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潜水艇タイタン事故から1年 次なるタイタニック探索ツアーの成功に意欲を示す億万長者たち

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

イギリスの豪華客船、タイタニック号の探索ツアーに出発した潜水艇が深海で消息を絶ち、1年が経った。

今も海に沈むタイタニック号の残骸を見るために5人の搭乗者を乗せて出発した潜水艇「タイタン」号は昨年6月18日、深海で水圧に押し潰され爆縮(インプロージョン)したと見られている。

この事故により、ツアーを実施した米オーシャンゲート社のストックトン・ラッシュCEOをはじめ、フランスの探検家、パキスタンの実業家親子など搭乗者全員が帰らぬ人となった。

この事故はさまざまな観点で物議を醸した。8日間のツアー料金が1人につき約25万ドル(約3900万円)と高価にもかかわらず、潜水艇は「実験的」なもので、船体(乗客が座っていた空間の周囲)の主要部分は通常のチタンではなくより安価なカーボンファイバーで建造されていたことが判明した。またガラス製ののぞき窓もメーカーにより認証されていたのは深度1300メートルまでだったという報道もある。操縦にはゲーム用コントローラーが使用されていた。

潜水艇の破片は海底から回収され、7月にオーシャンゲート社は営業を停止した。

この事故後、タイタニック号を見に行くツアー市場は閉ざされたと見る向きもあったが、CNNは別の米大手潜水艦運営会社、トリトン・サブマリンズ社が残骸ツアーの成功に向け、現在意欲的に取り組んでいることを報じている。同社はタイタン号が安全基準を満たしていなかったとしており、自社による安全なタイタニック・ツアーはすでに計画段階にあるとした。

不動産業のザ・コナー・グループを経営する億万長者で、トリトン・サブマリンズ社の出資者と見られるラリー・コナー(Larry Connor)氏も、事故から1年経った今、メディアに対し口を開いた。

「正しく取り組めば、本当に人生を変える素晴らしいもの(深海ツアー)になることを世界に示したい」と、ツアー成功へ意欲を見せた。

1912年4月14日深夜に氷山に衝突し15日未明に沈没、今も深海に残るタイタニック号。ロマンを掻き立てる「残骸ツアー」は富豪や探検家の間で今も人気。
1912年4月14日深夜に氷山に衝突し15日未明に沈没、今も深海に残るタイタニック号。ロマンを掻き立てる「残骸ツアー」は富豪や探検家の間で今も人気。提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ

CBCニュースも事故から1年となる今、「また一人の億万長者がタイタニック号へ向かおうとしているが、業界の基準を無視しているわけではないと発言」と報じた。

潜水艇業界を先導する企業として知られるトリトン・サブマリンズ社について、CBC曰く「タイタニック号探検が容易に思えるほどの深さまで潜水したことがある」。タイタニック号が沈んでいるのは水深3800メートルの場所で、記事によると同社の潜水艇は海面下約1万900メートルという地球上でもっとも深いマリアナ海溝まで到達した実績があるという。

次なるツアーに意欲を見せるコナー氏の力強い支援者でありビジネスパートナーが、トリトン・サブマリンズ社共同設立者のパトリック・レイヒー(Patrick Lahey)氏だ。

このレイヒー氏とトリトン・サブマリンズ社については、2003年6月に潜水艇でタイタニック号を見に行った実績を持つタイタニック号探検家、ラリー・デイリー(Larry Daley)氏もお墨付きを与えている。

デイリー氏は「彼らはすべてをよく設計&エンジニアリングし、安全面について妥協せず高い基準で事業を行なっている。彼らには専門知識があり資金的支援もある。そして彼らは物事を急いでいない。レイヒー氏が指揮を執れば、安全は約束されたも同然だろう」と語った。

事故を起こしたオーシャンゲート社の故ラッシュCEOは「認証がイノベーションの妨げになると感じていた」と伝えられるが、トリトン・サブマリンズの共同創業者、レイヒー氏の考えは真逆だという。

探検家デイリー氏によると、事故を起こしたタイタン潜水艇とは異なり、トリトン・サブマリンズの潜水艇は独立機関によって認証される予定で、すべてのプロセスが完了するまで2、3年かかるだろうとのこと。

またトリトン・サブマリンズ社とオーシャンゲート社の決定的な違いは、創業者の性格にあるとも述べた。「(トリトン・サブマリンズ社は)近道をしたり、エゴをもって行動したりする人たちではない」。

トリトン・サブマリンズ社による深海ツアーがいつ実現されるのか具体的なタイムラインは発表されていないものの、認証を経た数年後になりそうか。大ヒット映画の題材にもなり、ロマンを掻き立て、沈没から100年以上経った今も、世界中の富豪や冒険家を魅了する「タイタニック残骸ツアー」。いざ実現となったならば二度と悲劇が起こらないよう安全第一に実行されることを願うばかりだ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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