ロジャー・クレメンスの後輩。169キロを計測したテキサス強豪短大所属の19歳左腕、リトルとは何者か?
テキサス州のヒューストン近郊に在るサンジャシント短期大学の2年生、19歳の左腕、リーク・リトルがブルペン投球で105マイル(約169.0キロ)を計測して、全米の野球ファンを驚愕させている。
まずは、リトルがツイッターに挙げて、すでに15万回以上も再生されている105マイルの映像を観てみよう。
リトルは2週間前に102マイル(約164.2キロ)、その数日後には103マイル(約165.8キロ)と自己最速を更新。そして、ついに105マイルを出して、アロルディス・チャップマン(ニューヨーク・ヤンキース)とジョーダン・ヒックス(セントルイス・カージナルス)が持つ人類最速の105.1マイル(約169.1キロ)に迫った。
世界中の野球ファンから注目を浴びるルーク・リトルとは何者なのだろうか?
身長203センチ、体重108キロと大柄なリトルはノースカロライナ州出身の19歳。高校のジュニア(日本の高校2年生)では最速86マイル(約138.4キロ)、シニア(日本の高校3年生)では89マイル(約143.2キロ)と平凡で、春にはスランプに陥って80マイル前半しか出ない試合もあった。
サウスカロライナ大学からの勧誘を受けたが、まずは自分を鍛え直すために、過去に何人ものエリート剛速球投手を育ててきたテキサス州のサンジャシント短期大学に進学。
高校時代は打撃も評価された二刀流選手だったが、短大ではバットを捨てて投球一本に専念。腕の力に頼って力任せ投げていたフォームを下半身の力を使うフォームに改善され、短大1年時に速球が90マイル後半までアップ。本人は先発に強い思いを持つが、リリーフも経験することで、さらに球速がアップした。
短大入学時、1年先輩にジャクソン・ラトレッジがいたものリトルの成長に役立った。
リトルと同じく身長203センチのラトレッジは体重113キロとNFL選手のような巨体を誇る右腕。高校卒業後はアーカンソー大学で1年間プレーしたが、投手育成に定評があるサンジャシント短大に転向してきた。
アーカンソー大学では苦しんだラトレッジだが、サンジャシント短大では最速99マイル(約159.3キロ)を誇る全米屈指の投手に成長。昨夏のMLB新人ドラフトではワシントン・ナショナルズから1巡目全体17位で指名された。今年度のMLB公式サイトのプロスペクト・ランキングではナショナルズの3位(投手ではトップ)に選ばれ、ナショナルズの将来のエース候補と期待される逸材。
「(ラトレッジからは)マウンド上でのふるまいと投球に対する姿勢を学んだ。昨季は先発した試合で、強い気持ちで投げるのではなく、ただなんとなく投げただけだった」と語るリトルは、ボールを投げる存在から投手へと変貌。
「今季は強い気持ちを持ちながら、考えながら投げることができた」
短大1年目は先発とリリーフの両方で起用され、35.1イニングを投げて69奪三振、36四球を与え、防御率は2.04だった。2年目は先発に定着するはずだったが、背中を痛めたためにリリーフとしてシーズンをスタート。4試合、9イニングを投げて17奪三振、3与四球と課題だった制球力も改善され、シーズン半ばからは先発に戻るはずだったが、コロナ禍でシーズンは打ち切りとなった。
100マイルを超えるフォーシームに、スライダー、シンカー、チェンジアップ、カーブを投げるリトルは、「僕の最大の長所はアウトを取る能力。誰からでもアウトを取れる」と投球能力に自信をみせる。
サンジャシント短大にはドラフト候補生の投手が大勢おり、そんな投手たちと切磋琢磨することで大きく成長している。
サンジャシント短大はエリート投手を多数生み出してきた2年制短期大学として、メジャーのスカウト界からは高い評価を受けている。
何人ものドラフト指名選手を排出したサンジャシント短大の最大のヒットは、ロジャー・クレメンスだ。
ヒューストンの高校を卒業したクレメンスは、自宅から通えるサンジャシント短大に進学。1年目は9勝2敗の成績を残し、その年のドラフトではニューヨーク・メッツから12巡目で指名されたが入団を拒否してテキサス大学に進学。テキサス大学をカレッジ・ワールドシリーズ優勝に導き、1983年のドラフト1巡目全体19位指名を受けてボストン・レッドソックスに入団した。
メジャーでは歴代最多の7度のサイ・ヤング賞に輝いた名投手である。
そのクレメンスとヤンキースで一緒にプレーしたアンディ・ペティートは、クレメンスと入れ違いでサンジャシント短大に入学。
ヒューストン近郊の高校を卒業した1990年のドラフトでヤンキースから22巡目で指名されたが、「左のクレメンス」と評価したウェイン・グラハム監督が指導するサンジャシント短大進学を選択。ヤンキースはドラフト指名権を1年間保持して、サンジャシント短大での1シーズン目を終えた直後に契約金を倍増してペティートの獲得に成功した。
ペティートはヤンキース生え抜きの左腕エースとして5度のワールドチャンピオンに貢献。プレーオフでの通算19勝はメジャー1位で、背番号46はヤンキースの永久欠番にもなっている。
1981年にサンジャシント短大野球部の指揮官に就任したグラハム監督は元メジャーリーガーだが、2年間で合計30試合、メジャー通算7安打しか記録できずにメジャーに定着はできなかった。
現役引退後はテキサス大学に戻って体育教師としての資格をとると、最初の10年間はヒューストンの高校の野球部の監督を務めた。
サンジャシント短大では1984年に初めて短大ワールドシリーズに出場して準優勝を飾る。翌85年からは短大ワールドシリーズ3連覇を達成。6年間で5度の短大全米1に導き、全米最高の短大野球部としての評価を得た。
グラハム監督は1992年にライス大学に引き抜かれたが、サンジャシント短大はグラハム監督が築き上げた強豪チームとしての地位を保ち、今でも多くの有望選手をメジャーリーグに供給している。2017年は3選手、18年も4選手がドラフト指名を受けた。
105マイルの豪速球を誇るリトルは、この数週間で大学野球マニアとスカウトだけが知る存在から、世界中の野球ファンが注目するアマチュア投手となった。本人はラトレッジに次ぐドラフト1巡目でのプロ入りを望んでいるが、もしも希望する契約条件を得られない場合にはサウスカロライナ大学へ転入すると明言している。4月下旬時点でのドラフト予想では3巡目指名と予想されたが、105マイルを投げたことで注目度も評価も急上昇中だ。
今年のMLB新人ドラフトは7月10日に行われるが、それまでにリトルがチャップマンとヒックスが持つ105.1マイルの世界記録を塗り替える可能性は高い。ただし、チャップマンとヒックスは公式戦で計測した「ギネス世界記録」であり、コロナ禍で公式戦ができないリトルがいくら速い球を投げても参考記録でしかない。
リトルが試合で105.2マイル超えの速球を投げる姿を見るためにも、新型コロナウイルス感染には早く収束してもらいたい。