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森保監督以外に選択肢はなかったのか?外国人監督招聘の条件

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:REX/アフロ)

 日本サッカー協会は、森保一監督との旅を続けることを決断した。それは一つの選択だったのだろう。間違っている、とは安易に言えない。

「今さら蒸し返しても」

 その意見も重々承知である。

 しかしどんな時も、そうではない選択、を準備しておくべきだろう。完全に正しい決定などない。まずは世界の監督と交渉ができる組織であるべきで…。

 そもそも、どんな人物が代表監督になるべきなのだろうか。

ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチを招聘

 現在の日本サッカー協会における代表監督の細かい条件が、具体的にどうなっているかは分からない。しかし、拙著「おれは最後に笑う」のルポで示したように、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチの3人と交渉、契約した時代にはいくつかの条件があった。

〇高いレベルの指導歴があること(日本と同等以上の代表監督か、強豪クラブでの指導実績があること。具体的にはワールドカップ、ユーロ、チャンピオンズリーグ、コパ・リベルタドーレスなどで上位の経験が望ましい)

〇日本の良さを生かせる(組織力、団結力、俊敏性など日本の良さをうまく生かせる)

〇アジアの戦いにも対応できて、アジアの文化、伝統への理解(特異なカレンダーへの理解)

〇日本へのリスペクト、日本人スタッフとうまくコミュニケーションを取れる

 特に筆頭の条件は、一つの基準になっていた。

 ザッケローニはACミラン監督時代にスクデットを獲得し、ラツィオ、インテル、ユベントスなど強豪で次々に采配を振っている。アギーレはメキシコ代表を率いて、2度もW杯ベスト16に進出しただけでなく、オサスナを率いてチャンピオンズリーグに勝ち進み、強豪アトレティコも指揮。ハリルホジッチはかつてパリ・サンジェルマンを指揮し、コートジボワール代表、アルジェリア代表をW杯本大会に導いていた。

 振り返ったら、なかなかの経歴の監督である。

 有力な日本人監督は現時点で欧州で活動しておらず、日本代表で得られる経験を除けば、この条件に匹敵するものは現段階では望めないわけで、必然的に同じ監督が繰り返すケースが多く…。

代表監督のベスト

 日本サッカー協会は、今や外国人監督の選択肢を捨てたように映る。2016年に、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチとの交渉、契約に尽力した霜田正浩(現・松本山雅監督)が職を退いて以降、「強化」という仕事に特化して活動してきたリーダーが不在だ。

 一方、交渉の難しさは増している。

 今やビッグクラブで結果を残せる外国人監督は、極東の代表を年俸3億円程度では引き受けない。外国人監督で冒頭の条件を当てはめると、かなり苦しい交渉になるだろう。例えば、新たにウルグアイ代表監督に就任したマルセロ・ビエルサはクラブでは10億円以上の年俸を稼いでいた。今や急激な円安で、昔よりも円の価値が低く、そこの競争力も弱まっているのだ。

 交渉のテーブルにつくことすら難しい。

 結果、日本人指導者で日本代表監督を探すことになり、消去法により、カタールW杯で実績を残した森保一監督の留任が…。

 ただ、そこに問題の本質はある。

 時代の変化に応じ、条件を取っ払って人材を探すべきではないか。W杯ベスト16クラスの代表チームやビッグクラブを率いた経験はなくとも、能力の高い監督はいるのだ。

メンディリバルという人材

 例えば筆者は、ホセ・ルイス・メンディリバル監督を日本代表に強く推薦してきた。

 メンディリバルは実直なバスク人監督で、選手の力を引き出す手腕に長ける。エイバル時代、貧弱な戦力ながら6シーズンも1部で戦わせられたのは、采配力の証左だろう。日本代表MF乾貴士の良さも十分に理解し、1年目はビッグクラブ相手にはベンチに置いて、守備を浸透させながら技巧を引き出し、有力選手に鍛え上げていった。

 素晴らしい手腕の持ち主だが、その時点では「国際的には無名」だった。

 ただ昨シーズン、メンディリバルは急遽セビージャを率いると、たちまち一つに束ね、降格圏から救い出している。ヨーロッパリーグではマンチェスター・ユナイテッド、ユベントス、ローマという強豪を次々に撃破し、優勝を成し遂げた。来季はチャンピオンズリーグ出場権をつかみ取った。

 これで日本代表監督の条件にも当てはまるわけだが…。

 今のメンディリバルが、日本代表監督のオファーを受けることはない。

 つまり、筆頭条件は足枷になってしまっている。

 サッカー協会のディレクションを担当する技術委員会は、ふさわしい監督を探し出す努力を続けるべきだろう。海外のマーケットに入って、下交渉からできる人材が求められる。監督や解説者としての知名度などではなく、世界のサッカーに精通し、交渉できる語学力や外交力を持っているか。さもなければ、今の限られた選択肢のままだ(長谷部誠が引退し、ブンデスリーガで采配を振り、代表監督に就任するまで待つか)。

 レアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督も、2019年から個人的に推していた。着実にチームを強化し、若手の力を引き上げ、攻守一体の魅力的なサッカーを作り上げていった。そして昨シーズンは久保建英の才能を最大限に引き出すことにも成功し、チャンピオンズリーグ出場に導いた。

 ただ、今やアルグアシルも現実的な候補ではない。

 見るべき目を持って、誠実で迅速で濃厚な交渉ができれば、有能な監督を招聘できる。たとえ失敗したとしても、その経験を次に生かせる。そのトライが日本サッカー全体に刺激を与え、糧になるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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