浦和レッズ対FCソウルは、DFがFWで、FWがDF!? ACLとは異種格闘技戦である。
ACL(アジア・チャンピオンズリーグ)の面白さは、異文化の衝突にある。
同じサッカーではあるが、国が違うと、プレースタイルが大きく異なる。分かりやすいところでは、韓国のチームは、試合の終盤に2メートル級の長身選手を入れて、空中からパワープレーを仕掛けて来るのが常套手段だ。
18日に行われたACL決勝ラウンド16の第1戦、浦和レッズ対FCソウルは、1-0で浦和が勝利した。
浦和と対戦したFCソウルも、1点ビハインドを追いかける後半26分に197センチの大型センターバック、DFシム・ウヨンを投入し、パワープレーを仕掛けてきた。元々はFWの選手だが、2011年からDFにコンバートされている。
ソウルはこの長身DFを最前線に置いてパワープレーを仕掛けてきたが、一方の浦和も、無策ではない。FWのズラタンを最終ラインに下げて対抗した。ソウルはDFがFWになり、それを浦和は、FWがDFになってマークする。普段のJリーグではなかなか見かけない光景だったが、浦和もソウルの武器に対して、総力戦で立ち向かった。
DF那須大亮が出場停止、永田充や加賀健一も怪我で出場できず、駒不足。さらにウイングのMF関根貴大が終盤に足をつったため、DFではなくMF梅崎司を投入し、パワープレーに対してはズラタンを下げてマークさせる判断に至ったと、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は試合後に説明した。
うまくやり繰りしたとも言えるが、しかし、FWをDFに見立てるのはリスクもある。後半アディショナルタイムには、浦和のペナルティーエリアでボールを拾ったソウルの選手に、ズラタンが背後からタックルに行った。結果的にはうまくボールを奪い取ったが、下手をすればPKを取られかねない危険なチャレンジでもある。正直、ヒヤッとした。
本職ではない選手がDFになると、どうしてもこのようなリスクは避けられないが、しかし、中盤が瀕した状況を鑑みれば、DFの投入に交代カードを使える場面ではない。DFズラタンというペトロヴィッチの“奇策”は、シビれる勝負師の一手だった。
このギリギリのせめぎ合いこそ、非常にスリリングで見応えがある。Jリーグには少ない特徴のチームに対し、普段とは異なる戦い方も、時には受け入れなければ、ACLという舞台は勝ち残れない。
そんなところが、ACLは本当に面白い。
個人戦術に見られる様々な違い
細かいところでも、Jリーグとはちょっと違うな、と感じるせめぎ合いがある。
たとえば、浦和は後半4分にカウンターで武藤雄樹が右サイド側へ抜け出したとき、5番のオスマール・バルバを背負い、足下にボールキープした。そこから逆方向にまたぎを入れて、縦へ抜けようとしたが、192センチの長身MFに後ろから足を深く入れてボールを突かれ、仕方なくバックパスを下げるしかなくなった。
飛び込まずにじっくりと見る守備ではなく、向こうはグイグイと、どんな体勢からでも深く足を入れてくる傾向が強い。そんな個人戦術も、微妙な違いがある。Jリーグでは高いキープ力を見せる武藤だが、このソウル戦はボールを失う場面が多かった。
もっとも、慣れない戦術にバタバタするのは、Jクラブ側だけではない。ソウルのほうも、ピッチの幅を広く使い、距離の長いロングパスを動かす『浦和のミシャ戦術』に戸惑いがあったし、それはグループリーグで対戦した、広州恒大やシドニーも同じだった。
驚き、戸惑い。いつもとは違うバタバタ感に「やりづらいな…」と感じたほうが負け。ACLの試合は、異文化の衝突だ。異種格闘技戦のような趣があり、そこがACLのいちばん面白いところだと個人的には思っている。
ワールドカップやクラブワールドカップもそう。国際大会は、異種格闘技戦だ。Jクラブも様々とはいえ、やはり国際試合を見ると、Jリーグという限られたカテゴリーの中でのスタイルに過ぎないと痛感する。世界は広い、やはりサッカーは広い。
第2戦はアウェー
2016年のACL決勝ラウンドに残ったJリーグ勢は、FC東京と浦和レッズ。どちらも第1戦はホームで先勝した。来週24日、25日に、それぞれアウェーで第2戦が行われる。
第1戦の観客数は、FC東京vs上海上港が9,052人。浦和対ソウルは、21,182人だった。
平日開催で、まだ第1戦、さらに組み合わせ決定から試合日まで2週間という集客に不利な状況を踏まえると、浦和については健闘した数字と言えるかもしれない。しかし、実際にスタジアムを訪れると、普段のJリーグから賑わいが数段落ちることには、やはり寂しさもあるし、それ以上に出てくるのは「見逃すなんてもったいない」という感想だ。
ACLという異種格闘技戦に立ち向かうJクラブの試合に、次も、その次もシビれたい。