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文在寅政権の対北提案ーー日米は「不快」中国・EUは「歓迎」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
対北朝鮮問題で協調を約束したはずの米韓首脳会談

北朝鮮に軍事会談と赤十字会談を呼び掛けた韓国の文在寅政権の対北アプローチに関係諸国の対応が割れている。

文政権は17日、北朝鮮に対して軍事境界線付近での敵対行為を中止するための南北軍事当局会談を今月21日に、朝鮮戦争で引き裂かれた離散家族の再会のための南北赤十字会談を来月1日に開くよう提案。国民の高い支持率と南北対話復活を求める世論を背に北朝鮮問題で韓国がイニシアチブを発揮したいとの文大統領自身の意思の反映である。換言するならば、制裁と圧力一辺倒の手法では緊張状態を打開できないこと、制裁と圧力への北朝鮮の反発次第では軍事衝突に発展しかねない状況を憂慮しての提案のようでもある。

しかし、先月G20での日米韓首脳会談で北朝鮮問題では協調して対応することを確認したばかりの日米両国は文大統領の「スタンドプレー」を快く思ってないようだ。

米国のション・スパイサーホワイトハウス報道官は定例ブリーフィングでトランプ政権の反応聞かれるや「韓国政府から出た話なので、韓国政府に直接聞いてもらいたい」と不快感を表明。「大統領は(北朝鮮との対話のための)充足すべき条件については明確にしている。今は、そうした条件からは明らかに我々は遠いところに位置している」と間接的な表現ながら、文政権の対応を批判していた。国務及び国防省も同様で、いずれも「韓国政府に聞いて欲しい」と冷淡な反応を示している。

トランプ政権は国連安保理を通じて北朝鮮への圧力と制裁を強める一方、北朝鮮への制裁強化を躊躇う中国への圧力を強めている最中の文在寅政権の一方的な対北融和アプローチを制裁と圧力で北朝鮮に白旗を挙げさせる「戦略的関与政策」の「障害」になりかねないとみているようだ。

米国と同一歩調を取る日本も菅義偉官房長官が18日「韓国政府の提案は離散家族再会や軍事境界線の敵対的行為を中止することを目的としたもので(日米韓首脳会談の方針とは)矛盾しない」と、一応日米韓の足並みの乱れを否定したものの歓迎の意向は表明していない。むしろ、日本側の本音は前日の岸田文雄外相の「今は、北朝鮮に圧力を掛けるとき」との発言に表れているといえようにこの時期の南北対話は好ましくないと考えているようだ。

日米韓は今月7日にドイツで開いた首脳会談で共同声明を出しているが、その中で「北朝鮮が態度を改め、挑発的で脅威的な行動を自制し、非核化のための真摯な対話に復帰するよう最大限の圧迫を持続的に加えていく」ことを約束したばかりだ。また「北朝鮮が不安定を助長し、挑発的かつ緊張を高める自らの行為により自らが深刻な結果を招くことをわからせるため追加制裁を含む新たな国連安保理決議が速やかに採択されるように協力する」ことでも意見の一致をみていた。

冷ややかな日米の対応とは異なり、中国は外交部を通じて「朝鮮半島情勢の緩和に役立つ」と熱烈歓迎している。

中国外交部の陸慷報道官は「中国政府は南北双方が対話を通じて相互の関係を改善し和解協力を推進することが、両者の根本利益に合致し、朝鮮半島情勢の緩和に役立ち、地域の平和と安全を推進するのに有利と考える」と支持を表明。そのうえで「全ての関連諸国も理解、支持すべきであり、妨害してはならない」と反対の立場を取る米国と日本にくぎを刺していた。

北朝鮮問題では米国に同調してきたEU諸国も今回は、中国同様に歓迎の立場だ。

ICBM発射関連で北朝鮮への追加制裁を検討しているEU諸国は昨日、外相らによる外務理事会を開いたが、北朝鮮問題では「韓国の主導的役割と北朝鮮に意味のある対話に出るよう呼び掛けている韓国の会談提案を支持する」と表明。「EUは主要パートナーらと協議して、こうした過程を支援する準備ができている」とまで言い切っている。

EUは「北朝鮮に対する制裁と圧力を平行しながら対話のチャンネルも開くなど他の手段も講じる」と述べていたが、北朝鮮がEUに、またEUの7か国が北朝鮮に大使館を設置していることから北朝鮮との間で政治接触を続けられているようだ。

EUの立場で注目すべきは「朝鮮半島の恒久的な平和と非核化は平和的手段を通じて達成されるべきである」として、トランプ政権のオプションの一つである軍事的解決策に反対の立場を表明したことだ。

なお、肝心の対話の相手である北朝鮮は19日午前9時現在、韓国の呼びかけに何の反応も示してない。

北朝鮮はこれまでに文政権との対話条件として8項目を挙げていた。

1.「わが民族同士」の立場なのか、外勢(米国)との共助なのか、態度を示せ。

2.米韓合同軍事演習中断を決断せよ。

3.誹謗中傷を無条件中断せよ。

4.南北軍事衝突を解消するための実践的措置を講じることに同調せよ。

5.核問題を南北間の議題にしてはならない。

6.制裁と圧力と対話平行の対北政策を撤回せよ。

7.李明博・朴槿恵保守政権の南北関係破綻策動による破局的効果を清算せよ。

8.昨年中国から脱北(北朝鮮は拉致と主張)した女性レストラン従業員を送還せよ。

文政権の対話呼びかけを黙殺するのか、正式に拒否するのか、それとも逆提案して、応じるのか、沈黙を保つ北朝鮮の対応が注目される。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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