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『期日前投票』という発想そのものを辞めよう

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です。

2017年10月22日(日)の衆議院選挙の投票日は大雨の可能性だという。

投開票される22日も西日本から北日本にかけて広い範囲で大雨となる可能性がある。有権者の出足が鈍って投票率が下がることが懸念され、台風の影響が大きいと予想される地域では、期日前投票の利用呼びかけや離島での投票日繰り上げの検討などを始めた。

出典:台風接近、22日は大雨の可能性

投票日の繰り上げとなると、また選挙費用がかさむ結果となる。なぜ、投票を選挙投開票日に絞る必要があるのだろうか?

期日前投票は25%、すでに4人に1人の時代

出典:総務省 選挙部 2017年平成29年1月
出典:総務省 選挙部 2017年平成29年1月

http://www.soumu.go.jp/main_content/000365958.pdf

総務省の目で見る投票率(2017年平成29年1月)によると期日前投票は25%、すでに4人に1人の時代を迎えていることがわかる。

 他にも筆者のような海外在住者でも「在外選挙制度」や名簿登録地の市区町村の選挙管理委員会に、直接または郵便等で投票用紙など必要な書類を請求すると「不在者投票制度」を活用することができる。

http://www.soumu.go.jp/2017senkyo/pre/index.html#fuzai

在外投票も5万票近くある
在外投票も5万票近くある

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo05.html

筆者は、すでに期日前投票を終えてきた。あとは開票を待つだけの身分になったので、今後の報道情勢に、投票行動を左右されることもなくなった。何よりも投票に行くこと!というToDoが消えたことが精神的にも楽だ。

 期日前投票所には、公費で発行され配布される「選挙広報」もあるので、掲示板のポスターの有無に関係なく、候補者の公約を知ることができる。なぜ?期日前投票所にポスターを掲示しないのか?これは公正な選挙を指導する立場においての公職選挙法違反ではないか?と感じている。憲法第21条における「知る権利」も期日前投票書では侵害されている。

期日前投票の全国平均はすでに25%と、投票率の3割にも及ぶ勢いにもかからわらず、必ず選挙日に投票できないネガティブな理由を「宣誓書」に書かされる。筆者は常に、投票日に来れない理由に「その他」を選び、スペース欄に「選挙費用の削減のため」と明記し続けている。

実際に増えている期日前投票 有権者の3.86%

総務省は(2017年10月)16日、衆院選の期日前投票(小選挙区)について、公示翌日の(2017年10月)11日から15日までの5日間の中間状況を発表した。投票者は410万7108人で、有権者(9日時点)の3・86%にあたる。投票者、割合ともに、衆院選で期日前投票が導入された2005年以降で最も高かった。

出典:期日前投票、5日間で410万7108人 過去最多

前回2014年衆院選の同期間に比べ52.1%増となった。全有権者数の3.9%に当たり、衆院選の期日前投票としては過去最多のペースだ。 

 都道府県別にみると、福井、新潟、島根、岐阜、茨城の5県で前回の2倍を超えた。期日前投票が伸びている理由について、総務省は「制度が浸透してきたのに加え、商業施設など便利な場所に投票所が置かれたことがある」と分析している。

出典:期日前投票52%増、最多ペース=公示翌日から5日間【17衆院選】

期日前投票所へのアクセスのしやすさがポイント

ショッピングセンター内に期日前投票所を設置した秋田県男鹿市では、期日前投票をした人の割合が69・36%で県内最多だという。

(男鹿市は)1世帯あたり1・8台の車を所有し、車が主な移動手段。市はここに着目し、住民が車で頻繁に行き来する場所にある商業施設に期日前投票所を設置した。担当者は「住民の普段の動きを熟知することが肝心だ」と話す。

さらに秋田県内の複数の自治体担当者は、別の理由を指摘する。「秋田は人間関係が濃密。投票日に知人と出くわして投票先を探られる状況は避けたいという心理とうまくマッチした」。投票日は近所の投票所を指定されるが、期日前投票所は遠くにあるため、知人と会う可能性は低くなるというわけだ。

出典:知人に会いたくない… 期日前投票、切実な理由で増加中

投票日は、大量の人を短時間でさばく必要があるので近隣の学校の体育館などがよく利用されるが、普段一切行ったことがない人も多い。反対に、期日前投票所は利便性を高めるために交通の便などを考慮されターミナルに近い場合があるので便利である。

期日前投票の定義を変えるべきでは?

選挙投開票日は1日のみ。しかし、期日前投票日は公示日の翌日からなので、選挙日の11倍もの投票期間がある。

しかし、投票対象者を、選挙日に『仕事や旅行、レジャー、冠婚葬祭等の用務があるなど一定の事由に該当すると見込まれる者』とされていることが一番の問題だと思う。さらに、宣誓書に列挙されている一定の事由の中から自分が該当するものを選択させる意味がわからない。さらにその選択された理由は、どこにも公式文書として公示されていないから無意味だ。投票日に投票したくないという票数が4人に1人もいるのだから、『期日前』という標記をすぐにでも撤廃すべきではないだろうか?

選挙の税金650億円、衆議院議員の誕生コストは1人あたり約1億4000万円

一回の国政選挙に使われる税金は約650億円、有権者一人あたり650円の負担で、465人の議席数なので一人の国会議員を選ぶだけで、1.39億円だ。しかも予算の92% 598億円は、運営する都道府県に費やされており、そこからさらに市区町村に、69% 449億円が費やされている。

 残りの約1割の約65億円は新聞広告(3.5% 22.8億円)、はがき代金(3.3% 21.4億円)、政見放送(0.2% 1.3億円)などが公共投資的に分配されている。広告効果測定もまったくなされていないことが問題だ。

選挙費用約650億円の流れの比率
選挙費用約650億円の流れの比率

2012年平成24年度の予算比率から換算

『期日前投票』をメインにすることによって、公費負担が大幅に削減が期待できる

市区町村の使う予算 69% 449億円のうち公費負担が一番大きい。選挙期間が「期日前投票」がメインとすることによってのんびりはがきなど送ったり、長々と選挙運動する必要がなくなる。ウエブサイトやSNS、選挙広報、期日前投票所前のポスター貼りだけで公費負担を一気に削減できるからだ。

今回の衆議院選挙の立候補者だけでも1180人もいるが、供託金を没収する以上に、供託ポイントを上回れば落選しても支払われる。立候補者ひとりあたり最大680万円も公費負担(前回の参議院の場合)をしている。

それだけでも単純に掛け算すると、80億円にも及ぶ。半数が供託ポイント達成としても40億円の立候補者への公費負担だ。

筆者が実質に立候補予定者として取り寄せた参議院選挙の資料では…

1.ハイヤーには、109万

2.レンタカーには、26万

3.ガソリン代には、12万

4.運転手代には、21万

5.選挙ビラには163万、

6.ポスター代金は189万※ @134×1万4,163ヶ所

7.選挙ハガキには、66万

8.選挙事務所の看板には、49万

9.選挙運動用の自動車看板には、20万

10.個人演説会の看板には、19万

である。 すべて合わせて、1人の候補者にどれだけ公費負担されるのか?

最大でなんと、680万6531 も公費負担がなされている。

出典:【誰も知らない選挙の公費負担】参議院選挙、候補一人あたり最大680万円まで公費で負担

最大680万円も公費負担する意味は?
最大680万円も公費負担する意味は?

さらに…

東京都だけでも、ポスター設置場は、1万4,163ヶ所 投票所は1870ヶ所もある。期日前の投票が増えてくるとどこで啓蒙するのが良いのかがもっと科学するようになるだろう。

出典:公示日なのに、候補者がわからないというネット選挙時代にサヨナラを

「期日前投票」を『投票期間』、「投票日」を『投票締切日』としてみれば?

…ということで、「期日前投票」の利点を説いてきたが、一番重要なのは、この「期日前」というフライングチックな名称が問題だ。これをネガティブにするのではなくポジティブにとらえるとすると、基本的に「期日前投票」を『投票期間』とし、「投票日」を『当日投票』や『投票締切日』としてみるのはどうだろうか?

 半数の人が『投票期間』に投票すれば、『当日投票』や『投票締切日』のコストが大幅に削減できる。『投票締切日』の朝には、当確がでていても不思議ではなくなる。そう、「期日前投票」分は投票日の締切時刻の20時に一気に公開できる。「期日前投票」をメインにすれば良い事だらけなのだ。これぞ、まさしく選挙の革命に近い。もちろん、期日前投票が進化すればするほど、指紋認証や、コンビニ投票やいろんなネット時代にふさわしい選挙の形で真の「ネット選挙」時代に近づくことだろう。

公職選挙法のスキームそのものを、運営面から考えるべきだ

公示日の翌日からの「期日前投票」では、立候補者の情報がまったく集まらないし公示できていない公示日となっている。むしろ、「公示締切日」を「公示日」よりも7日間、前倒しにし、公示日にはすべての情報をそろえてから、選挙活動を一斉に始めてもらう。「選挙広報」の原稿締切を早めれば、「投票用紙」と「選挙広報」を同時に発送できる。このほうが国民が立候補者全員を同時に知ることができる。一回の送付で完了だ。一週間あれば、選挙ビラやハガキもパッケージにして送付することも可能になってくるだろう。さらに、候補者は選挙運動のその場限りの口頭での公約ではなく、ウェブサイトなどでの公約で比較検討される時代の選挙に呼応しはじめるはずだ。

「選挙広報」のPDFも、公示日には市区町村のウエブサイトで朝から公開することができる。ポスターも「期日前投票」の場所から順番に貼れば良いのだ。するとポスター設置場所を減らすこともでき、「期日前投票所」でのポスター設置をするだけで選挙費用は、約100億円は削減できるはずだ。国家の主権者である国民が、唯一直接的民主主義的活動ができるのがこの選挙だ。メディアの論調や悪天候にも左右されず、「期日前投票」を『投票期間』とし、ムダな税金を使わせたくない人は早めに投票する行動によって国民の意思として届けてみるのはどうだろうか?また、裁判官の投票にはいつも悩まされるが、むしろNHKの会長も立候補してもらい、法的な受信料負担なので国政の期間で国民に選ばせてもらえると、公共放送のガバナンスやコンプライアンスもより明確になると思う。自分たちで選んだ会長がNHKを運営していると思うと受信料の取立料など余計なコストを軽減でき、受信料金などの見直しなどもシビアな目で見えてくることだろう。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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