香川選手には申し訳ないが、金満バブルで英プレミア・サッカーが復活する
サッカーのイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに所属するMF香川真司選手が移籍金630万ポンド(約11億円)で古巣のボルシア・ドルトムント(ドイツ1部リーグ)に復帰した2014/15年夏の移籍市場。
移籍は9月1日深夜に締め切られたが、プレミアの移籍金総額は史上最高の8億3500万ポンド(約1452億円)を記録した。このうち5億3千万ポンドが選手獲得のため海外のクラブに支払われた。
英BBC放送などの報道を総合すると、プレミア夏の移籍金総額の推移は下のグラフのようになる。
金融バブルを謳歌していたころのイングランド・プレミアリーグはUEFAチャンピオンズリーグのベスト4に3チームが進出する時代が06/07年シーズンから3季も続く全盛期を迎えた。
2008年の世界金融危機で英国の通貨ポンドは暴落。ピーク時には1ポンド=250円だった為替レートは一時110円台にまで下がった。「金の切れ目は縁の切れ目」とはよく言ったもので、ワールドクラスの選手の海外流出が続き、プレミアのクラブは欧州の強豪クラブにほとんど勝てなくなってしまった。
香川選手のマンU移籍は、「大化け」を期待したファーガソン前監督による先行投資のまさに賜物だった。
香川選手には古巣のドルトムントで調子を取り戻してほしい。ペナルティーエリア内のスペースはほとんどなく、潰すタックルは当たり前というプレミアの水は香川選手には苦かった。ドイツで、短いパス交換からドリブルのリズムがよみがえれば、香川選手はきっと復活できる。
昨季プレミア7位、今季ヨーロッパのカップ戦に出られないという屈辱を味わったマンU。放映権料の減収などによる損失は3500万ポンド(約60億円)と伝えられる。
このため、優勝請負人ファンハール監督を招請したが、一向に復調の兆しはみられない。今季何としてでもプレミア4位以内を確保してUEFAチャンピオンズリーグの出場権を奪還するという使命を負うファンハール監督は夏の移籍市場の最終日まで増強作戦を展開した。
バイエルン・ミュンヘンのグアルディオラ監督をして「ペナルティーエリア内における世界最高のプレーヤー」と言わしめたコロンビア代表ストライカー、ファルカオを史上最高のレンタル600万ポンドでモナコから借りだした。来季には4350万ポンドの移籍金を積んで正式に獲得する見通しだ。
アヤックスからオランダ代表MFブリントを移籍金1380万ポンドで獲得。トップ下のポジションを香川選手から奪ったスペイン代表MFマタはファルカオの加入で、トップ3のトライアングルからはみ出し、ベンチを温める悲哀を味わうことになりそうだ。
ファンハール監督はすでにレアル・マドリードからアルゼンチン代表MFディマリアを英国史上最高の移籍金5970万ポンドで獲得。国際会計事務所デロイトによると、1回の移籍市場ではプレミア史上最高の総額1億5千万ポンド近い大金をはたいた。
FWスアレスを移籍金7500万ポンドでバルセロナに放出したリバプールは悪童バロテッリをACミランから獲得するなどの補強に動き、1億1700万ポンドで2位。アトレチコ・マドリードからFWディエゴコスタを獲得したチェルシーのモウリーニョ監督は9130万ポンドで3位だった。
プレミア夏の移籍市場の目玉選手は次の通りである。
こんな大金がどこから湧いてきたのかというとイングランド・プレミアリーグに対する30億ポンドもの放映権料が大きい。前回の契約より70%もアップした。
放映権料を選手獲得のために使うことは良いことだが、イングランド選手のプレミアでの出場機会はさらに減るのは確実な情勢だ。
しかし、プレミアがイングランド選手育成のため「保護主義」を導入すれば、ロシアや中東のオイルマネー、米国資本は一気に引き上げ、低迷を極めた1980年のフットボールリーグ・ディビジョン1時代に逆戻りしかねない。
イングランドでは30年前、スタジアムは老朽化し、フーリガンが暴れまくり、雑踏事故も起きた。プレミアは「サッチャー改革」と同じ道をとり、世界に先駆けてリーグを開放した。
プレミアの人気クラブ、マンU、マンチェスター・シティー、チェルシー、アーセナル、リバプールはいずれも外国資本である。
自国選手の育成に力を注ぎ、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会での優勝を果たしたドイツと、「稼いでなんぼ」の英プレミアでは哲学や思想が根本から異なる。勝つのはどっちだ。
(おわり)