米英仏が用意するシリア武力制裁の戦力
シリア内戦で化学兵器を使用したとされるアサド政権に武力制裁を行う準備をしていたアメリカとフランスに、イギリスも行動に加わる意向が示されました。4月12日にイギリスのメイ首相は化学兵器の使用阻止のために必要な行動を取ると宣言しています。米英仏が現在用意している戦力は以下の通りです。
地中海東部で行動する艦艇
- 米イージス艦「ドナルド・クック」※トマホーク巡航ミサイル
- 米イージス艦「ウィンストン・S・チャーチル」※トマホーク巡航ミサイル
- 仏フリゲート「アキテーヌ」※MdCN巡航ミサイル
- 英駆逐艦「ダンカン」※巡航ミサイル搭載無し
スペインのロタ港に常駐するアメリカ海軍第6艦隊イージス艦4隻「ドナルド・クック」「ポーター」「カーニー」「ロス」のうちシリア攻撃可能な位置に居るのは最近までキプロス島に居た「ドナルド・クック」のみで、他の3隻は大西洋側に居るままで地中海のシリア沖方面へ向かう動きを見せていません。イージス艦「ウィンストン・S・チャーチル」は4月5日に米東海岸ノーフォーク港を出港し中東ペルシャ湾に向かう途中でちょうど現在、地中海に入っています。ただし任務が変更されない場合はそのまま素通りすることになります。
仏フリゲート「アキテーヌ」は自国製のMdCN巡航ミサイルを使用可能です。まだ実戦投入されたことが無い新兵器で、もし使われた場合はシリア武力制裁が初使用となります。
英駆逐艦「ダンカン」は第2常設NATO海洋グループ(SNMG2)の旗艦としてシリア情勢とは無関係に地中海に居ました。ただしダンカンは巡航ミサイルを搭載しておらず、米仏艦の護衛を担当することになるでしょう。
空母の動向
- 米空母「ハリー・S・トルーマン」※現地到着は4月下旬
- 仏空母「シャルル・ド・ゴール」※長期修理中で出撃不可
- 英空母「クイーン・エリザベス」※搭載機の問題で実戦不可
アメリカ海軍の空母「ハリー・S・トルーマン」は随伴のイージス艦を連れて4月11日に米東海岸ノーフォーク港を出港、地中海東部への到達は早くて4月下旬になると見られています。ただし空母トルーマンは中東ペルシャ湾への定期展開任務として出ているので、任務が変更されない場合はそのまま素通りすることになります。
フランス海軍唯一の空母「シャルル・ド・ゴール」は長期修理中で動かせません。
イギリス海軍の新鋭空母「クイーン・エリザベス」は就役したばかりですが、搭載予定のF-35B戦闘機の調達と訓練がまだ進んでおらず、実戦に投入できる状態ではありません。
潜水艦の動向
- 米海軍・・・巡航ミサイル原潜と攻撃原潜(トマホーク巡航ミサイル)
- 仏海軍・・・巡航ミサイルを運用できる原潜無し
- 英海軍・・・攻撃原潜(トマホーク巡航ミサイルを使用可能)
海中に居る潜水艦の動向は掴み難く詳細は分かりません。最大戦力である巡航ミサイル原潜については、3月末にスペイン沖に居たアメリカ海軍の巡航ミサイル原潜「ジョージア」は4月12日にアメリカ本土に帰還しており、東海岸配備2隻のもう片方1隻である巡航ミサイル原潜「フロリダ」の動向は全く分かりません。
なお新型攻撃原潜の就役が遅れているフランス海軍は自国製のMdCN巡航ミサイルを運用できる潜水艦がまだ存在せず、アメリカとイギリスの潜水艦が搭載するトマホーク巡航ミサイルに頼ることになります。
航空基地と戦闘機
- 英空軍キプロス島アクロティリ航空基地
- フランス本土から空中給油機を使った長距離作戦
- ヨルダン、プリンス・ハッサン航空基地など
- イラク、アル・アサド航空基地など
- トルコ、インジルリク航空基地など
イギリスの参加によりシリア沖にあるキプロス島のアクロティリ基地を使えることになりました。またフランス本土から空中給油機を用いた長距離作戦も可能です。ヨルダン、イラク、トルコの基地は以前からシリアへの対IS空爆作戦で米英仏を含む有志連合が使用していましたが、アサド政権への空爆で使用許可が下りるかどうかはまだ決まっていません。米英仏とトルコはシリア内戦についてクルド武装組織の扱いで対立を深めていますが、トルコ政府はアサド政権による化学兵器の使用は非難しています。
ただ、シリアに駐留するロシア軍との直接衝突をできるだけ避けるために空中発射巡航ミサイルなどの長距離スタンドオフ兵器のみで攻撃を行う場合は接近しなくてよいため、近隣の基地を数多く確保する必要性は薄れるので、米英仏は余り拘らないかもしれません。現時点で戦闘機の追加配備など攻撃に関連した動きは、確定した情報は伝えられていません。
アメリカ軍の大型爆撃機
英仏は大型爆撃機を保有していませんがアメリカが保有しており、中東ではカタールのアル・ウデイド航空基地にアメリカ空軍のB-1B爆撃機が前進配備されています。またB-1B爆撃機、B-2爆撃機、B-52爆撃機の全てがアメリカ本土から直接出撃して攻撃することも可能です。現時点では攻撃準備の兆候は報告されていません。どこからでも長距離作戦が可能なので、兆候を掴む事自体が前線の戦闘機の基地よりも難しいと言えます。