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韓国で”4年前の曲”に話題沸騰! ”軍人”と”YouTube”が生んだ「奇跡の復活劇」

最年長メンバーは30代。売れないグループが奇跡を起こしている。画像はイメージです(提供:As1Piece/イメージマート)

発売当時ですら192位だった曲が…

2017年3月に発売されたK-POP楽曲が、韓国内で突然再浮上。

4年後の今、音源ダウンロードの国内ランキングで1位に――。

韓国でそんな現象が起きている。

「ローリン(Rollin`)」

ブレイブガールズという4人組(楽曲発表当時は5人)の楽曲だ。

発売当時は192位が最高位だったのに…ここ数日で韓国では「チャート逆走行」と言われる現象が起きている。以前に発表された楽曲が突如圏外から復活し、1位になるのは2015年1月のEXID「UP&DOWN」以来、6年ぶりの出来事だという。

なんでそんなことが? 韓国では、デビュー10年目の無名のガールズグループの「ちょっとイイ話」として話題になっている。

「メロン」のデイリーランキング1位のほか、ウィークリーランキングでもIUについで2位に入っている(該当ページをキャプチャ)
「メロン」のデイリーランキング1位のほか、ウィークリーランキングでもIUについで2位に入っている(該当ページをキャプチャ)

デビューから10年。最年長メンバーは30代に。苦労続きのグループの”奇跡”

ブレイブガールズ。

K-POPに詳しい方でもなかなかご存じないのではないか。2011年に5人組としてデビュー。2016年2月に3人が脱退、直後に5人が加わり7人に。グループとしては「第2期」に入った。しかしその後、元々のメンバーだった2人が抜け、デビュー当初のメンバーがひとりもいなくなり…結局現在は4人に。

要はなかなかブレイクしてこなかったグループなのだ。3月9日時点でのインスタグラムのフォロワー数は4.4万人とK-POPグループにしては控えめ。現行メンバーは1990年~93年生まれで構成され、最年長は30代となっている。

韓国のネット上でも「ファンクラブは縮小しまくり」「一時話題になったことがある程度で、デビュー以降まったくバズることがなかった」と評されている。

それが突然…「チャート逆走」でメディアにも大きく注目されるようになった。

今回の件で「スポーツ京郷」からインタビューされるなど、注目が集まっている

アツい軍人たちと”動画編集法” 

今回の現象のキーワードは”軍人”そして”YouTube”だ。

2019年当時の軍人のためのライブ映像が再発掘された。「ローリン」に熱狂する男たち。これを基にした「コメント集動画」が突如ブレイクしたのだ。

該当の動画

2月24日に個人YouTuberがアップした動画が、9日現在でアクセス数650万超えを記録。そこから火がつき、音源ダウンロードチャートでの「逆走」に繋がっていった。

動画編集方法にもポイントがある。

楽曲の合間に、YouTubeのコメント覧にかつて入った内容がキャプチャされ、画面の下に挿入される。

「軍隊ビルボード1位!」

「俺も軍人として、このシーン観てました」

「この笑う瞬間がかわいいんだよね~」

「朝鮮人民軍(北の軍隊)もこれ、ハマるだろな~」

「統一! 統一!」

「これだけ熱狂してりゃ、軍人も歌手も両方癒やされるだろ」

などと。

「国防TV」出演時動画の編集なし・フルバージョン。これもまた軍人たちの熱狂ぶりが伝わってくる

コメント主の多くは軍人経験者と思われる。映像に対してコメントが流れるのは日本の「ニコ二コ動画」などでもあるのだが、より的確に”ツボる”コメントだけが適切に挿入される。そのコメントも概ね「1年前」などのものだから、”ダサカッコいい”感じに仕上がっている。

これにより「女性グループを巡って熱狂する軍人たちが楽しそう」という構図がより強調され、伝わっていったのだ。そこに軍人たちの「この曲、懐かしい」という感情も重なった。

ちなみに韓国では徴兵期間(軍服務)中の携帯電話使用が2019年4月1日から許可されている。これも軍人の間で熱狂的に「ローリン」が知れ渡っていった背景の一つとして考えられる。「今度来るから観ておこう」と。

事務所側もこの曲にはこだわりがあったか、2018年に入れ替わったメンバーで「ニューバージョン」としてMVを撮り直している

マメな”営業”も支えた快進撃 

要は「もともと軍人にとっては超有名だった曲が、面白動画によって外の世界にも知れた」ということ。

今回のブレイクの背景について「ブレイブガールズ」メンバー本人たちが「スポーツ京郷」のインタビューにこう答えている。

「私達、軍隊の慰問公演を多く行ってきました。行く度に軍人の皆さんが本当に楽しく過ごしてくださり、私達もステージを本当に楽しんできたんです。そういったことをデビュー後、繰り返したことで私達の存在もファン以外の方々に知られていったと思うんです」

地上波のランキング制の音楽番組では華やかな活躍の機会が得られてこなかった彼女たち。メンバーの交代などもあり、なんと3年以上も新曲が発表されなかった時期もある。その期間に取り組んできたのが…

「営業」だ。

軍人を対象にしたステージを熱心に繰り返す。ギャランティは、この模様を放送するケーブルテレビ局「国軍TV」のエンタメ番組「慰問列車」の出演料として払われることもある。「朝鮮日報」は2013年10月にこの番組出演ギャランティは「100万ウォン~600万ウォン(約9万5700円~57万4200円)のライン」と報じた。歌手の認知度によって額は変わるというから、「ブレイブガールズ」が受け取る金額もおよそ見当がつく。

「国防TV」の同番組より。海兵隊の軍人自らが「ローリン」のダンスを披露するシーンも。観客席の他の軍人たちもサビ部分を大合唱。はっきり言って一般的には全く無名の曲がいかに「軍人の間での超有名曲なのか」が分かる

本人たちにすれば当然「地上波音楽番組で活躍したい」という思いもあっただろう。しかし結果としては「軍人」にターゲットを絞って、局地的に認知度を高めたセグメントマーケティングの勝ち。合わせて「どんなかたちでも映像は残しておくべし」ということも思い知らされる。どこからブレイクするかは分からないのだ。厳密に言えば、上記で紹介したブレイクのきっかけを生んだ「コメント集動画」は著作権法には引っかかりそうでもあるが…。

何よりも「知名度よりも、自分たちに会いに来てくれた人こそ最高」というシンプルな真理を感じさせてくれるものでもある。

本人たちはブレイクについて「周囲が祝ってくれて嬉しい」「父と先日”BTSすごいな~”、”そうね”という話をしたばかり。まさか自分たちがブレイクするとは…夢のようです」と話す。

ちなみに今後については

「引退も考えたのですが、続けていてよかったです。新しいアルバム発表の予定はありません。ただ、私達の事務所は社長がプロデューサーも兼ねているので、すでにレコーディングした楽曲のストックは多いんです。社長が決めてくださると思います」

という。

動画を見てみるとサビ部分の「ローリンローリン」がよいフックとなってるいし、同じくサビ部分のダンスもインパクト十分。「K-POP、やるな」とも思わせる楽曲だ。

奇跡の復活劇により有名音楽番組「Mnet」にも出演。晴れてバックダンサーやきらびやかなステージ演出とともに「ローリン」を披露した

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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