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手倉森ジャパンが挑むリオ五輪予選(Uー23アジア選手権)のポイントを考察する。

河治良幸スポーツジャーナリスト

U−23日本代表はリオ五輪の予選をかねるUー23アジア選手権に臨みます。筆者は13日の22:30(日本時間)にキックオフされる北朝鮮戦からニコ生サッカーキングチャンネルの『U-23リオ五輪最終予選裏実況!日本vs北朝鮮』で解説を担当します。

ロンドン五輪のアジア予選を継続的に取材し、今回のメンバーが2世代に渡り主力として戦ったUー19アジア選手権、2014年のアジア大会など、手倉森誠監督が率いるチームを取材してきた経験をもとに、今大会を勝ち抜くためのポイントをまとめたいと思います。

昨年末のカタール・UAE遠征でイエメン、ウズベキスタンといずれも0−0、非公開となった大会直前のテストマッチでシリアとベトナムに勝利した日本ですが、Uー23代表として全く同じ条件で今回のライバルと戦ったことはありません。なので純粋に力関係をはかるのは難しいですが、下馬評として、この年代でアジアのトップランクにあるのはイラク、韓国、ウズベキスタンです。その3カ国は2013年のU−20W杯で韓国とウズベキスタンがベスト8、イランはベスト4に進出しました。

しかし、その3カ国が全てグループCに組み込まれたことはライバルにとっては“幸運”だったかもしれません。戦力的にその3カ国に匹敵するのはオーストラリアとイランですが、前者がアミニやブリランテといった欧州組の主力を招集し、現在考えられるベストメンバーを揃えたのとは対照的に、イランはA代表の主力でもあるアズムンとジャハンバフシュなどがリストに入りませんでした。

準々決勝で日本と対戦する可能性があるのはそのイランが組み込まれたグループAの1位と2位ですが、個人能力の高い移民選手が揃う開催国のカタールも有力です。ただ中国とシリアも潜在能力は高く、状況によっては逆転もありうるでしょう。この年代にとって“鬼門”でもある準々決勝を勝ち抜くと、準決勝でグループCとDから勝ち上がってきた相手との対戦になります。順当ならばイラク、韓国、ウズベキスタン、オーストラリアのどこかと戦うことになりますが、ここまで来ればチームとしての士気も大いに高まっているはずです。

準決勝に勝てば、その時点でリオ五輪の出場が決まり、負ければ3位決定戦に回ります。3位決定戦は準決勝から中2日となり、体力的に非常にタフになるでしょうが、条件は対戦相手も同じです。そこまで大きな怪我が無いことを祈りたいですが、最後は総力戦になってくるので、ギリギリの緊張感の中で、まさに23人がチームとして一丸になる必要があるでしょう。

試合ごとのディテールはニコ生で解説したいと思いますが、勝ち抜くポイントとしてあげたいのは3つです。

1.初戦で勝ち点3をものにできるか

ホーム&アウェーだった前回とは異なり、セントラル方式により2週間あまりで争われる今大会。まずは4チームによるグループリーグで2位に入る必要がありますが、準々決勝をより有利な状況で戦うためにも、できるだけ首位通過をしたいところです。

サウジアラビア、北朝鮮、タイと同じグループBに同居した日本。初戦の相手となる北朝鮮は14年のU−19アジア選手権の準々決勝でPK戦の末に敗れた因縁の相手でもあります。当時のメンバーは日本がMFの南野拓実と井手口陽介、FWのオナイウ阿道、北朝鮮がMFのリ・ウンチョルとFWのソ・ジョンヒョクという5人でしたが、日本の特徴を研究して守備組織を張り、効率よくカウンターを使ってくる戦い方はチーム全体で共有しているはずです。

またヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率い、国内組で参加した東アジアカップでも日本は北朝鮮との初戦で1−2と敗れてしまいました。その時にはU-23世代の大黒柱であるDFチャン・ククチョルが先発、MFソ・キョンジンが途中から出場していました。終盤に投入されたパク・ヒョンイルというUー23の長身選手(登録はDF)が槙野智章や森重真人に競り勝つ形で1ゴール1アシストを決めましたが、今回のメンバーリスト(登録枠は23人だが現時点で22人を発表)には入っていません。

それが情報操作なのかは分かりませんが(※その後、ユン・ジョンス監督は負傷による欠場を名言)、交代選手を含めて全く油断できない相手であるため、試合前のスカウティングをベースにしながらも、試合の中で選手間でコミュニケーションを取り、早く問題解決していけるかどうかが重要になります。その意味でもインフルエンザで出遅れた遠藤航が試合に出られる状態まで回復しているかが1つポイントではありますが、出たメンバーの中で意志の疎通をしっかりしていくことが重要です。

北朝鮮はこの年代のチームは基本は日本と同じ4−4−2ですが、5バックにしてくる可能性もあります。まずはそこの見極め。そして相手が選手交代で前線の枚数や選手の特徴を明確に変えてきた時に、いきなり大きなピンチを迎える傾向はUー19から見られるので、最初の1、2プレーに集中し、その中で素早く情報を共有するという作業が求められます。手倉森監督がテクニカルエリアから何かに気付いて指示を伝えるにしても、どうしてもタイムラグが生じるので、指示待ちというのはリスクが大きい。そこは臨機応変に対応していってほしいところです。

2.攻撃のバリエーションと状況判断

この年代にずっと付きまとっているのが得点力不足です。“決定力不足”と表現したくないのは、タレント的にはオーストリアのザルツブルクで活躍する南野拓実をはじめ、ゴールを決める資質のある選手たちが揃っているから。要は彼らがいい形でフィニッシュを狙えるシチュエーションをどれだけ作っていけるか。ストライカーがゴール前でしっかり能力を発揮するにはバイタルエリア、あるいはペナルティエリア内でフィニッシュに持ち込む、あるいはラストパスに合わせる状況を作っていく必要があります。

その1つの解決策として、手倉森監督は同時的に複数の選手がオフ・ザ・ボールで飛び出すことでフィニッシュの厚みと迫力を出そうとしています。その象徴的な出来事が残り2枠の1人に豊川雄太を抜擢したことです。アタッカーの有力候補には関根貴大、鎌田大地、前田直輝といった昨シーズンのJ1で名前を売った選手たちがいましたが、彼らはボールを持って勝負できるタイプの選手たち。テクニックに定評はあるものの、鹿島アントラーズであまり出番の無かった豊川を選んだ主な理由として、手倉森監督は飛び出しの意識をあげていました。

コスタリカ代表に2−0で勝利した昨年の親善試合においても、高い位置でボールを持った時に前の4枚が方向をズラしながら同時的に動き出すことで、相手のディフェンスを混乱させていました。こうした攻め方はハリルホジッチ監督が掲げるコンセプトの1つでもあり、A代表のコーチを兼任する手倉森監督も共有しているものです。日本はこれまでどうしてもボールを横に動かす傾向が強かったのですが、なるべく少ないボールタッチで縦に仕掛け、そこにオフ・ザ・ボールの選手が連動していくという形はUー23のスタイルにもなりつつあります。

同じ速い攻撃でも起点になる選手や位置によってパターンは変わってきます。そのバリエーションをチームで明確に共有していることも重要ですが、ひたすら縦に速く攻めるだけで相手のディフェンスを崩し切れるとは限りません。そこはゲームメーカーの大島僚太などがしっかりコントロールしながら、アクセルのオンとオフ、左右の展開などの判断を見極めていってほしいところです。

3.流れを変える選手と締める選手の存在

このチームはシステムや戦術を試行錯誤しながら、色んなメンバーをテストしてきました。そこから最終的に23人が固まったわけですが、手倉森監督の中ではスタメンとサブ、試合の途中で重要な役割を果たすジョーカーといった構成を想定しているはずです。2015年のJリーグ最優秀若手選手に輝いた浅野拓磨はテストマッチの起用法から、得点がほしい時間帯に投入される絶対的なジョーカーとして期待されている可能性が高いです。

本人はもちろん90分プレーしたい気持ちを持っている様ですが、抜群のスピードと落ち着きのあるフィニッシュは疲れが出てきた相手のディフェンスにとっては大きな脅威ですし、また30分前後の出場時間であれば、怪我や累積警告さえなければ五輪出場がかかる準決勝あるいは3位決定戦まで全ての試合で計算ができる選手になります。その意味では“12番目のレギュラー”、場合によってはスタメン以上に重要な存在になってくるでしょう。

また先にあげた豊川は持ち前の積極的な仕掛けと飛び出しで攻撃に勢いをもたらすと共に、野津田岳人の負傷離脱でやや不安要素になっているFKのキッカーとしても重要な存在になりそうです。攻撃的MFの候補としては矢島慎也もいますが、手倉森監督の意図を熟知し、複数のポジションをこなせる彼は状況に応じて役割を変えられる”バイプレーヤー”となれる選手です。J2のファジアーノ岡山でレギュラーとして勝負所で重要なゴールを決めてきた矢島は試合の終盤で決定的な仕事をやってのける可能性も十分です。

2トップは長身でスピードのある鈴木武蔵、ポストプレーとフィニッシュをハイレベルに揃える久保裕也がファーストセットになりますが、鈴木を上回る空中戦の強さと意外性のあるオナイウ阿道も、最大6試合の戦いを考えるとキーマンになってきます。オナイウの場合はパフォーマンスに波があること、周りとのコンビネーションがなかなか合わない課題がありましたが、伸びしろは攻撃陣でも一番かもしれません。石垣島合宿からメンバーと練習、生活をともにしたことで、連携面がどこまで改善しているかが注目されます。また相手を制しながら肝心のシュートを外してしまうことも多いですが、短期決戦で波に乗ればチームの”救世主”にもなりえます。

流れを変え、得点を決める選手はジョーカーとしてイメージしやすいですが、逆に試合を引き締める選手も大会が進むほど重要になってきます。追加選手として手倉森監督がDFもこなせる守備的MFの三竿健斗を豊川とともに入れたのは単にボランチとDFの選手層を厚くするだけでなく、戦術的な選択肢を広げるためです。特にキャプテンの遠藤を後ろで起用する場合に中盤で高さを発揮し、相手のロングボールを浅い位置で跳ね返せる選手として期待されている様です。また彼が入ればセットプレーの守備でも高さを加えることができるので、対パワープレーでも計算ができます。不安はここまで招集歴が無く、ほぼぶっつけ本番になることですが、UAEで行われた2013年のUー17W杯にも出場しており、すんなりと大仕事をやってのけるかもしれません。

中盤ではボール奪取力を高めるために井手口、試合を落ち着かせながら攻撃の起点を増やすために原川力が効果的なチョイスになります。タイプ的には井手口が遠藤、原川が大島のバックアップ候補になりますが、井手口は正確なパスとタイミングの良い飛び出し、原川は視野を活かしたカバーリングも備えているので、用途に応じてセットを入れ替えることが可能です。直前のテストマッチの起用法から判断する限り、インフルエンザから復帰した遠藤が万全でないと判断した場合は大島と原川のコンビがスタメンになるかもしれません。

最終ラインは中央が植田直通と岩波拓也の186cmコンビ、サイドバックはA代表経験もある右足クロスが得意な松原健と左利きでCKやFKも担当できる山中亮輔の4人がレギュラー候補と想定されますが、相手に強力なウィングがいる場合は対人守備に定評のある室屋成、サイドの機動力を高めたい時はアビスパ福岡のJ1昇格を支えた亀川諒史を起用するプランも浮上します。CBの3番手と見られる奈良竜樹もFC東京で出番が限られたことは懸念材料にあがるものの、粘り強いマンツーマンと180cmという身長以上の空中戦の強さは魅力です。

13日に初戦があり、29日に3位決定戦、翌日に決勝というタイトな日程で、体力的な消耗も含め、20人のフィールド選手が全て出場する可能性はかなり高いですが、その中でも手倉森監督が試合に効果的なカードを切り、選手が期待に応えられるかどうか。それがほぼそのまま、五輪出場の有無に直結すると言っても過言ではないでしょう。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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