを指す可能性の方が高かったんですけど。ちょっとお昼をいただいてるうちに、いろいろ迷いが生じまして(笑)。これも有力だったんじゃないかなと思います。どうですか、藤井さん」

藤井「はい、そうですね。これも自信がなかったです」

広瀬「ちょっと不透明なところもあったので、最終的に見送ってしまったんですけど。自分の中ではこの変化を選ぶべきであったかなと思います」

 将棋の対局で食事休憩のあとに流れが変わるのは、しばしばあることです。広瀬挑戦者が選んだのは次善手でした。

藤井竜王、絶妙の返し技で逆転

 89手目。広瀬挑戦者は歩を打って藤井玉に迫ります。

 広瀬「ちょっとここで▲6四歩たたいたのは、よくなかったんでしょうね。おそらく」「ここは軌道修正する最後のチャンスの局面だったかなと思いまして。この次の一手の局面がけっこう重要だったかもしれないです」

 91手目。広瀬挑戦者はここで自陣に手を戻しておけば、まだ優位をキープできてきたかもしれません。本譜は藤井陣に角を打ち込んで攻めました。これが飛銀両取り。一見決まったかと思われる局面で、藤井竜王が飛車を走ったのが素晴らしい返し技でした。

広瀬「▲7五飛車走る手は見えてはいたんですけど、思ったよりも難敵だったというか。ちょっと認識が甘かったですね。はい」

藤井「▲7五飛車から▲7七歩と打って。こちらの攻めの手番が来る展開になったので、ちょっと、そのあたりは少し、難しくなったかなと思っていました」

★藤井竜王、逆転で2勝目

 藤井竜王は逆転で優位に立つと、あとはいつも通り、攻守ともに正確きわまりない指し回しでリードを広げていきます。

 広瀬八段は形を作り、自玉が詰まされるまで指して投了。112手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 終局後、両対局者は大盤解説場に移動。ファンを前にして壇上に立ちました。

広瀬「私はおやつは4回全部いただきまして。目標は達成したんですけれども。ちょっとそちらの方に神経が行き過ぎてしまったのかなと思います(笑)。将棋の結果以外は非常に満足するタイトル戦だったので(会場から拍手)。はい、ありがとうございます」

藤井「ここまで3局、内容としては苦しい将棋が続いてしまっていますので。第4局以降、内容をよくしていけるようにがんばっていきたいと思います」

広瀬「実はけっこう、この将棋を負けてしまったことは、早くも引きずっているんですけれども(会場笑)。このままではちょっといけないので、まず精神的に立ち直ることから始めて。第4局までに幸い少しだけ期間が空きますので。またそうですね。本局以上の熱戦をお見せできればなと思っています」

 両者の通算対戦成績は藤井7勝、広瀬2勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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