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五輪野球、全試合「無観客」決定。「最後の砦」福島も発表を覆す

阿佐智ベースボールジャーナリスト
東京オリンピックでは侍ジャパンを応援する姿が見られることはない(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 既報通り、10日未明の再抽選発表時には野球競技として唯一有観客で実施されることになっていた7月28日の東京オリンピックの野球開幕戦、日本対ドミニカ戦が、夕方になって無観客にする旨発表された。当初予定から遅らせての再抽選結果発表にもかかわらず、その「最終決定」をまさに舌の根も乾かないうちに180度転換という「ちゃぶ台返し」に多方面から落胆や批判の声がわき起こっている。

 収束の気配を見せないコロナ禍の中、オリンピックの首都圏での無観客開催が決まり、開催会場でも人数制限が課され、一度「当選」したチケットの再抽選が行われることになり、その結果が10日に発表された。

 フリーランスの私のような身分にはIOCが絡む国際大会のメディアパスは基本的に個人としては出ない。そういうわけで抽選に参加した結果、「復興五輪」のシンボルとして福島あずま球場で行われる野球競技の開幕戦だけが「当選」したのは2年前だったか。当時対戦カードは明らかにはなっていなかったが、常識的に考えて開催国・日本が出場することは間違いない。幸運に恵まれたものだと思っていたのもつかの間、昨年初頭にはコロナが世界中を席巻するようになり、オリンピックも延期となった。その後の顛末は周知のとおりである。私も本音を言うと、オリンピックを巡る様々な風説が流れる中、再抽選で選に漏れた時はそれはそれで別に仕方がないと思うようになると同時に、どうしても見たいという気持ちも失せていた。

 それでも、いざ結果発表となると気にはなる。メールで結果を知らせるとのことなので、スマホからのぞいてみると、確かに組織委員会からメールは来ていたが、そこには結果についての文言はなく、チケット販売サイトに自分でアクセスして確認しろとのこと。一旦、そちらで当選を出しておいて、入金までさせ、いたしかたない事情はあるにせよ、主催者側の都合で再抽選ということになり、さらには結果発表も延期しておいて、それはないだろうとは思ったが、とりあえずアクセスした。幸いというべきか、ともかくチケットは「有効」。つまり再抽選で「当たった」ようだった。私は「当選」のままだからよかったものの、自分でわざわざアクセスさせられた挙句、「落選」だった人はやりきれなかっただろう。

幻となった東京オリンピック野球チケット(一部改変,筆者の元に送られてきたメールのデータより)
幻となった東京オリンピック野球チケット(一部改変,筆者の元に送られてきたメールのデータより)

 デジタル化が進む中、今大会のチケットは、自分でQRコードを読み取り、それを試合当日スマホの画面か、あるいはプリントアウトしたものを示す方式だった。せっかくの記念にと、いわゆる「生券」、紙のチケットが欲しい場合は、追加料金を支払って送ってもらうことになっていた。しかし、このような状況下、試合までにチケットホルダーの手元に「生券」が届くかどうかは不明瞭だったため、チケットの発送は大会後とし、試合当日の入場の際にはQRコードを示すことになっていた。ただでさえ高額のチケット。多くの人が記念としてもっていたいだろう。紙のチケットくらい全員に送付すればいいのではと前々から思っていたが、このやり方の前には、とにかく儲けたいという組織委員会の姿勢を感じざるを得なかった。ちなみに「配送料」と「発行手数料」で計1200円かかる。本来手渡すべきチケットを印刷し、購入者の元に送るのにこれだけかかるのだ。

 チケットの入手が「確定」となれば、会場までの足をおさえねばならない。野球の開幕戦には7500人ほどが入場予定だったようだが、他の人たちも同じように福島までの交通機関をおさえにかかっただろう。宿泊施設もおさえねばならない。

 インターネットで調べると、宿、新幹線、飛行機、高速バスともまだ席にかなり余裕がある。コロナの状況を考えると、この先、感染爆発が起こる可能性もゼロではない。そう考え、とりあえず少し待ってみようと予約は控えた。ただ、さんざん待たせた挙句の「最終決定」が覆ることなど、試合直前に大規模なパンデミックが起こらない限りはまさかないだろうと考えていた。

 しかし、「最終決定」はいとも簡単に崩された。夕刻のニュースに「福島も無観客へ」の見出しが躍っていたのだ。その直前には、有観客試合のオリンピックチケットはそれだけで歴史的「お宝」、という記事が出ていたのだが、その直後のまさかのニュースだった。

 とりあえず、チケットセンターに電話してみた。案の定の有料ナビダイヤル。さんざん待たされた挙句、電話の向こうのオペレーターは、このニュースを知らないようだった。上司に聞くと言われ、さらに待たされた後の答えは、「詳細はホームページで」とのこと。ほとんどの人が交通機関や宿泊先をおさえねばならないのだから、こういう情報は、いち早くチケットホルダーに知らせるべきでは、との問いには、「交通機関などについては、払い戻しの件も合わせまして各交通機関の定めるポリシーに則っています」とのこと、つまりは組織委員会のあずかり知らぬ話ということだった。「最終決定」を受けての「当選」なら誰だって足と宿はおさえにかかるでしょう、との私の声には「申し訳ございません」が繰り返されただけだった。

 「無観客試合」という判断は、10日午後になってから福島県知事によってなされたものであったらしい。その判断については、正直いたし方ないと思う。しかし、その判断をなぜ、「最終発表」のあったその日の夕刻にしたのかには大いに疑問が残る。するならするで10日より前にすべきだっただろう。既報ではその判断の要因は、前日の札幌でのサッカーの無観客の決定らしいのだが、他所の動向をみての「後出し」的な判断からは、パンデミックを防ぐという明確な意志を感じることは難しい。なし崩し的な判断には、多くの人が失望しているはずだ。

 ニュースでの報道から30分ほどして、組織委員会からメールがきた。今度は、チケットが無効になった旨が明記されていた。

「度重なるご連絡となりますことをお詫び申し上げます。

東京2020オリンピック観戦チケットの取り扱いについてご連絡いたします。

福島あずま球場で開催を予定している全セッションが無観客となります。

東京2020組織委員会は、7月8日の五者協議及び自治体等連絡協議会を経て、福島あづま球場で開催される全セッションについては、有観客になると公表を行っていたところです。

 一方、本日7月10日、福島県より、直近の新型コロナウイルス感染症の状況悪化と関係自治体における対応の変化を総合的に勘案して、県内の競技全セッションを無観客で開催することにしたとの連絡がありました。

 このため、福島あづま球場で開催される予定の全てのセッションが、無観客となります。

 感染拡大の防止を図るためのやむを得ない措置ではありますが、このような状況となったことは大変に残念であり、観戦を楽しみにしていただいていたチケット購入者の方々には誠に申し訳ございません。」

 朝には発行手続きを取るよう指示されていたチケットには、すでにアクセスできなくなっている。

 10年前の震災からの復興のシンボルとしてのオリンピック観戦を期待していた地元住民の間からは落胆の声が漏れているという。一旦は、客席に観覧者を入れるという決定がなされただけに、落胆の声は大きい。結論については、正解がないので誰もがとやかく言うつもりはないだろう。しかし、リーダーシップなく時流や他の動向に流された結果としてのドタバタ劇には多くの人が失望しているに違いない。

 一方、すでにVIP向けの飲食付き高額チケットは顧客の手に「生券」が行き渡っている。これらのチケットの行方については、それが使用可のままなのか無効になったのかまで私の知るところではないが、「人流」を問題とするならば、彼ら高額チケットホルダーや招待客である「五輪貴族」たちの観戦も不可とするべきだろう。

 野球競技においては、「復興五輪」として、フクシマの人々を元気づけるため、メイン会場の横浜を離れ、開幕戦のみ福島で行うのだが、無観客となった今、わざわざ選手・スタッフを首都圏から出す必要があるのだろうか。

 ファンが純粋に侍ジャパンを応援し、世界の野球を堪能するために、せめてでもできることを組織委員会には考えて欲しいと切に願う。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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