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ボーデン・バレット、唯一(?)の弱点よりも際立つ勤勉さ。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
鋭いランニングとスペースへ球を運ぶ意識が際立つ。(写真:つのだよしお/アフロ)

 ラグビーのニュージーランド代表で、今季はサントリーに加わり国内トップリーグで準優勝を果たしたボーデン・バレットが、同リーグの得点王とベストフィフティーンとなった。サントリーは今年度限りで退団する。

 今年5月27日に30歳の誕生日を迎えたバレットは、ニュージーランド代表として88キャップ(代表戦出場数)を誇り、世界年間最優秀選手に2度も輝いている。今季のトップリーグでは対象となるレギュラーシーズン第1~7節で128得点を挙げていた。

5月23日はパナソニックの決勝でプレーし、翌24日にはリーグの年間表彰式に出席。それぞれ試合後、式典前に、共同会見に応じている。

 24日に至っては、チームの同僚が証言する「柔軟性」の話題にも触れている。日本代表でもある中村亮土主将がバレットの印象を聞かれ、冗談交じりに「こんなに身体が硬くても世界トップレベルの選手になれるんだ(と思った)」と話していたが…。

 以下、試合後の共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——パナソニックの印象は。

「我慢強く、規律があるチームでした。防御のラインスピードを上げてくるのでエッジ(大外)まで運べず、真ん中で苦労するイメージ。なので、コンテストキックを蹴っていた。サントリーとしても我慢してボールを展開していこうとしましたが、パナソニックにはジャッカルが得意な選手もいた。ボールを持つだけではなく、キックで蹴り返してもいた」

——試合では、思い通りにいった場面といかなかった場面があったように映ります。

「最初にトライ、ペナルティーゴールで何点か決められ、サントリーも緊急性が感じられ、ミスが起こった現実もあり、結果、(チャンスでスコアを)決められなかったところがあったが、ハーフタイムの時点では全然、勝てると思っていた。最後の最後もひっくり返せると思ったが、ラグビーなのでこういう結果になることもある」

--もともと1年契約で来日。来季以降の計画は。

「2年間(ニュージーランドの)ブルーズと契約を結びました。それでフランスのワールドカップまで残ります」

--また日本へ戻ってきたいか。

「またチャンスがあれば。ソーシャル的にも体験したいものがあります」

——日本は特異な状況にありました。

「チームメイトと外で遊べなかったことは悔やまれますが、サントリーのクラブやラグビースタイルは好きだった」

 以下、表彰式前の共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——入団時、スタンドオフ(10番)としての試合経験を積んでいきたいと話していた。

「ブルーズ(所属先)やオールブラックス(ニュージーランド代表)でも10番でプレーしていない期間が長かった。その意味で、サントリーで10番でのプレー機会を与えてもらえたのはありがたかったです。楽しめました。(役割上)自分がセットピースからのムーブをコールできた(どう動くかを決められた)。自分がコールを決め、アタックができるというのは好きな部分ですので、ニュージーランドに帰ってもこのパフォーマンスを継続できるようにしたいと思っています」

——決勝戦で負けた時には悔しそうな表情をしていた。

「自分が日本で学んだことはたくさんあり、ニュージーランドへも持って帰れる。スピード、スキルのレベルの高さです。ニュージーランドからサバティカル(※)という制度で選手が来ているとなると、『休暇で来ているのだろう』という見方をされるが、そんなことはなく、日本のトップリーグの上位6~8チームはスーパ―ラグビーのスタンダードにある。プレーオフのセミファイナル以降になると、クボタ戦(準決勝)、パナソニック戦のようなチャレンジングな試合になる。レベルの高い経験ができた」

※バレットはニュージーランドラグビー協会とワールドカップフランス大会のある2023年まで契約を結んでおり、特別に充電期間としてサバティカルの条件を得て1シーズン日本でのプレーを許されていた。

——サントリーの同僚は、あくまで冗談で「ボーディを見て、あんなに身体が硬くても世界のトップ選手になれるんだと感心した」と話していました。もし本当にそうなのだとしたら、あなたはいかにして日本の仲間たちの信頼を集めたのでしょうか。

「自分でも、すごく身体は硬いと思います。うちの父も身体が硬いので、遺伝でもあるみたい。いま、ストレッチをしても、足の指先まで手が届かないです。

 

 ただ、自分としてはチームメイトから信頼されるのが大事だと考えています。チームメイトが信じてプレーしてもらえるよう、戦いのために準備しています。勝つことも負けることもある。昨日は負けたが、それもラグビーだと思っています」

 身体の柔軟性という唯一の弱点のようなものについて指摘していた中村は、その場でバレットをこうも評していた。

「基本的にキックの練習は時間をかけてやっています。僕らがグラウンドを上がって、シャワーを浴びても、まだキックを蹴っているという状態が毎日のように続いていて。あとはオンとオフの使い分けが非常にうまい。クラブハウスに来たらラグビーに集中していますが、変に長居しないというか。ダラダラいないですぐに帰って家族とどこかへ行ったりしていますね」

 与えられた職務を全うする心と、ワークライフバランスへの意識。バレットはその資質により、クラブの進化を後押ししたのである。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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