ひきこもりの半数が女性、現場では
約半数が女性
内閣府の調査により得られた男女比割合から、15歳から64歳でひきこもり状態にあるひとが全国で推計146万いることが報道されました。大きな数字として広がったのは、その約半数が女性ということです。
・「中高年のひきこもり、半数超が女性 国の調査に「ようやく実態が...」」(朝日新聞デジタル)
1990年代頃から広がった「ひきこもり」という言葉も、当初は若い世代で、かつ、男性の問題と認識されていました。記事にもあるように、国のひきこもりの統計は「主婦(夫)」や「家事・手伝い」を除外していたことも大きく影響しています。
また、民間の支援現場でも、実際に相談やプログラム利用の男女比率は圧倒的に男性が多く、特に「就労」を目的とする場合は、男性がほとんどということも珍しくありませんでした。
その後、行政も、ひきこもり状態のひとたちを含む、さまざまな支援に乗り出しますが、公的機関であっても、男女の割合は男性が多い状態が続きました。しかし、時代が変わるにつれて少しずつ男女比にも変化が見られ、民間の現場でも女性の利用者は特別でも、珍しいことでもありません。
例えば、地域若者サポートステーションに関するいくつかの調査から、利用登録者の男女比は7:3から6:4程度ということが推察されます。ひきこもり相談関連では、各地域や施設ごとの報告などを見る限りその男女比は7:3程度のものが散見されます。
(参考)
・『地域若者サポートステーションにおける若者就労支援の現状』(小川祐喜子、白山社会学研究、2011)
・『奈良若者サポーステーション 2017年度活動レポート』(奈良若者サポートステーション、2018)
しかしながら、今回の内閣府調査にあるように、ひきこもり状態にあるひとたちの半数が女性であるという数字は、現在の相談体制や支援プログラムを見直す大きなきっかけになるはずです。
変化する現場、女性ニーズはどこにあるのか
認定NPO法人育て上げネットでは、コロナ禍をきっかけに、これまでの対面型に加えて、オンライン型のプログラムを作っています。オンライン型支援プログラムのひとつである「ステップキャンプ」を運営する現場の担当者から女性ニーズについて聞きました。
2021年3月から始まったステップキャンプは、プログラムごとに1か月から3か月、オンライン上で顔を合わせるのは週1日程度、それ以外は自学習や個人作業で進めるものから、チームで行うものまでの選択式です。動画編集、VBA自動化、WEB制作のコースがあります。
就職を前提とせず、それぞれが目指したい「働く」ことをゆるやかに考えながら、まずは自分にあった、始めやすいスタイルを考えるものになっています。
これまで110名が参加され男女比はだいたい6:4となっています。男性のためでも女性のためでもありませんが、実際に女性の利用率が40%というのは、民間の支援現場としては比較的大きな数字であり、公的機関と同じような比率となっています。
参加者は首都圏を中心に全国にまたがっており、さまざまな公的機関や支援団体から紹介されていることも特徴的です。それぞれの場所で受けられるプログラムは受けながら、ステップキャンプを併用する形式も目立ちます。
来訪・対面をすることなく、就職を目的としないプログラムに、利用者は何を求めているのでしょうか。
担当職員からは、女性の利用者から聞く話として以下の理由が考えられるということです。
・ホルモンバランスの乱れで体調が悪くなることがあり、体力面でも不安がある。そのため、心身の安定性を求められるものは利用しづらい
・人付き合いで嫌な思いや恐怖体験があり、新しい場所で人間関係を作ることに強い不安がある
・家事手伝いや育児介護など、家族のサポートをしている、もしくは、これからする(させられる)ことが迫っており、在宅で学び、在宅で働ける可能性を模索したい
これは女性利用者だけのものばかりではありませんが、実際の声として挙がっているものです。
不安で、画面をオンにできず
ある地方都市に住む30代の女性は、画面オフの状態で話し始めました。さまざまな恐怖体験が重なった結果、集団に入るだけでなく、ひとと話すことも怖い。相談することですら恐怖を感じると言います。
最初は、別プログラムで行われているオンライン講座を聴講することからスタートし、慣れてきたところで数日のオンラインプログラムに参加したものの、発表の場面で不安が高まり、画面をオンにすることができませんでした。
ステップキャンプを利用希望したものの、3か月という長期間を乗り切れるか不安ということから、1か月やってみて継続するかどうかを検討することになりました。
ときどき、ホルモンバランスが崩れ、体調不良で休むこともありましたが、なんとか3か月のプログラムを終了できました。しかし、前回画面をオンにできなかった最終プレゼンを前に、不安が高まります。
女性の不安のなかには、これまでの嫌な経験体験が大きく影響していましたが、一方で、画面越しで発表することに何の意味があるのかわからないということもあったようです。
そうは言っても、前回はこの場面で固まってしまったこともあり、何とか発表を終えると、自分の考えを言葉にしたこと、周囲からの丁寧なフィードバックで、以前よりも自分にできることが増えていることがわかったそうです。
もともと働くことを目的に参加をしていませんでしたが、プログラムが終わると、求人を探してみたり、自分が働きやすい職場の条件を考えてみたりと、なんとなく応募行動にいたっていました。
地方都市で、高齢の両親がいるため、いつになるかはわからないが、早晩、出勤を伴う仕事は難しくなると考え、リモートワーク可能な仕事を探すようになります。
女性が住む地域では、リモートワークという働き方はほぼ見られなかったようですが、居住地域は無関係なため、全国の求人情報を見るようになっていました。WEBデザイナーの仕事がよさそうと思ったものの、これまであまり働いた経験もないなか、未経験者でも歓迎とあったECサイトのアシスタントの求人に応募し、採用されました。
女性の状況、大切にしたいスタイルや無理のない働く時間や日数を伝えたところ、職場も理解をしてくれ、いまも順調に働けているということです。
これまでの取り組みを集約、整理する必要性
現場では実際の利用者に男性が多くとも、一定数の女性がいることからさまざまな取り組みがありました。例えば、「女性のための〇〇セミナー」や、女性だけの時間・空間を作るような工夫をすることで、それであればと安心して参加してもらえるものです。
それらは各現場や施設における独自の取り組みに過ぎず、包括的に情報を集約、整理・分析をして、行政に提案することや、現場にフィードバックをしてさらなる工夫に取り組む動きは、私が知る範囲で多いとは言えません。
しかしながら、今回の内閣府調査によって、ひきこもり状態になるひとたちに男女の大きな違いがないことが推察されたことをきっかけに、これまでの取り組みを見直すことで、出会うことができなかった、話を聞かせていただくことができなかったひとたちと接点を作れる可能性があります。
詳細な研究分析をするリソースは、個々の現場にはほとんどありませんので、ここは行政がしっかりと調査研究に取り組み、ひきこもり状態のひとたちの次の支援施策に乗り出していただきたいと思います。