【妊娠中のオメガ3摂取とアトピー性皮膚炎予防の関係】

妊娠中の栄養摂取が生まれてくる赤ちゃんの健康に影響を与えることは、多くの研究で明らかになっています。特に近年注目されているのが、オメガ3脂肪酸の摂取です。

オメガ3脂肪酸は、魚油に多く含まれる必須脂肪酸で、体内で作ることができないため食事から摂取する必要があります。抗炎症作用があることで知られ、様々な疾患の予防に効果があると言われています。

今回、デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが、妊娠中のオメガ3脂肪酸摂取と子どものアトピー性皮膚炎発症リスクの関係について、遺伝子型も考慮に入れた大規模な研究を行いました。

この研究では、736人の妊婦さんを対象に、妊娠24週から出産1週間後まで、1日2.4gのオメガ3脂肪酸サプリメント（魚油）またはプラセボ（オリーブオイル）を摂取してもらいました。そして、生まれた子どもたちを10年間追跡調査しました。

【遺伝子型によって異なるオメガ3の効果】

研究の結果、オメガ3脂肪酸の摂取効果は、母親のCOX1遺伝子という特定の遺伝子の型（遺伝子型）によって大きく異なることがわかりました。

COX1遺伝子は、炎症に関わる物質の産生に関与しており、アトピー性皮膚炎の発症にも影響を与える可能性があります。この遺伝子には、TT型、CT型、CC型の3つの型があります。

研究の結果、TT型の遺伝子を持つ母親（全体の61%）から生まれた子どもでは、オメガ3脂肪酸の摂取によってアトピー性皮膚炎の発症リスクが30%も低下しました。一方、CT型（33%）では効果がなく、CC型（6%）ではむしろリスクが増加する傾向が見られました。

この結果は、オメガ3脂肪酸の効果が個人の遺伝子型によって大きく異なることを示しています。つまり、同じサプリメントを摂っても、人によって効果が全く違う可能性があるのです。

【個別化予防の可能性と今後の展望】

この研究結果は、アトピー性皮膚炎の予防に対する新しいアプローチの可能性を示しています。

将来的には、妊婦さんのCOX1遺伝子型を調べ、TT型の人にだけオメガ3脂肪酸サプリメントを勧めるという「個別化予防」が可能になるかもしれません。これにより、効果的かつ効率的なアトピー性皮膚炎の予防が実現する可能性があります。

この研究結果は非常に興味深いものですが、日本人を対象とした研究はまだ行われていません。日本人の遺伝子型の分布や、日本の食生活を考慮した追加研究が必要でしょう。また、オメガ3脂肪酸の摂取量や期間についても、さらなる検討が必要です。

アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に発症することが多く、子どもの生活の質を大きく低下させる可能性がある皮膚疾患です。日本でも患者数が多く、有効な予防法の確立が求められています。

この研究結果をきっかけに、今後さらに研究が進み、アトピー性皮膚炎の予防法が確立されることが期待されます。妊婦さんや子育て中の方々にとって、大きな希望となる可能性があります。

ただし、サプリメントの摂取は医師に相談の上で行うようにしましょう。特に妊娠中は、赤ちゃんへの影響を考慮し、安全性が確認されたものを適切な量で摂取することが重要です。

参考文献：

Chen, L., Brustad, N., Luo, Y., et al. (2024). Prenatal Fish Oil Supplementation, Maternal COX1 Genotype, and Childhood Atopic Dermatitis: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Dermatology. Published online August 28, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.2849