「2020年に刑法見直しの実現を」 続く無罪判決を受け、法務大臣に要望書提出
3月に性犯罪事件の無罪判決報道が相次いだこと受け、性被害当事者を中心とした団体「一般社団法人Spring」は、法務省と最高裁に刑法やその運用の見直しなどを求める要望書を提出した。
5月13日午後、同団体の代表理事・山本潤さんらが最高裁の大谷直人長官宛ての要望書を担当者に手渡した。
「2017年の刑法改正のとき、裁判官の研修をするなどの附則がつきましたので、ぜひその内容をもっと進めていただければということと、子どもの性被害に対しての証言について、司法面接などをより進めて、実行していただければと思います」
最高裁担当者は、「持ち帰って関係部署で共有します」とコメントした。
このあと、山下貴司法務大臣と面談。面談で山下大臣からは「(刑法の見直しについて)実態調査を進めていく」と回答があったという。
■「被害の実態調査」、刑法見直しに反映を
要望書の求める内容は下記の6点。
1、2017年の刑法改正の折に「3年後」とされた見直しの目処の2020年に、刑法改正見直しを実現してください。
2、「暴行または脅迫」ならびに「抗拒不能」について、撤廃を含めた見直しを要望します。
3、不同意性交等罪の創設を要望します。
4、地位関係性を利用した性犯罪規定の創設を要望します。
5、衆議院附帯決議四(※)を踏まえ、性犯罪等被害の実態調査結果を改正刑法の運用および見直しに反映してください。
※「性犯罪被害が潜在化しやすいことを踏まえ、第三次犯罪被害者等基本計画等に従い、性犯罪被害に関する調査を実施し、性犯罪等被害の実態把握に努めること」
6、参議院附帯決議八(※)を踏まえ、子ども(および障害者など)の事件では司法面接を必ず行い、ビデオ証言を採用してください。
※ 「児童が被害者である性犯罪については、その被害が特に深刻化しやすいことなどを踏まえ、被害児童の心情や特性を理解し、二次被害の防止に配慮しつつ、被害児童から得られる供述の証明力を確保する聴取技法の普及や、検察庁、警察、児童相談所等の関係機関における協議により、関係機関の代表者が聴取を行うことなど、被害児童へ配慮した取組をより一層推進していくこと」
夕方からの記者会見での、山本さんの主な発言は次の通り。
(3月26日の名古屋地裁岡崎支部判決について)「抗拒不能が認定されなかった。父が娘に性行為をし、それが同意のないものであったことは認められたが、抗拒不能と断定できる状況ではないとして無罪となった。被害者にとって、(抗拒不能や暴行脅迫要件は)ハードルが高い条件ではないか。
子どものときからひどい被害に遭い続けて抵抗することが難しい状況になっている人の心理についての精神医学的、心理学的知見が考慮されていないのではないか」
(3月28日の静岡地裁判決について)「12歳の子どもが実父から被害を受けたとして裁判となったケース。供述が一貫していない、証言が信用できないという理由から無罪となったが、子どもが一貫して証言をすることは難しい。
裁判の場での証言は子どもにとってハードルが高く、また、時間が経つごとに記憶の汚染がおきる。子どもが被害者の場合、早い段階で司法面接を行ってほしいし、(現状では加害者側が拒否すれば採用されない)ビデオ証言を採用してほしい」
「自分自身が被害当事者として、2017年の少し前ぐらいから刑法改正に取り組んできた。同意のない性交について訴えてきたが、(そのような判断基準では)認定できないと言われ続けた結果が今回の岡崎支部などの無罪判決につながったと思うととても悔しい。
2017年の改正で、監護者性交等罪が創設されたのは本当にいいこと。しかし、岡崎支部判決のケースでは、被害者が19歳だったから適用されなかった(※)。法で抜け落ちてしまったところ。(性虐待について)18歳以上だったらなんとか自分で対処できるとか、そういうものではない。被害を受けた人に配慮した条文規定をつくることも大切だったのではないかと思う」※ 監護者性交等罪は「18歳未満の者に対して、親などの監護者がその影響力に乗じて性交等をする罪」
「要望書を最高裁の担当者と法務大臣が受け取ってくださって、真摯に対応してくださったのは心強いこと。ただ、この状況を変えていくためには、さらに議論が大切」
「同意のない性交を罪に」「子どもへの司法面接の徹底」などは、一連の無罪判決が報じられる前から被害者団体・支援団体が訴えてきたこと。世論の高まりを機に、声を上げづらい性暴力被害者の声が伝わることを願いたい。
(※記事中の画像は筆者撮影)