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アトピー性皮膚炎の新薬アドトラーザ、外陰部のかゆみにも高い効果!治療の選択肢が広がる

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

アトピー性皮膚炎は、皮膚の慢性的な炎症性疾患で、強いかゆみを特徴とします。特に外陰部に発症すると、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。この度、外陰部のアトピー性皮膚炎に対する新薬トラロキヌマブ(商品名:アドトラーザ)の有効性が、実臨床データにより明らかになりました。

トラロキヌマブは、炎症を引き起こすサイトカインの一つであるインターロイキン13(IL-13)を阻害する抗体医薬品で、注射により投与されます。海外11カ国で実施された大規模観察研究TRACE試験の中間解析結果が、2024年のElevate-Derm West Conferenceで発表されました。

【外陰部アトピー性皮膚炎に対する高い有効性】

TRACE試験に登録された824人の成人アトピー性皮膚炎患者のうち、123人(14.9%)に外陰部病変が認められました。トラロキヌマブ投与3カ月後の時点で、医師による総合評価スコア(IGA)が消失またはほぼ消失に達した患者の割合は67%に上りました。これは治療開始時の0%から大幅に改善しています。IL-13を標的とする注射製剤の登場により、外陰部アトピー性皮膚炎患者の治療選択肢が大きく広がったといえるでしょう。

【QOLの改善と睡眠障害の軽減】

外陰部のアトピー性皮膚炎は、QOL(生活の質)を著しく損ねます。TRACE試験でも、皮膚科学的生活の質指数(DLQI)は治療開始時の平均10.2から3カ月後には6.2に低下し、QOLの改善が示されました。また、睡眠の質を数値評価したSleep-Numeric Rating Scaleのスコアも、5.4から3.1へと2.3ポイント減少し、睡眠障害の軽減が認められました。日本でも多くの方がアトピー性皮膚炎のQOL低下や睡眠への影響に悩まされています。トラロキヌマブによるこれらの症状改善は、患者さんにとって大きな福音となるでしょう。

【副作用への注意と専門医への相談を】

トラロキヌマブは全般的に忍容性が高く、TRACE試験でも高い治療アドヒアランス(治療遵守)と満足度が報告されています。しかし、注射部位反応など副作用の可能性もあるため、投与中は定期的な皮膚科専門医の診察を受けることが大切です。外陰部のアトピー性皮膚炎は話しづらい悩みではありますが、皮膚科医に相談することをおすすめします。新薬アドトラーザにより、外陰部のアトピー性皮膚炎に伴うQOL低下や睡眠障害を改善できる可能性が広がっています。

トラロキヌマブは、日本でも2022年に既存治療で効果不十分な中等症から重症の成人アトピー性皮膚炎を適応症として承認されました。IL-13を阻害する作用機序は、これまでのステロイド外用薬や免疫抑制剤とは異なります。外陰部のアトピー性皮膚炎に対し、IL-13阻害薬が新たな治療選択肢になると期待されます。

アトピー性皮膚炎は、乳幼児から成人まで幅広い年齢層に発症し、外陰部を含む全身に症状が及ぶことがあります。重症化すると、性交痛など性機能の問題にもつながり、パートナーを含めたQOL低下の原因となります。デリケートな部位の湿疹は医療機関への受診をためらいがちですが、アトピー性皮膚炎の適切なコントロールのためにも、早めに皮膚科を受診しましょう。日本人の成人アトピー性皮膚炎患者は推定約40万人とされ、そのうち中等症から重症は70%に上ります。外陰部症状を有する方も少なくないと考えられます。

アドトラーザをはじめとする新薬の登場で、外陰部のアトピー性皮膚炎に対する治療の選択肢が広がっています。症状でお悩みの方は、ぜひ皮膚科専門医に相談してみてください。

【参考文献】

Serra-Baldrich E, et al. Real-world effectiveness of tralokinumab in adults with atopic dermatitis on the genitals: Interim data on improvements in physician-assessed disease severity and patient-reported outcomes in up to 3 months of treatment in the TRACE study. Poster presented at: Elevate-Derm West Conference; November 7-10, 2024; Scottsdale, Arizona.

Armstrong AW, et al. Tralokinumab real-world use in adults with atopic dermatitis: baseline characteristics of the first 100 patients recruited to the TRACE study in the United States. Br J Dermatol. February 2024. https://doi.org/10.1093/bjd/ljad498.056

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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