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ラグビーを支えた「人間関係」! スーパーラグビー4強激突を前にサンウルブズの今季を総括する

永田洋光スポーツライター
マーク・ハメットは1シーズンだけでHCを退任したが、チームに確かな土台を築いた(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

相互理解と人間関係がサンウルブズの土台だった

スーパーラグビーのセミファイナルが今週末に行なわれるというのに、最下位に終わったチームのことを振り返るのは間が抜けているが、事態が常に流動的に動くシーズン中は、物事を噛み締めて考えることができない。だから、あえてハメットのコメントを紹介しよう。 

Life is always relationships.

「人生はさまざまな関係性の上に成り立っている」――とでも訳せばいいのか。

この「関係性」という言葉に、今のラグビーを読み解くカギが潜んでいるように思うからだ。

これは、サンウルブズHCマーク・ハメットが、18日の総括記者会見後の囲みで語った言葉だ。

ハメットが、スコットランドとのテストマッチに敗れたあとで「日本のプレーに対するリスペクトが感じられない」と、強硬にレフェリーを批判したことは以前本欄で書いたが、私は常々、彼がいつ、どこで、どういうきっかけから、それまで見たこともなかった日本人選手にリスペクトの念を抱くようになったのか知りたいと思っていた。

だから、会見のあとの囲みで「日本人選手をリスペクトする何か具体的なきっかけがあったのか?」と訊いてみた。

冒頭の一文は、その答えだ。

ハメットはこう続けた。

「私はラグビーに対しても、サンウルブズに対しても、非常にシリアスに取り組んだ。しかし、それは人間として常に厳格だったという意味ではない。ラグビーを離れれば、私はいつもシリアスだったわけではないし、そういう私の個性やキャラクターを選手たちが理解してくれたとき、初めて私も選手たちのことを理解し始めた。

たとえば、日本人プレーヤーという言葉が使われるが、選手たちをひとくくりにすることはできない。チームのなかには、コンタクト能力を強化しなければならない選手がいる一方で、木津武士や立川理道のような、ワールドクラスで通用する強さを持った選手がいる。

つまり、お互いに相手のことを理解し、関係性が築き上げられて初めて、選手たちは能力を開花させることができたのだ」

同じようなことを、田邉淳アシスタントコーチも語っている(以下、要旨)。

サンウルブズが最初の南アフリカ遠征で、3週間にわたってお米のご飯も食べられず、疲労の極みにいたときに、日本人選手たちは、それでも初めて触れた彼の地の風物を面白がり、写真を撮ってはラインに上げてお互いにやりとりをした。

それに外国人選手たちが「なになに、なにやってんの?」と興味を持ち、日本人選手たちがラインというアプリを彼らに教え、彼らもまた「ほお、これは面白い」と輪に加わった。

攻守に選手間のコミュニケーションが生まれ、チームに初めて連携する意識が根づいたのは、実はそれからのことだった。

「同じ釜の飯」こそ食わなかった(というか食えなかった)が、異国で同じ体験を積んだことが、言葉の壁を破り、表層的ではないコミュニケーションを生むきっかけになったのである。

この遠征は、最終戦でチーターズに17―92と大敗を喫して苦い結末を迎えることになったが、折しも熊本が震災に見舞われたことを知って、さらに選手の結束が固まった。大敗直後にインタビューを受けた堀江翔太キャプテンが、インタビュアーを遮るように自ら進んで熊本での被災者にメッセージを送ったことで、「やらねば」という気持ちに火がついた。

そして、遠征から帰国してすぐに迎えたジャガーズ戦で、36―28と初勝利を挙げたのである。

まさに関係性の勝利だった。

ジャガーズ戦の勝利はコミュニケーションのたまもの?

プレー面でも、チーターズ戦とジャガーズ戦では、大きく変わった部分があった。

チーターズ戦では、サンウルブズの外国人選手が相手防御に強引に挑みかかり、彼らにタックルに入らせてからボールを放すオフロードを多用した。ところが、サポートについた日本人選手は、相手が外国人選手を見た瞬間にパスをもらいたかった(つまり、もう少し早い段階でボールを欲しかった)。そんな状況でオフロードを使われたから、タイミングがずれ、イメージした通りのスピードでパスを受けられなかった。それが多発したハンドリングエラーに結びついた。

ジャガーズ戦では、無理なオフロードが影を潜めた。

試合後、わずか1週間でどんな修正を施したのか知りたくて、立川に話を訊いた。

しかし、立川の答えはさして劇的ではなかった。

「指示は、フィフティ―フィフティになるようなオフロードはやめて、確実につなげるところでだけ使うようにしよう、ということぐらいでしたね」

これがエディー・ジョーンズなら、「オフロード禁止!」と言い渡していただろう。

ある意味、そういう厳格さに疲れた選手たちには、ハメット流の「まあ、リスキーなところでは使わないように」という“緩さ”が新鮮だったのではないか。

だからこそ、選手たちは自分たちでコミュニケーションをとってどうすべきか考え、道を切り開いた。

この試合では、後半17分のデレック・カーペンター、40分の立川と、セットスクラムからラインの動きで相手に指一本触れさせなかったトライが2本あったが、あうんの呼吸で奪ったそれらのトライは結局、南ア遠征を通じて生まれた“関係性”に源を発している。

ラグビーは、つくづく人間がやるスポーツなのである。

サンウルブズ強化をジャパンにつなげるために必要なこと

さて、追憶に浸っていないで現実に戻ろう。

つまるところ、今季のサンウルブズは、前年のジャパンでエディーにしごき倒された選手たちが、毎週厳しい試合が続くことに新鮮なモチベーションを保ち続けられたからこそ、それなりの結果を残せた。その反面、持っている力を伸ばすことはできたものの、新たに武器となるものを身につけるまでには至らなかった。

簡単に言えば、今のままでは、頑張りはしたものの善戦どまりという昔のジャパンみたいな位置に戻ってしまうことになりかねない状態に、サンウルブズもジャパンもいる。

19年W杯から逆算すれば、新しいことに取り組む“実験”ができるのは来年、つまり17年だけだ。そのためにも来季は、サンウルブズとジャパンがメンバーを極力共有しなければならない。その上で18年には前年の結果を検証し、使えるプレーと使えないプレーを仕分けして、使えるプレーを“磨く”年になる。そうして19年には、本番を見据えての“仕上げ”にかかる――そうしなければ、武器は結局、威力を発揮できないまま終わるだろう。

3年という時間は、本当に限りなく短いのだ。

そんな綱渡りのようなタイムスケジュールで、彼らに新しい武器を教え込むのが、今週末にセミファイナルを戦うハイランダーズのジェイミー・ジョセフHCだ。サンウルブズが2019年を見据えたジャパン強化策の一環として位置づけられている以上、ジョセフが来季サンウルブズを率いるか否かはともかく、日本代表HCとして彼には当然その役割が求められる。

果たしてジョセフは、この短い時間で選手たちと確固たる関係性を築き上げ、ジャパンに強力な武器を与えることができるのだろうか。

今週末は、そんな問題意識を持ってハイランダーズをじっくり見ようと思う。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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