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住民参加で公共施設を見直す

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
公共施設は見直しのプロセスから多様な市民を巻き込むことが重要(鳥取県琴浦町撮影)

進む老朽化で対応が急務

全国津々浦々、どこにでも、都道府県や市町村が建設した体育館や公民館などの公共施設がある。

公共施設の多くは1970年代に建てられたため、老朽化が進み、更新時期を迎えている。特に、1981年の建築基準法の施行令改正以前の「旧耐震基準」の建物か、それ以降の「新耐震基準」の建物かによって倒壊リスクが大きく変わることがわかっている。1995年に発生した阪神・淡路大震災の際、「大破」した建築物は「新耐震」が10%未満だったのに対し、「旧耐震」は約30%であった。それゆえ、1981年以前の建物についての対応が急務とされている。

また、住民の年齢や居住地域、ライフスタイルの変化によって必要な施設が変わったり、市町村合併によって類似の施設が一つの町に重複するケースも多く出ている。

「総論賛成・各論反対」で見直しが進まない

政府は2013年11月に「インフラ長寿命化基本計画」を策定。2014年度には全国の地方自治体に対して、公共施設の現況や将来的な見通しなどをまとめた「公共施設等総合管理計画」(以下、総合管理計画)を策定するよう各地方自治体に通知を出した。

さらに「総合管理計画」の策定にあたっては、具体的に以下の3点を記載することを国が定めた(そもそも総合管理計画の策定は国の「通知」にすぎないから強制力はない。にもかかわらず、すべての地方自治体が策定し、かつ国の「指針」に基づいた内容にしている自治体が多いことには非常に違和感があるが、それは別の機会に述べる)。

1.公共施設等の現況及び将来の見通し(老朽化や利用の状況、人口の今後の見通し、公共施設等の維持管理・修繕・更新等に係る中長期的な経費の見込みやこれらの経費に充てることが可能な財源の見込みなど)

2.公共施設等を総合的、計画的に管理するための基本的な方針(行政としての取組体制の構築や情報管理・共有の方策、現状や課題に関する基本認識、公共施設等の管理に関する基本的な考え方など)

3.施設類型ごとの管理に関する基本的な方針

※あくまでも指針なので、すべての自治体がまったく同じ構成で作っているわけではない。

つまり、総合管理計画で示されるのは見通しや方針など「総論」が中心となる。「今ある公共施設をすべて建て替えるほど財政に余裕はない」「そもそも人口が減っているから公共施設を減らしていくのは当然のこと」など、「総論」は大抵の人が賛成をする。したがって、どこの自治体も総合管理計画は割合、策定しやすかったと言える。

しかし、総合管理計画を作ったからといって見直しが完了するわけではない。具体的にどの施設をどのように減らしていくかという各論(個別計画)がなければ見直しをすることはできない。そして、いざ見直しを進めようとすると、「うちの地域の体育館はよく利用しているからなくすなら他の体育館」「この公民館は歴史も伝統もあるから特別」といった反対意見が多く出る。典型的な「総論賛成・各論反対」なのである。だから、なかなか公共施設の見直しは進まない。

計画段階で住民を巻き込む仕組み

「総論賛成・各論反対」を乗り越えるためには、見直し計画を完成させる前の早い段階から、住民を巻き込んだ議論を行っていくことが重要だ。従来、行政が計画の策定の際に幅広く住民の意見を聴くといっても、ある程度計画を作りあげた上で「住民説明会」などの名目で行われることが多い。そうすると、住民の意見に対して、「参考にさせていただく」「検討してまいりたい」などと言って何も変えないケースも多い。

なぜそのような進め方をしてしまうのか? 行政の枠の中で作るほうがまとまりやすい(落としどころが作りやすい)、策定途中で住民の意見を聴くと、まとまる話もまとまらなくなるかもしれない、という懸念からきていると推測する。しかし、そのようなやり方で参加住民の満足度、納得度が高まることはなく、逆に行政に対しての不信感が募り、対決の構図になってしまうのではないだろうか。

筆者が所属する構想日本では、公共施設の個別施設の見直し計画を策定する過程において住民と一緒に考え合意形成を図る場を作る協力をしている。これを「施設仕分け」と呼んでいる。

施設仕分けには以下の3つの基本的な考え方がある。

1.「施設シート」の作成

鳥取県琴浦町で行った「公共施設レビュー」で使用した「施設シート」
鳥取県琴浦町で行った「公共施設レビュー」で使用した「施設シート」
特に「各部屋別稼働率」は重要な情報となる
特に「各部屋別稼働率」は重要な情報となる

建物や土地の基本情報や利用状況などを統一のフォーマットの「施設シート」にまとめ全体像を把握する。統一のフォーマットで作成することで、施設間、自治体間での比較が可能になる。

「施設シート」の作成にあたっては、施設にある各部屋の稼働状況をいかに詳細に調査できるかがカギになる。例えば、住民に会議室などを貸す「貸し館」の機能がある場合、部屋ごと、またコマごと(午前、午後、夜間など)に稼働状況を示さなければならないが、驚くほど多くの自治体でこれができていない。

例えば以下のようなことがある。

・生涯学習センターの中に、大会議室、小会議室、多目的教室の3つの貸会議室があるのに、大会議室が使用された時点で他の部屋も含めてその日の稼働率が100%でカウントされる。

・ある会議室の利用は、1日のうち11時から12時までの1時間しか使われていなかったのに、その日の稼働率が100%にカウントされている。

「総論賛成・各論反対」を乗り越えるには、客観的な事実を示すことが大前提だ。

2.事業と施設を一緒に考える

施設(建物)そのものだけではなく、施設の中の機能(事業)の評価(建て替える必要性や実施手法の改善策はないかなど)も一緒にすることが不可欠。

例えば、老朽化し建替えもしくは解体が必要なA施設とB施設があるとする。建物だけのことを考えると、A・B双方を建て替えるか、統合してC施設を新設するかが見直しの考え方の中心となる。しかし、A・B双方の機能を見直した結果、今ある機能のうち3割は削減できるとなれば、もしかしたら既存のD施設でその機能を吸収できるかもしれない。また、C施設を新設するとなったとしてもハコの大きさに違いが出てくる。

3.無作為に選ばれた住民(納税者視点)とコアな利用者(利用者視点)との議論による合意形成の仕組み作り

施設の見直しを行っていく上で最も難しいのが住民の合意形成である。合意形成を進めていくためには、前述のとおり、施設見直しの計画段階から、多くの幅広い住民に参加してもらうことが何よりも大切である。

幅広い住民と議論をするための手段としては、無作為に選ばれた住民を活用することが効果的と考える。利用者の視点に加えて納税者の視点から物事を考えることができるからだ。ただし、無作為に選ばれた住民の中に、頻繁に施設を利用している人が一人もいない可能性もあるため、当該施設を利用する団体の代表者にも議論に加わってもらうような工夫も必要となる。

以上のように、幅広い世代、様々な属性、施設を使っている人も使っていない人も含めていかに「みんな」で考え議論できるか、そして行政が情報をさらけ出し住民と向き合えるかどうかが、合意形成を図るための重要なポイントと言える。

香川県高松市で、「自分ごと化」の瞬間!

「施設仕分け」を一番初めに行ったのは香川県高松市。2013年11月に実施した。保健センター(7施設)、温浴施設(8施設)、スポーツ施設(16施設)、総合福祉会館(1施設)の四類型、計32施設の評価を行った。

議論の一端を紹介する。

テーマは「保健センター」。高松市は2006年に合併をしているため、保健センターも旧市町単位で設置されており、引き続き併存させるかどうかが課題となっていた。

議論が始まって間もないタイミングで、保健センターの調理実習室を頻繁に使っていた利用団体の代表者から、「この保健センターは絶対に必要」「私たちは市のための活動をしているのにその拠点がなくなるのはとても困る」という趣旨の発言があった。しかし、議論が進むにつれて、日常的に利用している保健センターの近くにコミュニティセンターがあり、そこにも調理実習室があって稼働率もそれほど高くないことがわかってくると、「大事なことは活動できる場所があることなので、この保健センターにこだわっているわけではない」と発言された。明らかに、初めと発言の内容が変わっていた。

これは、行政と住民の関係を考える上でとても重要なシーンだと私は思う。住民は行政に比べて圧倒的に情報量は少ない。少ない情報や断片の情報の中で考えると、現状を変えられることには当然ながら抵抗感が出る。しかし、全体情報を知ることができれば上記代表者のように捉え方が変わる、つまりボタンの掛け違いになっていたものがきちんと元に戻ることも多くあるのではないか。

高松市公開施設評価の議論の模様(構想日本撮影)
高松市公開施設評価の議論の模様(構想日本撮影)

なお、高松市の保健センターの評価は、「総量減少」となった。無作為に選ばれた市民の意見として、

〇「保健センターを4箇所程度にし、健診などは各所のコミュニティセンターを使用。各地域すべてに保健センターは不要」

〇「高松保健センター(筆者注:最も大きいセンター)は総括拠点として充実を図る。その上で、他の保健センターはコミュニティセンター内に集約し、他のセンターは廃止すべき」

〇「更新時期・建替え時期に廃止を含めて検討する」

など、個別具体的なものが多く出された。

総論・各論ともに「自分ごと」として捉えた結果ではないだろうか。住民にとって「自分ごと」になるかどうかは、公共施設の見直しに限らず、これからの行政経営や社会そのものを考える上で、必要不可欠な要素だと私は考える。

高松市はその後2016年に策定した「高松市公共施設再編整備計画(一次)」において、7つある保健センターのうち5つの保健センター機能を「総合センター」に統合することを決定した。

日本全体の公共施設の棟数は、2011年から2017年の6年間で、約37万棟から約43万棟へと、6万棟も増加している(出所:消防庁「防災拠点となる公共施設等の耐震化推進状況調査報告書」)。これまで述べてきたように、老朽化、市町村合併、生活の変化などによって、公共施設の見直しが迫られているにもかかわらずだ。

例えば体育館は全国の市町村(1724)で 6900 棟以上(平均約4棟/市町村)あることになる
例えば体育館は全国の市町村(1724)で 6900 棟以上(平均約4棟/市町村)あることになる

「隣の町にあるからうちの町にもあったほうがよい」といった、いわゆる「フルスペック主義」の発想が、合併によってさらに助長されている可能性があると感じる。「ないものねだり」から「あるもの探し」へと発想の転換を早急にしなければならない。そのためには、行政が住民にしっかりと情報をさらけ出し、住民と向き合って議論していくほかに手はないと考える。その積み重ねが、行政・政治や社会を「自分ごと化」することにもつながると思う。

「時の法令」平成30年12月15日号(第2063号)より転載(一部修正、写真は追加)

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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