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アマゾン、AIスピーカーで競合の追随許さぬ構え

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 いち早くAI(人工知能)スピーカーを投入し、この市場で圧倒的な首位の座を維持している米アマゾン・ドットコム。

 だが、同社はその地位に安住することなく、ライバルの追随をはね除けようと、さらなる攻勢を掛けている。

自ら価格競争を仕掛けるアマゾン

 同社は、年末商戦で、AIスピーカーシリーズ「Echo」を大幅値下げして販売した。

 例えば、標準モデルのEchoは、99.99ドルから79.99ドルに、小型モデルの「Echo Dot」は、49.99ドルから29.99ドルに、そして、大型モデルの「Echo Plus」は、149.99ドルから119.99ドルに、といった具合。

 同社がEchoの初代モデルを米国の一部の顧客に向けて発売したのは、2014年11月。

 その翌年、Echoの一般向け販売が始まったが、それ以降、同社は度重なる値下げを実施。今では標準モデルの価格が、当初の半値以下になった。

 こうしてアマゾンは、先行する立場でありながら、自ら価格競争を仕掛け、ライバルのビジネスを難しいものにしていると、海外メディアは伝えている(米ウォールストリート・ジャーナル)。

アマゾン、累計2000万台を販売

 ウォールストリート・ジャーナルが引用した、米国の市場調査会社CIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)の推計によると、昨年(2017年)9月時点で、アマゾンは、累計2000万台のEchoを販売した。

 これに対し、アマゾンから2年遅れて市場参入した米グーグルの「Google Home」は700万台。

 アマゾンはこの市場で75%のシェアを持つ圧倒的首位。しかし、それでも同社は、ライバルをさらに引き離そうと、さまざまな施策を講じている。

Echoシリーズは全6モデルを用意

 その1つは、製品ラインアップの拡充だ。

 現在、アマゾンのEchoシリーズには、日本でも販売が始まった「Echo」「Echo Dot」「Echo Plus」の3モデルに加え、丸形2.5インチディスプレーを備える「Echo Spot」、7インチディスプレーを備え、ビデオ通話も可能な「Echo Show」、内蔵カメラで利用者の全身を撮影できるファッション用途の「Echo Look」がある。

アマゾン、Echoだけじゃない、日本に上陸したのはApple対抗音楽サービス(小久保重信) -Yahoo!ニュース個人

 そしてもう1つは、前述した値下げ戦略だ。

 これによりアマゾンはAIスピーカー、あるいはスマートスピーカーとも呼ばれる、この新たな家電製品の市場を先導している。

 例えば、グーグルは、期間限定ではあるがGoogle Homeを40%近く値下げして、79ドルで販売した。グーグルは、Echo Dot対抗の「Google Home Mini」も市場投入するなど、アマゾンの製品戦略をまねている。

 アマゾンとグーグルのこうした動きにより、AIスピーカーの平均販売価格は65〜75ドルと、わずか1年で半値以下に下がった。

 この市場では、米アップルが今年、349ドルのAIスピーカー「HomePod」を発売する予定だが、アマゾンの戦略は、こうした高級モデルのビジネスを難しいものにしていると、ウォールストリート・ジャーナルの記事は指摘している。

アマゾンとグーグルで世界市場の92%を占める

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 米国の市場調査会社ストラテジーアナリティクスも同様の指摘をしている。

 同社によると、この市場には、韓国サムスン電子傘下のオーディオ機器ブランド、ハーマン・カードンや、ソニー、米ソノスも新規参入し、今後競争がますます激化すると予想される。

 しかし、それでも、攻撃的な低価格戦略のもと市場投入されたEcho DotやGoogle Home Miniによって、アマゾンとグーグルの地位は当面、揺るぎないだろうと、ストラテジーアナリティクスのアナリストは述べている。

 ストラテジーアナリティクスによると、昨年7〜9月期におけるアマゾンの出荷台数は500万台で、その世界市場シェアは66.9%。

 一方、グーグルは190万台を出荷し、シェアは25.3%。

 アマゾンとグーグルを合わせた、世界AIスピーカー市場におけるシェアはこの期間、92%になっており、今のところ市場は、両社の複占(duopoly)状態が続いている。

(このコラムはJBpress2017年12月20日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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