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『最強のふたり』監督たちが、今度は自閉症ケア施設の奮闘劇! 映画で社会、変えられるんです

斉藤博昭映画ジャーナリスト
監督コンビ。右がオリヴィエ (c)Academie des Cesar 2020

本国フランスはもとより、日本でも大ヒットした2011年の『最強のふたり』。その監督コンビ、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュは、つねにコンビで映画を撮ってきた。『最強のふたり』でも格差や人種問題など社会派テーマを、予想を裏切るほど軽やかに仕立てた彼らが、新作でテーマにしたのは自閉症のケア施設。あちこちで見放された子供たちを善意のみで引き取るこの施設は、政府の無認可。しかも赤字経営で監査が入ることになる……という、何やら無認可保育園問題などを抱える日本でも、対岸の火事とは言えないテーマだ。実話を基に描いた今作は、フランスで公開されるや、またしても特大ヒット。『最強のふたり』を愛してくれた日本の人たちに、またぜひ観てもらいたいと、パリのオリヴィエ・ナカシュ監督とオンライン・インタビューを行った。

『最強のふたり』はアメリカでリメイクもされ、さらに話題を広げた(日本では残念ながら大ヒットに至らなかったが)。もしかして、かなり儲かったのかと軽く聞いてみると……。

「いやいや、じつはリメイク権は、あのハーヴェイ・ワインスタインがカンヌで8分間だけ観て手に入れてしまった(笑)。僕らは基本的な契約料のみ。でもね、(日本語で)『サイキョーノフタリ』のおかげで、次の作品へ出資してくれる会社も激増し、本当の意味でのクリエイティヴの自由を得られた。それこそ、僕らにとって最大の利益だよ」

この新作『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』(9/11公開)は、長いサブタイトル、そのとおりの物語。

ブリュノ役(左)は、『オーシャンズ12』『ブラック・スワン』などハリウッド作品でも活躍する、フランスを代表するスターのヴァンサン・カッセル。
ブリュノ役(左)は、『オーシャンズ12』『ブラック・スワン』などハリウッド作品でも活躍する、フランスを代表するスターのヴァンサン・カッセル。

自閉症の青少年を支援する団体<正義の声>を運営するブリュノ。とにかく熱血漢で面倒みのいい彼は、各所で見捨てられた子供たちも引き取って、毎日がお祭り騒ぎのような混乱状態(シビアな物語なのに、このノリの良さが『最強のふたり』の監督らしい)。監督たちは、26年も前にブリュノのモデルとなった人物と出会い、いつか映画にしようと準備を進めていた。このような無認可のケア施設は、フランスでどこまで一般的なのだろうか?

「自閉症の若い年代を集めた団体は、フランスでも社会の陰に隠れた存在だね。だから映画のタイトルもスペシャルズ=規格外なんだ。ただ、僕らの映画が公開されて、かなり社会的に認知されるようになったかな」

<正義の声>では、若者たちも働いている。別の団体<寄港>の若者たちだ。彼らは社会からドロップアウトした面々。支援されている若者が、自閉症の子供たちに寄り添う。このあたりは日本人にとっても新鮮な風景だ。

「<寄港>のモデルも無名の団体で、僕らもその事実を知って驚いたんだ。親が面倒をみられない自閉症の子供たち、そして社会から隔絶された若者たち。その2つを結びつけ、一気に助けているなんて、すごいじゃないか! フランスのことわざに『マイナス+マイナス=1』というのがあり、まさにそういうことをやってる。フランスでも類をみないパターンじゃないかな」

しかし本来、こういった動きは政府が主導してよさそうなもの。ブリュノら登場人物たちの草の根の活動のすばらしさを、映画を観ながら実感せずにはいられない。

「じつは僕らがこの映画を撮っているのを聞きつけたフランスの厚生省から、連絡が来たんだ。『われわれ政府も15年くらい、この問題に取り組み、解決できないでいます。映画が公開されると、政府は何もやってないと批判される可能性があります。早めに問題に着手したく、マクロン大統領も、映画ができたらすぐに観たいと言ってるのですが』とね。その意味で、僕らの映画は政治に対してインパクトになったと思う」

ブリュノの心は24時間休まらない。重度の自閉症少年とのドラマは壮絶だが、映画全体にはユーモアと明るさもたっぷり。
ブリュノの心は24時間休まらない。重度の自閉症少年とのドラマは壮絶だが、映画全体にはユーモアと明るさもたっぷり。

映画が公開され、<正義の声>のモデルとなった団体は無認可から認可になった。夜間も開いている団体は、それまで認可が下りづらかったが、ルールは変わったのだ。現在、団体には4ヶ所のアパートメントが増え、24時間、子供たちを預けられるようになったという。

まさに「映画が社会を変える」を実証した監督たちである。

「いちばんうれしかったのは、自閉症の子供たちの両親、家族から多くの声をもらったこと。彼らは今まで隣人からも声をかけてもらえず、孤独に悩み、すべてを怖がっていた。『この映画が、私たちの家のドアをノックしてくれました』という言葉こそ、僕らにとっての勝利だよ。障害と社会からの阻害の両方で悩んでいた人たちに対し、周囲の見る目が変わる。それこそ、この映画の果たす役割だからね」

『最強のふたり』もそうだが、弱者に目を向けることに映画作家としての強いこだわりがあるのだろうか。

「それは想像どおり。事実だよ。アメリカのスーパーヒーローと違って、僕らにとってのヒーローは、社会で弱者を救おうとする人なんだ」

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『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』

9月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

配給:ギャガ

(c) 2019 ADNP- TEN CINEMA- GAUMONT- TF1 FILMS PRODUCTION- BELGA PRODUCTIONS- QUAD+TEN

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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