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中国人を感激させた、鈴木直道・北海道知事が発した2つのフレーズ

中島恵ジャーナリスト
中国のSNSで多数出回っている鈴木知事の顔写真(中国のSNSより引用)

「日本人では珍しく、強いリーダーシップと決断力、実行力がある若き知事!」

「“顔値高”(インスタ映え)する日本の庶民派知事」

「カッコいい知事がマスクをしたら、さらにカッコよくなった」

「一夜にして日本の一人の知事が“爆紅”(爆発的な人気者)になった!」

 2月26日、北海道の鈴木直道知事は記者会見で「全道の小中学校を7日間休校にすることを市町村に要請する」と発表。さらにその2日後には緊急事態宣言も発表した。鈴木知事の会見は日本中に驚きを持って受け止められたが、それは新型コロナウイルスの最初の発生地であり、海を越えた中国でも同様だった。

 しかも、中国では、この発表にただ「驚いた」だけではない。決断のスピード、強いリーダーシップ、政治判断に賞賛が巻き起こり、その爽やかな外見も含めて、上記のようなコメントが中国のSNS上にたくさん書き込まれたのだ。

 翌日、中国の大手ポータルサイト新浪の国際ニュースでは、鈴木知事のニュースがアクセスランキングで第1位となり、中国の検索サイトで「鈴木直道」の名前が急上昇。瞬く間に中国で最も有名な日本人のひとりとなった。

 とくに中国人の心を強く動かしたのは、鈴木知事が発した次の2つのフレーズだった。

自分が責任を負う、という強い言葉

「前例のないことなので、やりすぎではないかというご批判もあるかもしれませんが、政治判断は結果がすべてなので、結果責任は知事(私)が負います」

 中国ではこの「私が責任を負う」という部分が中国語に翻訳され、繰り返しSNSで出回った。つまり、「これこそがリーダーたる者がいうべき言葉ではないか」「非常時の今こそ、日本の政治家からこうした力強い言葉が聞きたかった(やっと聞けた)」というわけだ。

 中国のメディアなどでは「日本政府の対応では(危機感があまり感じられないように見えるので)、心もとない。このままでは日本が第2の武漢になってしまうのでは……」との報道が多く、心配されていたので、こうした責任感のある政治家の言葉が注目を集めた。

 もうひとつ、中国のニュースやSNSで頻繁に取り上げられた鈴木知事のフレーズがある。それは「隗(かい)より始めよ」だ。

 鈴木知事は休校中の子どもの居場所について、道民の協力を求めるのと同時に、道としても対策を行っていくとしてこの言葉を使ったのだが、このフレーズが中国と関係が深いとして、またSNSに引用された。

記者会見の発言に注目

「隗より始めよ」は中国の古典「史記」に由来する。戦国時代、郭隗(かく・かい)という人物が燕(えん)の昭王に賢者の求め方を問われて、賢者を招きたければ、まず私を重く用いよ、と答えたという。

 つまり「身近なことから(あるいは、いい出したものから)始めよ」という意味だ。中国では「請自隗始」「先従隗始」などという。

「隗より始めよ」は日本でときどき使われる表現だが、注目を集める記者会見の場で、鈴木知事がこの中国と縁の深いフレーズを使ったことが、ますます中国人の心にぐっと刺さった。

 昨年、日本の新元号「令和」が、中国にも関係深いことや(令和の典拠は万葉集の梅の花の序文だが、その部分は漢文)、1月下旬、中国でのマスク不足が浮上した際、日本から中国に送った支援物資に、日中に関係深い漢詩が書かれていたことなどと同様、日本人の教養の高さに、彼らが感動したことともつながっている。

 一気に脚光を浴びた鈴木知事について、中国のメディアをチェックしていくと、詳細なプロフィールまで紹介されていて驚いた。

 たとえば、鈴木知事が中国でも人気のアニメ『クレヨンしんちゃん』と同じ埼玉県春日部市出身であること、その生い立ちや苦労した道のり(知事の名前は直道だが、中国では「名前とは違って、決して真っすぐで平坦な道ではなかった」などというたとえで表現されている)のこと、東京都庁の職員などを経て大学を卒業し、史上最年少で北海道夕張市の市長になり、市政を立て直した実績があること、などだ。

 日本のメディアの報道と変わりないほど詳しい。

危機感がある政治家

 鈴木知事のマスク姿の写真を引用して「日本の閣僚はマスクをしていないようだが、鈴木知事はしっかりマスクをして、自己防衛していることにも好感が持てる。強い危機感がある」というものもあった。

 また、中国で最も有名な日本人のひとりといえば小泉純一郎元首相だが、その次男で、同じく政治家の小泉進次郎氏と同じ38歳であるところに注目するメディアも多く、「官二代(政治家の2世)の小泉氏よりも鈴木知事のほうがいい。鈴木知事こそ、将来の総理候補だ」と書いているものもあった。

 中国の政治家にも日本と同じく2世がいて、中国共産党のトップに上り詰めるのはエリート層が多い。むろん、庶民からは遠い存在だ。

 そうしたこともあり、苦労人で、一介の公務員から努力して知事という地位に就き、日本人には珍しく、自分の言葉で率直な発言をする鈴木知事のことが、彼らの目から見ると新鮮で、頼もしく映ったのではないだろうか。

 

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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