Yahoo!ニュース

今、アダストリアが面白い! 木村社長に聞く成長への新たな仕掛け 「僕らは成長プラットフォーマーだ」

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
アダストリアの木村治代表取締役社長  写真は全てアダストリアが撮影協力

 「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」などを展開するアダストリアの社長に木村治氏が副社長から昇格してから1年余りが経過した。今年5月には代表権も持つことになり、オーナーである福田三千男代表取締役会長から後継者として名実ともにお墨付きを得たといえる。コロナ禍が長引く中で、業績の回復も堅調で、2026年2月期を最終年度とする中期経営計画として、「グッドコミュニティの共創」をスローガンに、「マルチブランド・マルチカテゴリー」「デジタルの顧客接点・サービス」「グローカル」「新規事業」の4つを軸に成長戦略に取り組んでいる。数値的目標は、連結売上高は年率5%増の2800億円(2022年2月期の2015億円に対して約4割増)、EC売上高は800億円(同574億円に対して同じく約4割増)、営業利益率8%、ROE15%だ。木村社長に、新経営体制や、次々と打ち出しているM&Aや自社ECの他社開放、法人事業部門の新設、そしてライセンス事業の本格化など、怒涛の施策の狙いを聞いた。

(ライセンス事業として、来春、日本で米FOREVER21(フォーエバー21)のECとリアル店舗の出店を開始することを追記しました)。

――社長就任から1年強が過ぎたが、何を意識して経営してきたのか?

木村社長:コロナ禍でやるべきことが満載だったこともあり、バタバタと社長になった感じだったが、会長の福田から「次の攻め、次の一手はどうするのか」と言われ続けていたこともあり、アクションを起こし、いろいろな種まきをしてきた。副社長時代からの継続案件もあるし、「社長になったから」という特別な意識はあまりないが、業績を回復させること、とにかく黒字にすることを求められ、数字に対するコミットメントは強まった。

アダストリアの最近の施策を発表資料などから筆者がリスト化。怒涛の取組みに驚く
アダストリアの最近の施策を発表資料などから筆者がリスト化。怒涛の取組みに驚く

――社長就任時、「チーム経営で、スピード感を持って経営する」と言っていた。それは実現できているのか?

木村社長:突然コロナ禍が始まった2020年に比べると、ウィズコロナに慣れてきた部分もあるが、どこでどうスピード感を出したらいいのか、執行役員以上が理解し、動けるようになった。僕もワンマンでやるタイプではないし、誰もが社長をできるんじゃないかというぐらいメンバーもそろっているので、チーム・アダストリアで経営に取り組んでいる。歴代、社長が何人も変わってきた中で、福田会長なりの組織の作り方でもあると思う。

一方で、「これから成長を加速するぞ」というときにコロナ禍が始まり、「まずキャッシュだ」と動いたのは、オーナーにしかできなかった判断だと思う。コロナ禍の緊急事態宣言中も、会長も僕も毎日会社に来て、いろいろなことを想定して手を打っていったが、いち早く、僕には「お前は現場を見ろ。全国を周れ」、金銅雅之常務CFOには「キャッシュを確保しろ」など、即座に決断して各役員にミッションを割り振っていった。

そんなふうに、オーナーとしてのジャッジもできるし、取締役としてのジャッジもできる、ハイブリッドに意思決定ができる強い組織・企業になってきた。就任時に「次世代のマネジメント層を育てていきたい」とも語ったが、そこもうまく進み、コロナ禍の中で他社との違いが出たのではと自負しているし、コロナ禍を糧に普段以上に進化できたのではないか。

チーム経営体制でM&Aや法人事業、ライセンス事業など新たな仕掛けを次々と打ち出している。経営人材の成長も加速中と木村社長
チーム経営体制でM&Aや法人事業、ライセンス事業など新たな仕掛けを次々と打ち出している。経営人材の成長も加速中と木村社長

――ポイントと経営統合してアダストリアになる以前に、子会社のトリニティアーツの社長を務めた経験も活きていそうだ。

木村社長:僕はトリニティアーツの社長をやらせてもらったから経営者になれた。みんな、どんなに小さい会社でも社長を経験してみたらいいと思っている。もう一つ、自分の金で会社を経営(アダストリアの前身のポイントを退社後、福岡で婦人服専門店を起業)した経験も大きい。規模は全く違うけれど、福田会長と通じるところがあると思っている。

今、とくに子会社に対して力を入れているのは、トリニティアーツの社長時代にできなかったことや、こんなふうにできたらよかったのにといった事柄を、アダストリア本体の資金も使いながら実現できるようにしていることだ。「3年後、5年後に向けてこういうことをしたい」といった希望があっても、あの頃は借り入れをしている状況だったこともあり、なかなか受け入れられずに苦労した。たとえば当時、「ニコアンド」のCMを打つとき、「まだ早い」とか、「費用対効果は?」など相当揉めた。強引にやった形になったけれど、結果が出て、それが成長につながったという実体験もある。

資金的なこともあり、思い切った投資や施策が打てないという子会社に裁量を持たせ、早い段階からスピード感を持ったジャッジをすることで、経営幹部としても大きな成長が期待できるはず。僕もまあまあ失敗してきたけれど、福田会長から「失敗をしろ」と言ってもらってきたのでいろいろなチャレンジができて学びも多かった。だから、失敗も含めていろいろな経験をさせてあげたい。ただし、「上から言われてやりました」ではダメ。失敗したときに自分事に思えないし、ほらみろと思ってしまう。僕がそうだったので。「これをやりたい」と自分で言い出して、ジャッジを下して取り組んだことであれば、責任感も異なるし、経験の質も大きく変わるはずだ。

――コロナ禍で消費者行動も業界も変わったが、アダストリアは企業として何が一番変わったのか?

木村社長:「どうやって生き残るか」という部分だ。企業もデベロッパーも考え方を変えないと生き残れない時代になった。ファッション業界では、在庫の持ち方も変わったし、サステナブルな考え方でモノを作ることがますます求められるようになった。新規事業なども含めて、アダストリアは先、先、先、と考え、先回りして動いてきた。結果的にコロナ禍でもこの2年間、うまく回ってきたと思う。ゼットンやオープンアンドナチュラルなど、M&A(企業の買収・合併)も積極化している。

――飲食業のゼットンをM&Aした狙いは?

木村社長:「アダストリアは、衣食住のライフスタイル提案企業になるぞ!」という意気込みを込めてグループ化した。フード事業に本格的に着手しようと2017年に子会社ADASTRIA eat Creations(アダストリア・イート・クリエイションズ)を設立したが、手がけていく中で、これは時間とコストがかかる事業だとわかった。M&Aで一気に伸ばしていこうと、リサーチし、いろいろな会社や案件が候補に挙がる中で、一番社風が合い、シナジーが持てると考えたのがゼットンだった。主力の「アロハテーブル」は、隣にうちの「ベイフロー」のお店があってもマッチするし、ファッションとフードの事業を掛け合わせがしやすい。

とくに、福田会長もよく言う「場作り」に対する意識が、ゼットンとは合致した。彼らは「アロハテーブル」の他にも、期間限定のビアガーデンやバーベキュー場の運営や、名古屋では、徳川園という歴史ある結婚式場を運営し、フレンチレストランも運営するなどブライダル事業も手がけている。しかも単なる飲食業にとどまらず、PARK-PFI 制度(公園内に飲食店や売店などを出店し、その収益で公園の整備などを行う事業者公募制度)などを活用しながら、バーベキュー施設の運営や老朽化した公共施設の再生など、飲食店を絡めた「公園事業を中心とした街づくり」を事業の柱にしようとしている。すでに葛西臨海公園で運営管理をしており、最近、横浜の山下公園の権利も獲得した。アダストリアのスローガン「Play Fashion!」と公園は親和性が高い。成功事例があるので、ゼットンにもアダストリア本体にも、地方自治体をはじめ、いろいろな話が来ている。精査しながら積極的に取り組んでいきたい。

また、ゼットンはこれまでほぼECを手がけてこなかったので、「ドットエスティ」と絡めることで、プラスオンになっていく。たとえば、ロコモコ丼の素とかアロハテーブルのパンケーキの粉などをレトルトパックにするとか、ブライダルの引き出物関連商材を物販でやってもいいと思う。ただし、展開エリアが名古屋と東京に偏っていることは弱点でもある。今はOMOが重要な時代で、リアル店舗があることでECも伸びる。ある程度主要都市にはゼットンの店を作っていきたい。

――飲食業界とファッション業界との違いを感じることは?

木村社長:コロナになったときに、ファッション業界はめちゃくちゃバラバラだなと実感した。飲食業界は国に対してグループで陳情に動き、あれだけ多くの補助金を獲得できた。同じ商業施設に入り、同じように店を構えてスタッフを雇っていて、われわれも休業や時短営業などをしているのに、不公平だと感じた。でも、アパレル業界は何もしなかった、できなかったということもある。飲食って同業者は競合でもあるけれど、店が集まることで人を集めるパワーになるため、実は連帯感がある。いろいろな飲食店のオーナーと話す機会も増えたが、フードコートも飲食店フロアも、お店が集まり、お客さまが集まってくる。アパレルは自分のところがいかに良い場所をとるかに意識がとどまっているところが多い。団結することの大切さや業界全体のポジションを上げることの重要性など、飲食業界からいろいろ学ばせてもらっている。ファッション業界でも、世代が変わり、連帯が生まれてくるはずだ。

――サステナビリティの観点からも、効率化し競争力を高めるためにも「共同物流」の実現など、業界内での連携が求められている。アダストリアはどのような役割を果たすつもりか?

木村社長:これは業界的に大きな問題で、僕らの時代でやらなければと思っている。これまで会長世代のオーナーは、各々で切磋琢磨していかに利益を出して生き残るかを競っていた時代。僕らの世代はなるべくシェアをしていかないと、いろいろな意味で持続可能ではないところにひっぱられてしまう。共同物流・共同配送や、ECもそう。物流やシステムを作る際に、1社だけで何十億円もの投資が必要になるが、そんなに払って儲かるのか?各社の体力が奪われていくだけだと思う。また、高齢化もあり、トラックの運転手がいなくなったときにどうするのかという問題も出てくる。それぞれの業界としてどうやって組んでいくか、対話をしていかなければならないと思っている。ショッピングセンター協会や、デベロッパーの理事会など、顔を合わせる機会や話し合う機会はいろいろある。前に出るのは面倒なので嫌なのだけれど、なるべく横でできるメンバーを集めていきたい。ただ、なかなか競合他社が集まってやろう、とはならない面もある。むしろ、M&Aや経営統合など業界再編がすでに始まっていて、資本業務提携といったケースも含めて、いくつかのグループができ始めている。われわれの世代で一気に変わってくると思う。そのときに、どことどう組むか。取り残されるとコストが高止まりしてしまう。業界再編や共同配送、共同EC、適正なセール時期の再考、営業時間の再考などを含めて、一連の動きの中で、リーディングカンパニーでいたいなと思っている。

――販売スタッフの働き方改革の旗振り役も務めているが、新静岡セノバで行っている取り組みは広がっているのか?

木村社長:新静岡セノバでは最初6店舗でスタートしたが、賛同ブランドが増え、現在は40店舗以上が取り組んでいる。「導入して効果が出ているのか本当のことが知りたい」「どうやってデベロッパーやテナントを説得したのか」など、話を聞きにきてくれる企業や実務担当者も増え、JR九州の商業施設などにも取り組みが広がっている。商業施設の長時間営業は問題になってきたが、さらにコロナで売上げが落ち込み、業績が悪化した企業や店舗が増える中で、効率を上げる仕組みとしても注目をされている。本当にこの時間帯は営業することが必要なのかを再考し、1時間店を閉める(営業時間を短縮する)だけで店舗の利益率が大きく変わる。たとえば、開店時間から1時間と閉店時間前の1時間、さらに店舗の状況によって朝か夜に1時間、あるいは、両方を30分など営業時間を1日3時間短くしただけで、1300店舗で費用が10億円変わる。とくに最近は燃料高や原材料高でコストが上がったり、人件費が上がっている中で、これをどう抑制するかは、もう1社だけの話ではなく、業界の話だと思う。コロナ禍で一旦時短営業して、時短営業でもいいという流れが今でも続いているという面がある。結果的にサステナブルというのか、そういう時代になっている。10年後にこの業界、この商業施設で働きたいと思えるスタッフが集まってくれるのか、真剣に考えていかなければならない。

――M&Aでいえば、D2C型でロープライス市場向けEC専業ブランドを多く手がける子会社のBUZZWIT(バズウィット)も、今年3月に子ども服のD2Cブランドを手がけるオープンアンドナチュラルを買収している。

木村社長:バズウィットはきちんとキャッシュが回り、利益が出ている連結子会社だ。その黒田泰則社長が、自ら「こういう会社を買いたい」と提案してきたので、全面的にバックアップした。子会社の利益を本体で吸い上げることもできるし、M&Aという決断は子会社の社長1人ではなかなかできるものではないが、会長の福田が「お前たちはどう会社を成長させたいのか」とBUZZWITの社長や経営陣に迫り、「一気に育てるならM&Aもいいんじゃないか」と背中を押した。福田は「人を育てたい」という思いが人一倍強いし、僕自身もそうやって福田に育てられてきた。子会社が自ら判断できる範疇が広がったということは、リーダーが育ってきているということでもあり、会社が良くなってきたなと実感している。2018年のバズウィットの立ち上げ時に僕も参画していたため、意思疎通が図れたこともよかった。「カオス」「カレンソロジー」「バーンヤードストーム」などを手がける小松崎睦社長率いるエレメントルールも、フード事業のアダストリア・イート・クリエイションズも立ち上げに入って一緒に育ててきたという想いもある。

ちなみに、オープンアンドナチュラルは2017年設立。「家族みんなでリンクコーデができるプチプラ子ども服ブランド」として、90~150センチメートルを中心に、ベビーから大人まで扱う「ペアマノン」をECで販売。創業4年で売上高は20億円を超え、営業利益率も8.4%と高収益企業として注目されていた。オープンアンドナチュラル自体が良いコンセプト・良い会社だったのはもちろんだが、いろいろな案件がある中で、人材や生産体制、マーケットポジションなどもろもろがばちっとハマった。金額的なこともあるけれど、それ以上に、バズウィットの成長にどう寄与させるかが重要だと考えた。

――今後もM&Aを積極的に行っていくのか?

木村社長:成長戦略の大きな柱の一つとして位置付けている。これまでも、もくもく社のブランドや「ページボーイ」などを手がけていたアリシアなどもM&Aしてきたし、「スタディオクリップ」や「バビロン」のような成功事例もいくつかある。海外では米国Velvet(ベルベット)社を買収している。もちろん、過去には失敗事例もあるけれど、今は専任チームがあり、M&Aのプロセスも体系化している。組織としても、外部の人をどんどん採用・登用してきたというよりも、M&Aで新しい血が入ることで新たな知見を得て、人材の補強や交流、入れ替えにもつながり、成長の起爆剤や転機になったのではないかと思っている。人が生きるというか、化ける人も出てくるのが、M&Aの魅力でもある。

――法人向けのBtoB事業も立ち上げている。その背景は?

木村社長:以前から少しずつ取り組んできたが、カフェやマンションの監修や、スポーツチームのユニフォームなど、コラボアイテムの企画・販売から他業種の新規ビジネス支援まで多様な話を多方面からいただくようになった。われわれとしては、マルチブランド、マルチカテゴリーで30を超えるブランドを手がけているので、スタッフも育っている。ただし、毎年100件以上声をかけていただく中で、その可否の判断やどこのチームの誰がどのように担当するのかなど、とりまとめるのが大変になった。そこでチームを作ろうと2021年に事業部を立ち上げた。もの作りまで自社で手がけるアダストリアだからこそ持つノウハウとネットワーク、人材を活用し、服だけに限らない、空間プロデュースやプロダクトプロデュースなど幅広く手がけていきたい。すでに、Z世代を熟知した空間プロデュース力を評価されて、日鉄興和不動産と協業して学生マンション事業の支援をしたり、西武ライオンズのスタッフユニフォームの刷新や、イオンモール水戸内原の従業員休憩室のプロデュースなども行っている。

――これだけ依頼が集まる理由は何だと考える?

木村社長:トータルで力を評価していただいていると思うが、みなさん、どこと組んだらビジネスになるのかに加えて、単発で終わらず継続して取り組みたいという思いでうちに来ていただいているのでは?僕らは手前みそだが、入り込んで入り込んで、3年後5年後にどうしていくのか、すごく考えて動いている。単発のものはR&Dで企画ものとして手がけてもよいけれど、きちんと責任を持って何年も付き合いたいという想いの強さが、他社と違うところで、安心感にもつながっていると自負している。これからも商業施設と組んだり、業界全体を動かせる話も出てくると思う。ECの「ドットエスティ」も活かしていきたい。

――自社EC「ドットエスティ」の他社への開放も始め、いわゆるマーケットプレイス化にも挑戦している。

木村社長:成長戦略のひとつに「自社ECの成長加速と楽しいコミュニティ化」を掲げているが、「ドットエスティ」は前期で年間売上高が311億円となり、会員数は1400万人を超えている。そのECプラットフォームをオープン化することで、アパレル物販にとどまらず、人・企業・地域とともに“グッドコミュニティ”の共創につなげたい。4000人を超えるスタッフによる最新コーディネートを集めたスタッフボードもますます活用していきたい。

――コロナ禍で難しい部分もあると思うが、海外の状況は?

木村社長:だんだん回復しつつあるが、中国はロックダウンが各地で続いており、そうなると何の手も打てなくなってしまう。ただし、リベンジ消費については、日本よりも中国のほうが大きいと期待している。今、上海に「ニコアンド」を展開しているが、一級都市への展開をいろいろ計画中で、成都にも出店する。計画に対してスケジュールは後ろにずらすかもしれないし、実際に動けていない部分もあるが、攻めの姿勢は変えない。スタッフボードの中国版も早く始めたい。ASEANはシンガポールのブランドと提携したりもしているが、マーケット情報をとりながら、「売りに行くぞ」というよりも、旗艦店をどう作っていくか、ブランディングを進めていきたい。アメリカも黒字化しはじめている。ある程度リアル店舗は閉めたが、これからも出せるところは出す。卸は伸びているので、卸先を見据えながらやっていく。ECは未着手だったので、どう展開していくか考えたい。

――ライセンス事業の子会社を立ち上げた狙いは?

木村社長:ライセンス事業には将来的に大きな可能性があると考え、Gate Win(ゲートウィン)社を設立し、ECやバリューチェーン、国内でのプレゼンスを活かしていこうとしている。僕らはブランドを作り、成功させられるプラットフォーマーだと思っている。マルチブランド戦略で多くのブランドを作ったり、リブランディングもたくさん行ってきた。うまくいったものもいかなかったものもあるけれど、ある程度うまくできる実力が付いた。ただし、ブランドを作って成長させるためには時間とコストがかかるということも経験してきたからこそわかっている。今から時間とコストをかけてブランドをゼロからさらに作ることは、時代に合っていない気がする。だからこそ、ライセンス事業は新しいビジネスになるはずだ。国内だけでなく海外ブランドも対象で、交渉を進めているところだ。デザイナーズブランドや大手SPAブランドを手がけてきた国際派のクリエイティブ・ディレクターも採用している。次の一手にも期待してほしい。

追記:アダストリアは9月21日、米国発ファストファッションブランドとして知られてきた「FOREVER21(フォーエバー21)」を日本でライセンス事業展開することを発表した。Forever21を傘下にもつ米Authentic Brands Group(オーセンティック・ブランズ・グループ)と伊藤忠商事が独占販売契約を結び、伊藤忠とアダストリアの子会社ゲートウィンがサブライセンス契約するもの。2023年2月ECを先行オープンし、4月下旬にリアル店舗の出店を開始する。5年間で売上高100億円を目指す。店舗は中小型店を全国に15店舗程度出店し、リアル店舗とECの売上高は4:6と想定する。商品展開は日本でのオリジナル企画・生産が8割、米国からの輸入品を2割を予定する。

SPAのモノ作りを支える適時・適量・適価を実現するバリューチェンや、1400万人の会員がいる「ドットエスティ」のECモール、さらには、D2Cブランドのノウハウや、店舗開発力・運営力、物流力、人材など、まさにアダストリアのプラットフォームを最大限に生かすことで、再々上陸となるFOREVER21を成功に導き、アダストリア全体の成長・躍進の起爆剤としたい考え。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

松下久美の最近の記事