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藤井聡太叡王(21)叡王戦五番勝負第1局で伊藤匠七段(21)に競り勝つ 現在タイトル戦15連勝中

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月7日。愛知県名古屋市・か茂免において、第9期叡王戦五番勝負第1局▲藤井聡太叡王(21歳)-△伊藤匠七段(21歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は17時58分に終局。結果は107手で藤井叡王の勝ちとなりました。

 藤井叡王は叡王戦4連覇に向け、幸先のよいスタートを切りました。

藤井「新年度の初対局をこうして地元で迎えられるというのは、うれしく思っていました。ここからはけっこう対局が続くことになるので、体調に気をつけて、がんばっていきたいと思います。終盤はかなり難しいところが多くて。その点では充実感のある将棋が指せたのかなと思っています」

伊藤「けっこう中盤が難しい将棋なのかなとは感じていました。(中終盤)形勢がよくなっていてもおかしくないとは思った局面もあったんですけど。ただはっきりとはわからないまま指していました。名古屋で対局させていただくことは、非常にうれしいことだと感じていました」

 第2局は4月20日、石川県加賀市「アパホテル&リゾート 佳水郷」でおこなわれます。

 7年連続で勝率8割以上という、これまでの将棋界の常識では考えられないほどのハイアベレージを残し続けている藤井叡王。今年度もまずは1勝をあげました。

 藤井叡王は2023年9月の王座戦五番勝負第2局以来、タイトル戦番勝負ではずっと負けなしです。

 継続中の連勝数は15に伸びました。

 このあと、名人戦第1局、叡王戦第2局でも勝てば、歴代1位の記録である大山康晴15世名人の17連勝にも並びます。

 藤井叡王と伊藤七段の通算対戦成績は、藤井叡王の11勝0敗1持将棋となりました。

やはり現代最新形に

 4月1日、将棋大賞の各賞受賞者が選考されました。最優秀棋士賞はもちろん、藤井叡王(八冠)。そして優秀棋士賞は、伊藤七段が選ばれています。その両者が、新年度から早くもぶつかることになりました。

 五番勝負の開幕に先立ち、まずは先後を決める振り駒がおこなわれます。

 振り駒の結果、表の「歩」が2枚、裏の「と」が1枚、重なった駒が2枚(無効)で、藤井叡王の先手と決まりました。

 戦型は現代最新の角換わり腰掛銀に。藤井叡王は矢倉囲いに玉を収める一方、伊藤七段は右玉に構えます。

 両者のこれまでの対戦では、あっという間に駒がぶつかって戦いが起こり、午前中に終盤まで進むこともありました。しかし本局は互いに駒を繰り替えながら間合いをはかりあう、難しい序盤が続きました。

 60手目、伊藤七段は5筋の歩を突き越します。これが新構想だったようです。

伊藤「あの局面になれば△5五歩と突こうかなとは思っていました」

 歩がぶつかり、前哨戦が始まったところで昼食休憩に入りました。両対局者は昼食に「ぽんきし」を選んでいます。

藤井「たぶん、こちらでの対局のとき、わりと毎回いただいているんですけど(笑)。なかなかやっぱり他では食べられないものですし。いつも楽しみにしています」

密度濃く難解な中終盤

 休憩が終わって再開後、69手目、伊藤七段は5筋に銀を上がります。対して藤井叡王は1時間11分の長考で2筋に歩を打ちました。

 伊藤七段は藤井叡王の玉頭から継ぎ歩で反撃をしていきました。藤井叡王は桂を取って駒得を果たしたものの。

藤井「2筋(の歩)を交換したというのは▲2九飛車と引いて、▲2二歩を狙うのは予定ではあったんですけど。▲2二歩を手抜かれて、△8六歩からの継ぎ歩の攻めが、ちょっと思っていたよりも厳しいかなというふうに、昼食休憩のあとに読んでいて感じたので。ちょっと思わしくない展開にしてしまったんじゃないかなと思ってました。(70手目)△5四銀で▲2二歩と打つ手はちょっと、苦しい気がしたんですけど。代わる手も主張がなくなってしまうような気がしたので。仕掛けの前後の手に工夫の余地があったかなという気がしています」

 濃密な中盤を経て、局面はバランスが取れたまま推移。そのままきわどい終盤戦を迎えました。伊藤七段が藤井陣に角を打ちこんだのに対して、藤井叡王は93手目、角取りに飛車を引きます。

 持ち時間4時間(チェスクロック形式)のうち、残りは藤井25分、伊藤20分。結果的には、ここが大きな勝負どころだったようです。

藤井叡王、競り勝ち1勝目

 94手目。伊藤七段は9分を使って銀を2枚取る順を選びました。対して藤井叡王が角を取りながら6筋に飛車を回る順が味がよい。形勢はわずかに藤井よしとなりました。

 伊藤七段はここで代わりに、藤井玉の上部に歩を成り捨て、角を切っていけば、互角以上に戦えていたようです。

藤井「▲2九飛車と引いたところは、そうですね。本譜(△5五歩と銀を取る手)と、△8七歩成のような手もあるかと思いましたし」

伊藤「わるくしたと思ったのは、本当に最後の最後なんですけど。終盤、なにかチャンスがありそうな気もしていたんですけど。やはり▲2九飛車と引かれたところで、△8七歩成の方を選ぶべきだったかなと、いまは思っています。(△6九角に)▲2九飛車と引かれて。本譜と△8七歩成との二択で。本譜、▲7七桂と跳ねられた図が、思いのほか先手玉はしぶといというのが、ちょっと誤算ではありました」

 6筋に回った藤井叡王の飛車は中段に飛び出し、気持ちよくはたらいていきます。

藤井「ちょっとずっと、見通しは立っていなかったんですけど。一応最後(103手目)▲6六飛車で飛車がさばける形になって。少し抜け出すことができたかなと思いました。そこで自玉を安全な形にすることができたかなと思いました」

 藤井叡王は飛車を切り捨て、いつもながらに、きれいな収束に持ち込みます。

 107手目、藤井叡王は銀を打って伊藤玉に王手をかけました。これで一手勝ち。伊藤七段が投了し、1勝目をあげました。

 終局後、大盤解説会場に移動した両者は、次のようにあいさつをしていました。

藤井「本日は大盤解説会に、本当に多くの方にお越しをいただきまして、ありがとうございます。本局は途中からかなり激しい攻め合いになったんですけど。こちらの玉がかなり薄い形が続いて。やはり少し、苦しいのかなと思いながら指しているところが多かったかなと思います。ただ非常にやっぱり複雑な局面が続いていて。本当に難解な将棋だったかなというふうにも思っています。またこれからも、名人戦も含めて対局が続いていくので。そちらでもしっかり集中して指せるように、またがんばっていきたいと思います。本日はありがとうございました」

伊藤「本日は大盤解説会に多くの方にお越しいただきましてありがとうございます。本局、角換わりから激しい展開になって。途中は手応えのある局面もあったんですけれども。ただなかなか、あと一押しというところが難しくて。そのあたりの形勢判断をもう少し改める必要があったのかと思います。本局、中盤の、チャンスのありそうな将棋だったので、悔いも残りますけれども、また気持ちを切り替えて、第2局に臨みたいと思います。本日はありがとうございました」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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