旧統一教会のオウンゴールか?救済新法の実効性を高める可能性。宗教2世から書面送付制度の重要提案!
1月5日に被害者救済法(「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」)が施行されます。
30年以上の長きにわたって野放しになってきた、旧統一教会による高額献金の状況に一定の歯止めがかかることは画期的なことで、評価はしていますが、いかんせん、新法の実効性には大きな不安があります。
しかし、そうしたなかで教団側からの2万を超える「解散命令請求に反対する」嘆願書のアクションで、逆に新法の実効性が高まるかもしれない状況も出てきました。ある意味、オウンゴールといえるかもしれません。それについては後ほど述べます。
悪質な献金行為を“抑止する”とまではいかず、”躊躇する”程度の新法
救済新法の実効性への懸念については、すでに「成立した時点で沈みかけている被害者救済法。1世当事者の声を聞かない新法の実効性は、ほぼ皆無とみる理由」(Yahoo!個人)
で厳しめに書きましたのでこちらに譲りますが、一言だけいえば「なぜ信者らが高額献金をするに至るのか」といった、入信時における教化手法(マインドコントロール)の部分が抜け落ちていることが、実効性の懸念につながっています。
新法の第三条では、寄附の勧誘を行うにあたっての配慮義務として「自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状況に陥ることがないようにする」といった三つの規定を入れることで、その部分を補完するような形になっています。しかしながら、もし違反してもそれが禁止行為とならず、勧告のうえ法人名を公表するという形ですので、その効果は限定的といえます。
というのも、これまで様々な関連団体を作り、自らの正体を隠して活動してきました団体ですので、今後、団体名を変えて献金をさせ、大元が旧統一教会だとわからないようにしてくることは充分にありえるからです。
これが、新法では悪質な献金行為を“抑止する”とまではいかず、”躊躇する”程度になると考えた理由でもあります。
「宗教2世問題ネットワーク」からの「書面送付制度」の重要提案
せっかくできた新法です。いかにして実効性を高めるかの視点も必要です。
昨年末、宗教2世の当事者たちからなる「宗教2世問題ネットワーク」から国に対して、重要な提案がなされました。それは「書面送付制度」の創設についての要望です。
信者の献金により、月々の生活費に困る状況となり、家族がお金を補填せざるをえなくなった。
献金のために貸金業者や親戚から借りたお金により、返済を求める連絡があった。
信者本人が親族の財産(子どもの貯金や奨学金など)を無断で献金した。
こうした行為は、新法の3条2号における「寄附により、個人又はその配偶者若しくは親族の生活の維持を困難にすることがないようにする」の配慮義務違反の疑いがあります。
その時に「被害者らから法テラス等を介して相談を受けた弁護士が、配慮義務違反が疑われる事情を書面に記し、寄附の勧誘者(旧統一教会)、寄附者本人(信者、宗教1世)、消費者庁(新法の所管庁)等へ送付する」というものです。
書面送付による4つの効果
これには、4つの効果があるとしています。
1つ目として、旧統一教会自体への効果をあげます。
「文書を受領した旧統一教会が配慮義務違反になることを懸念し、信者へそれ以上の献金を求める行為を抑止させる」
2つ目は、信者本人への効果です。
信者らが、新法が施行されたことを知るきっかけとなり、自らの献金行為について振り返り、それ以上の献金を躊躇させる契機となることへの期待です。
3つ目が行政庁への効果です。
書面を通じて「消費者庁はじめ関係省庁が新法の運用状況、特に配慮義務に関する運用状況をリアルタイムに把握」できるとして「受領した文書の内容をもとに、必要に応じて旧統一教会へ勧告等の適切な行政処分を行える」としています。
4つ目は、被害者全体への効果です。
「今後、予想される旧統一教会への不法行為による訴訟において、目的・手段・結果に照らし社会的相当性を逸脱していることを被害者は立証しなければなりませんが、書面送付制度の情報を基に、より一層その立証を容易にすることが期待できる」としています。
いずれも大事な観点ですが、筆者としては1番目と3番目の効果を特に期待します。
1番目の旧統一教会への効果についてですが、本人はマインドコントロールされている状況ですので、自分の意思で家族や親族に配慮して献金を控えるということは考えづらく、過度な献金行為に対しては、アベルの立場である教団の上から、ストップをかけて、指導・指示をしてもらうしかありません。
ただ、本当に教団側が本人の献金行為を止めてくれるかはまったくの未知数ですが、教団自体に「配慮義務の違反の疑いの事実を知らなかった」と、しらを切らせない状況をつくることができます。
3番目の行政庁への効果ですが、新法の実効性を高めるために、行政側としていかに早く、献金被害の実態を把握できるかが問われています。被害防止で大事なことは、被害が広がってからではなく、その芽が生まれた時点で勧告などの対応をすることです。これは他の悪質商法などの被害防止でも必要なことですが、書面送付により、その対応を迅速にすることができます。
新法では献金の抑止まではいかないけれども、今回、同団体から要望のあった書面送付制度を行うことで、教団側に悪質な献金行為を躊躇させる状況を、長く続けさせることも可能だと思います。
嘆願書がなぜ、オウンゴールになるのか
次に問題になるのが、法人名の公表です。すでに述べているように、教団名を隠されて別団体に信者が献金した場合、法人名の公表の効果は限定的になります。
しかし昨年末に、驚くべきことが起きました。
旧統一教会が、教団の信者やそのシンパと思しき人たちから寄せられた「解散命令請求に反対する」嘆願書を、岸田首相や永岡文科大臣に郵送したことです。その数は、2万3486人に上るということです。
この報を聞き、新法の実効性が高まったと考えました。
嘆願書ですので、信者の名前が書かれているはずです。つまり、国の側に自分たちが信者であることを伝えてしまっているわけです。
もし配慮義務に違反した者が、教団名を隠した別団体や関連団体名で献金していても、複数の信者らがその団体に献金していた実態がわかれば、その本体が旧統一教会であることがわかります。となれば、法人名としての公表ができることになります。
嘆願書のフォーマットの存在も明らかに
その後、立憲民主党を中心として開かれた国対ヒアリングで配布された資料から、さらなる事実が明らかになりました。
それは、教団から信者らに向けて出していた「世界平和統一家庭連合の宗教法人解散請求に関する嘆願書」のフォーマットの存在です。これ自体は別にあっても驚かないのですが、そこには「住所、名前」といった個人情報を書く欄もありました。これを見て、「詰み」と思いました。
信者らは上からの指示には従います。ですので、しっかりと、それらを書いて出していると思います。
となれば、名前だけでなく、信者らの詳細な個人情報も国側に知られることで、もし教団名を隠した団体を立ち上げて献金をさせても、そこの責任者や関係者を調べることで、教団の信者で構成された団体と特定できる材料になるからです。よもやの形で、新法の実効性の芽が出てきました。
旧統一教会からの嘆願書は重要です。国の側では何年たっても廃棄処分せずに、今後のためにしっかりと残しておいてほしいと思います。
当初は実効性がほとんどないと考えていた私の思惑を覆して、実効性のある法律へと、わずかですが歩みを進めることになりました。教団が動けば動くほどに深みにはまっていく状況が出てきているように感じています。
新法施行の翌日、1月6日は文化庁からの解散命令請求に向けた再質問の回答期限をむかえます。さて、どんな回答をしてくるのでしょうか。