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米FRB、3月の会合で出口戦略の議論進むか

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

FRB(米連邦準備制度理事会)は1月末に開かれたFOMC(公開市場委員会)会合で、金融政策の据え置きを賛成多数で決めたが、20日に公表された当時の会合での意見のやり取りを要約した議事録を見ると、FOMCの各委員はいわゆる、出口戦略(利上げへの転換時期や量的金融緩和からの脱却を目指す戦略)への転換を意識し始めていることが分かった。

ベン・バーナンキ米FRB(連邦準備制度理事会)議長=FRBウェブサイトより
ベン・バーナンキ米FRB(連邦準備制度理事会)議長=FRBウェブサイトより

次回3月19-20日のFOMC会合では、出口戦略への転換について議論が進む可能性が出てきた。

この背景には、景気下振れリスクに対するFRBの懸念が和らいだことがある。確かに前回1月29-30日のFOMC会合後に発表された声明文では、「雇用はゆっくりとしたペースで拡大しているが、失業率は依然高水準にある」とし、また、「世界の金融市場の不安定な状況はやや緩和したものの、米国経済の先行きの見通しが悪化するリスクは依然として残る」と指摘、景気悪化リスクが強調されていた。

このため、米国のエコノミストは、「FRBは雇用市場がはっきりと改善したことを確認するまでは現行の量的金融緩和政策を全速力で進める」(レイモンド・ジェームズ・インベストメント・サービスのチーフエコノミスト、スコット・ブラウン氏)という見方を強め、いつFRBが量的金融緩和政策から脱却するかのという市場の最大の関心事である、出口戦略への転換を窺わせるような兆候は声明文を読む限りでは見つからなかった。

しかし、今回公表された議事では、景気悪化リスクに対するFOMC委員の認識は声明文で示されたような一方的な景気悪化リスクとは異なるニュアンスが垣間見える。議事録では、「多くの委員は、世界的な金融市場の緊張がいくぶん緩和した上に、いわゆる米国の“財政の崖”問題による当面の危機がとりあえず回避されたこと、また、失業率がゆっくりと低下し、住宅セクターも強くなってきており、景気の下振れリスクはやや低下したと判断している」と述べており、景気認識の改善で、出口戦略の議論がしやすくなっている。

議事録:FRB、量的金融緩和めぐり意見バラバラ

前回1月のFOMC会合で決定したことをもう一度おさらいすると、(1)政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の現状0~0.25%を維持する(2)2012年9月の会合で導入された月400億ドル(約3.7兆円)のMBS(不動産担保証券)の買い取りによる第3弾の量的金融緩和(QE3)を継続する(3)2011年9月に導入された月450億ドル(約4.2兆円)のツイストオペ(短期債を売却して長期債を購入し、バランスシートを拡大しないで保有債券の期間を長期化させるオペ)を継続する―ということになる。出口戦略への転換とは、これらの金融政策を巻き戻す(英語は”unwainding”)ことを意味する。

この金融政策の現状維持の決定は全員一致ではなかった。11対1の賛成多数で決まっている。反対したのは新メンバーとなったばかりのFRB傘下カンザスシティ地区連銀のエスター・ジョージ総裁だ。同総裁は超低金利と国債などの資産買い取りによる量的金融緩和を長期に継続すれば、インフレ悪化リスクを高めると主張した。しかし、ジョージ総裁のような反対意見はこれが初めてではない。昨年12月の会合までFOMC委員だったリッチモンド地区連銀のジェフリー・ラッカー総裁は同様な主張を続けており、ジョージ総裁はそのあとを引き継いだ格好となっている。言い換えれば、まだFRB全体としては出口戦略への転換は大勢にはなっていない。

しかし、今回の議事録では、量的金融緩和政策の継続には賛成票を投じたものの、ジョージ総裁のように量的金融緩和政策の継続を完全に支持している委員ばかりではなく、複数のFOMC委員はこのまま合計で月850億ドル(約7.9兆円)もの資産買い取りによる量的金融緩和を継続することで将来起こりうる悪影響について議論していることが明らかになった。これは出口戦略への転換に向けた準備ともいえる。

エコノミストの中には、「今回の議事録ほど、FOMC委員の見解がここ数年に見られたのとは違い、かなり割れてきたことを示すものない」(トロント・ドミニオン証券のシニアエコノミスト、ミラン・マルレイン氏)と指摘する声も上がるほど、FRBは一枚岩ではなくなってきたということだ。

興味深いのは世界最大の債券ファンド投資会社ピムコの最高投資責任者(CIO)として有名なビル・グロース氏が、議事録の公表後、自身のツイートで、「多くのFOMC委員は資産買い取りを続けることに懸念を示している。もし米国経済が回復すれば、今年後半には月850億ドルの資産買い取りプログラムは危機にひんするかもしれない」と指摘している点だ。どんな危機かは明確ではないが、他のエコノミストも指摘しているように、FRB内部での意見の相違が今後、資産買い取りプログラムを変更しようとする場合の諸条件をめぐって合意することが困難となり、それはFRBが柔軟な金融政策運用ができなくなる恐れがあることを意味している。

FOMC委員、資産買い取りの継続に懸念

議事録によると、一部のFOMC委員が資産買い取りプロクグラムについて懸念しているというのは、「FRBは償還期間が長めの国債を大量に買い続ければ、いつかの時点でそれらの国債を市場に売り戻すとき、巨額の損失が発生するリスクが高いこと、また、インフレリスクを高めることにもなり、さらには、投資家の意識や行動に作用して金融市場の安定を崩す恐れがある」ことだ。

その上で、一部の委員からは、「経済の先行き見通しやこれまでの量的金融緩和の効果、あるいは悪影響の様子を見ながら、資産買い取りのペースを変えることを視野に入れて検討すべき」だという提案も行われている。ある一人の委員は、「FOMCの会合が開かれるごとに経済データに基づいて段階的に資産買い取り額を(増やしたり減らしたり)柔軟に変えるべきだ」と主張している。また、多くの委員は、「FRBは資産買い取りの効果や悪影響を評価していけば、雇用市場の先行き見通しがはっきりと改善したと判断する前に、資産買い取りの規模の段階的縮小か、あるいは中止について議論しなければならないかもしれない」と指摘している。

また、FRBは出口戦略への転換を決める判断基準として、(1)失業率が6.5%を下回ること(2)1-2年先のインフレ率がFRBの長期達成目標(2%上昇)を0.5%ポイント超えない見通しであること(3)インフレ期待が抑制されていること―の3点を挙げている。このため、議事録では、「ある一人の委員は、これらの基準がクリアされた時点で、FRBが即座に利上げに転じると誤解している市場参加者がいる」と指摘している。

この点については、議事録では、「多くの委員はFRBが出口戦略に転換しても、しばらくの間、資産買い取りを市場に売り戻さず保有し続けることで、市場が思っているほど早く大量の国債やMBSを売却しないと約束する方法も従来とは違う形での量的金融緩和になりうることについて論じた」と述べている。これは出口戦略を意識したものといえるだろう。

ただ、委員の中には、「雇用市場が相当改善するまでは資産買い取りは続けるべき」との意見も根強く、他の委員も「FRB がすぐに資産買い取りを終了したり、あるいは、買い取り規模を縮小したりすれば、それによって生じる潜在的な損失額は莫大なものになる」と懸念を示している。さらに、「過去の経験から量的金融緩和政策の中止を急ぐあまり、その後の経済成長や雇用、物価の安定に悪影響が及んだ」と指摘する意見もあって、今回は多くの委員は量的金融政策を維持したとしている。

次回3月の会合では、これまでの量的金融緩和政策のレビューが行われる予定で、会合後にベン・バーナンキ米FRB議長による記者会見も予定されており、出口戦略に関する議論が注目される。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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