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ガリガリの野良猫を室内に入れたら「外に出る」と大暴れ。家猫になれた転機とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
撮影は筆者

サボ君が当院へやってきたのは、3月のまだ肌寒い日でした。キャリーケースに入れられて診察室で待っていました。

サボ君は、その前に近所の動物病院で治療をしてもらったけれど、オシッコに血が混じってすっきり出ないので当院に来ました。

治療の甲斐あってサボ君は黄色のオシッコが普通に出るようになりました(頻尿ではなく)。飼い主のUさんはとてもほっとされたのかサボ君との出会いの経緯を話してくれました(臨床現場にいると、治療が好転すると飼い主は雄弁になります)。

サボ君は膀胱に結石がたまる下部尿路疾患という病気でした。それでは、野良猫だったサボ君がどのようにして家猫になったのかを遡ることにしましょう。

野良猫だったサボ君は窓ガラスが割れんばかりに大暴れ

撮影は飼い主のUさん 外にいたサボ君は、毛並みも悪くぱさぱさしていた
撮影は飼い主のUさん 外にいたサボ君は、毛並みも悪くぱさぱさしていた

Uさんの近所にいわゆる餌やりおばさんがいて、野良猫がウロウロしていたそうです。そのなかの1匹がサボ君です。

Uさんは、以前は犬好きであまり猫には関心がなかったのです。サボ君はその当時、ガリガリで栄養状態が悪かったので被毛もパサパサだったそうです。これでは、サボ君の命にかかわるとUさんは思い家に入れたのです。

しかし、サボ君は外ではおとなしかったのに、室内に入れた途端に窓ガラスが割れるのではないかというほどに大暴れをしたそうです。

Uさんは、野良猫のサボ君を室内飼いにしようとすることは、やはり無理なのか、と悩みました。写真でもおわかりのように、耳をカットしてあるので去勢手術をしている地域猫なのです。もう、子猫を産ますことができないので、外でもいいかな、とも考えたそうです。外でいた子を室内飼いにすることは、人間の都合かもしれないとも。

室内飼いをしていたら、敷物に血尿が転機に

サボ君が外に出たいという葛藤の日々が続いていたある日のできごとです。Uさんは、サボ君を室内において、仕事に出ていきました。帰宅すると、アンモニア臭(オシッコのニオイ)がしていました。部屋に入ると、敷物に真っ赤な尿があったので、これはただごとではないので近くの動物病院に連れていったのでした。

上述にしていますが、それから1週間後に当院に来たときは、オシッコの赤みはましにはなっていましたが、オシッコがすんなり出ない状態で膀胱が硬くなっていました。そのうえ、食欲もなく機嫌も悪かったです。

筆者は、ペニスから膀胱にカテーテルを入れて洗浄しそのカテーテルを縫いつけました。サボ君は、カテーテルを外す心配があったので、エリザベスカラーをつけて、帰宅しました。

こんな恰好で、外に出たらどこかに引っかかって危ないので、部屋に閉じ込めておくように、頼みました。

Uさんは、サボ君は病気なので部屋に閉じ込める罪悪感が薄らぎ、とにかくこの病気を治さないと、と決心をして完全室内飼いに決めました。

サボ君の下部尿路疾患という病気が、室内飼いの猫になる転機になりました。

サボ君は、部屋にいれば、食事も寝床もあることを理解して、外に出たがる回数が減ったそうです。まだ外の様子は気になるようですが、室内飼いされることに、だんだん慣れてきます。

野良猫を家猫にするときの心得

写真:イメージマート

野良猫は、人間が作り出したものです。日本では野生の猫(イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコだけが野生の猫)は、ほとんどいません。路地や公園で見る野良猫は、飼い主がいない猫です。

外にいる子は、餌も十分に食べられないことも多く、人に寄ってくる子はいたずらされる可能性もあります。そんなことを理解してくれる人が増えて、野良猫を家猫にしようとする人がいます。

そのとき、このサボ君のように家に入れると出ようとする子が多いのです。保護主としては、こんなに嫌がる猫を閉じ込めるのは無理かもと不安になるのです。保護主は、猫に食事も温かい寝床も提供してよかれと思っていたのに、現実は、こんなに外に出たがる猫を見ていると、本当に猫にとってよいことなのか、と悩みます。

長期的に見ていただくと、野良猫より家猫になった方が、長生きできますし猫にとってもよいことです。

不妊去勢手術をしている猫なら時間がかかるかもしれませんが、完全室内に慣れてくる子がほとんどです。快適な寝床、そして食事を提供していると、猫とわかりあえます。

野良猫(飼い主がいない猫)から地域猫(地域の人が面倒を見る猫)、そして家猫になってくることを願っています。野良猫からすんなり家猫にならないこともありますが、辛抱強く世話をすると猫と通じ合うことができるものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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