月給5万円で「失踪」を決意 「殺す、帰れ」といわれる技能実習の実態とは?
昨年の緊急事態宣言発出以降から、コロナ禍で技能実習生の「失踪」や「不法就労」に関する報道が続いている。この背景には、コロナ禍での彼ら彼女らの生活困窮が指摘されているが、多くの報道で欠けている視点がある。
それは、技能実習生を雇っていた企業の責任だ。報道などでは、新型コロナを理由とした解雇・休業による生活困窮は仕方のないことであり、【新型コロナ拡大 → 実習先での解雇・休業 → 技能実習生の生活困窮】、という流れがあたかも当然かのように描かれている。
しかし、この過程の中には、技能実習生たちを違法・不当に解雇・休業させた企業が存在しており、技能実習生たちが「失踪」や「不法就労」をせざるを得ない状況に追い込まれていることはもっと問題にされるべきである。
本記事では、技能実習生の「失踪」や「不法就労」の背景にある企業による違法・不当な行為やコロナ禍での不当な解雇・休業の実態と、労働組合を通じた交渉で「失踪」を回避した事例を紹介したい。
コロナ禍の企業による不当な解雇・休業
これまでにも、コロナ禍で解雇にあった技能実習生が「失踪」し、「不法就労」に至ったケースは紹介されてきた。
参考:1日1食菓子パンで生活、コロナ禍の技能実習生の叫び「借金のまま帰れない」
しかし、そもそも、新型コロナの感染拡大を理由とした技能実習生に対する解雇・休業はほとんどの場合「不当」であると考えられている。というのも、技能実習制度は、その制度の趣旨からして、技能実習生たちを「雇用の調整弁」としてはならないからだ。このことは、法律にも明記されている。
ここで改めて技能実習法の中身を確認したい。技能実習法の第三条で、制度の基本理念が示されている。
この基本理念に従えば、技能実習制度は「国際貢献」を目的に行っているのであり、会社に仕事があろうがなかろうが、コロナによる仕事の減少を理由に技能実習生への解雇を正当化することはできないはずなのだ。
さらに、受け入れ企業が解雇をせずに実習生を休業させたとしても、コロナ関連の休業補償の費用は政府の雇用調整助成金が給付されるため、ほとんどの企業は大きな経済的な負担をせずに技能実習生たちの雇用を維持できる。
給料は月15万から5万円へ
しかし、技能実習生に対して休業補償をせずに、生活困窮に陥っているケースはまったく珍しくはない。典型的な例を紹介しよう。
昨年12月、私が代表を務めるNPO法人POSSが設立した外国人労働サポートセンターには、コロナ禍での休業補償の未払いによって収入が激減し「失踪」しようとしていたカンボジア人技能実習生2名から相談が寄せられた。
彼らは、埼玉県の建設業で働く20代と30代のカンボジア人技能実習生たちだ。2人とも日本へ来て収入を得ながら技術や日本語を学びたいという希望を抱き技能実習生へ応募したという。
ところが、来日してから1年2ヶ月ほど2人は働いていたが、コロナ以前から日常的な暴力や暴言の被害にあっていた。猛暑の夏に水を飲もうとしたら日本人の上司から怒られ飲めなかったり、仕事のミスをしたら「帰れ」「ばか」「あほ」「殺す」などと怒鳴られたり資材を投げつけられたりするなどの人権侵害を日常的に受けながら働いていた。
実は、この企業には彼らと同時期に働き始めた3名の技能実習生がいたが、その3名は既に「失踪」しているような過酷な職場であった。それでも、彼らは来日前に親戚や銀行から多額の借金借りて日本へ来ていたため、暴力や暴言に耐えながら仕事を続けていたのだ。
しかし、コロナ禍での休業補償の未払いによって収入が大幅に減少し、給与が15万円から5万円へと減少してしまい、これでは借金を返済できないどころか生活することすらできない状況に追い込まれた。そこで、生きるために「失踪」を考えていたところ、寸前で支援団体の労働相談に結びついたのだ。
支援団体の取り組み
支援団体は、連携し、実習生たちを保護した。まず、昨年12月9日には、「失踪」直前の彼らを「つくろい東京ファンド」のシェルター(一時保護施設)で保護し、同じ日に、労働組合である総合サポートユニオン(以下、ユニオン)に加入した。
住居が勤務先に支配されていることの多い実習生は、解雇や職場逃亡が「失踪」に直結してしまう。生活基盤が不安定であるために、適切な「労使交渉」ができないのである。したがって、まず安定した住居・生活基盤を確保したうえで労使交渉するような、労働組合と貧困支援団体の連携が重要になる。
ユニオンは彼らの加入後、実習先企業と監理団体に対して即座に団体交渉を申し入れた。並行して、外国人技能実習機構(技能実習の適正な実施・技能実習生の保護を目的とする国の機関)へも実習先企業と監理団体が適切に対応するよう通報をした。
実習先企業と監理団体への要求内容は、①休業補償10割、②パワハラの謝罪や賠償等、③会社都合離職票の発行、④転職支援の合意の4点だ。
こうした交渉の結果、現在では働く企業を変更することでき、無事現在は別の企業で働くことができるようになっている。
貧困運動との連携による権利行使の意義
今回の支援は、次の2つの点で非常に画期的なものであった。すでに述べたように、 「つくろい東京ファンド」という貧困運動とユニオンという労働運動との連携が見られたからだ。
コロナ禍で、生活困窮に陥った技能実習生たちが貧困支援者と繋がること自体は珍しい話ではない。しかし、今回は、単に住居や食料の支援を受けるだけでなく、それら支援によって生活基盤を整え、その上で生活困窮を生み出した原因である企業への責任追求のために、当事者の技能実習生たちがユニオンに加入し権利行使することができた。
そのことによって、ただ貧困状態をケアするだけではなく、転職による就労の継続が実現したのである。
貧困支援だけでは、貧困を生み出す労働問題を解決することはできない。かといって、生活上のケアがないことには、労使交渉もままならずに「失踪」を引き起こしてしまう。両者の連携は今後も重要性を増していくことだろう。
技能実習生たちが「失踪」しないために
これまで見てきたように、技能実習生たちの「失踪」の背景には実習先企業の問題がある。しかし、彼ら彼女らは他の労働者たちと同じようには転職ができない。さらに、生活保護などの福祉へのアクセス(生存権)も認められていない。
その結果、「奴隷」のように働かされる実習先や不当な解雇・休業による生活困窮から脱け出すために、「失踪」して「不法就労」することが現実的な選択肢になるのだ。
本来、実習先企業で問題があれば、実習先企業を監督する監理団体が問題に対応し、技能実習の適切な実施や技能実習生の人権を守ることになっている。しかし、実際には監理団体が技能実習生への人権侵害に加担するケースもある。
(この点については、下記の記事を参照)。
参考:コロナで外国人技能実習生への違法行為が深刻化 国の支援機関も「加担」の現実
そこで、技能実習生たちが「失踪」しないために重要なのが、彼ら彼女らの権利行使を支える運動を広げることだ。実習先企業での問題を告発し、さらに、企業に対して責任を追求することを彼ら彼女らじしんができない限り、「失踪」の背景にある企業の問題は放置され続けることになる。
労使交渉を支える取り組みが広がることで、多くの技能実習先たちに、「失踪」ではなく「権利行使」=「労使交渉」という選択肢があることを示すことができる。
権利の存在を当事者たちに伝えることも課題だ。彼らは日本語ができないことが多く、支援団体と繋がることじたいが困難だ。そのため、外国人技能実習生の権利行使を支えるボランティア活動の広がりも急務である。
NPO法人POSSE外国人労働サポートセンターや総合サポートユニオンをはじめ、全国の労働団体で外国人への支援活動が活発になってきている。ぜひ多くのかたに関心をもっていただきたいと思う。
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