ノート(106) 思いがけない関係者との面会
~整理編(16)
勾留70日目(続)
散髪の機会は貴重
「散髪をするから、出てくれるか」
独房で事件記録の検討をしていると、刑務官にそう声をかけられた。有罪判決が確定する前の男性の被疑者や被告人の場合、拘置所での散髪の機会は2か月に1度だけだ。任意の許可制だから、散髪をせずに伸ばしっぱなしにしていても構わないが、もし機会を逃せば、次は2か月先になる。
僕もかなり以前から散髪を願い出ており、ようやく許可され、順番が回ってきたというわけだ。
――拘置所のどこかに床屋のような散髪室があり、昇降する椅子や髪を洗う水回りの設備が整えられていて、理容師資格の取得を目指す受刑者でも働いているのだろうか。
そうしたことを考えながら廊下に出たが、数メートル歩いただけで、刑務官から浴場隣の面接室と呼ばれる3畳程度の小部屋に入るように指示された。中にはパイプ椅子のほか、散髪用のハサミが数種類ほど置かれた机があり、監視役である警備隊職員と、刑務作業の一環として刑務官の下で配膳や廊下の掃除などを担当していた若い男性受刑者が立っていた。
バリカンとクシを持っているのを見て、全くの素人である受刑者が被収容者の散髪を行うのだと分かり、ギョッとした。今さら断るわけにもいかず、職員の指示で棚が設置された壁に向かい合う形で椅子に座ると、ちょうど棚の上に置かれた20センチ四方ほどの鏡に顔全体が映し出されるようになっていた。
「どういう髪型にしたいの?」
拘置所のルールでは、雑居房内や運動時間中でもない限り、基本的に他の被収容者と会話を交わすことを禁じられており、全て職員を介してやり取りする決まりだった。この時も同様であり、職員がヘアスタイルの書かれた一覧表を示しながらそう聞いてきた。
この記事は有料です。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバーをお申し込みください。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバー 2019年2月
税込1,100円(記事3本)
2019年2月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。