暗殺未遂事件でトランプは大統領選勝利に一歩ちかづくか――“不屈のリーダー”イメージの拡散
- 米大統領選挙に立候補するトランプ候補が銃撃され、負傷したものの生命には別状なく、選挙活動は今後も続くとみられる。
- 犯人はその場で射殺されたため、背後関係などには不明点も多い。
- 1981年のレーガン大統領暗殺未遂事件との類似性から、この事件は結果的にトランプの選挙活動を有利にすると指摘される。
中国やパレスチナも“テロ非難”
米大統領選挙のドナルド・トランプ候補が7月14日、ペンシルベニア州で選挙活動中に銃撃され、右耳周辺を負傷した。
銃撃犯トマス・マシュー・クルックス容疑者はその場でシークレット・サービスに射殺された。そのため、背後関係や動機については不明なところが多い。
報道によると、クルックス容疑者は共和党員といわれるが、民主党系団体に献金した経歴も指摘されている。
こうした事件では「政府による暗殺計画」説を含め、さまざまな陰謀論が出回りやすいため、正確なことは今後の捜査を待つしかない。
確かなのは、ただでさえ注目されやすい米大統領選挙キャンペーンの最中に発生した暗殺未遂が世界的に大きな反響を呼んだことだ。
アメリカやトランプと関係がいいとはいえない中国政府、パレスチナ自治政府なども連帯やテロ非難を表明したことは、そのインパクトの大きさを物語る。これらは事件への関わりを否定する必要に迫られた外交アピールとみていいだろう。
レーガンの故事
この事件は今年11月に予定される大統領選挙にも大きな影響があるとみられる。
暗殺未遂事件には、少なくとも結果的に、トランプを後押しする効果が見込まれるからだ。
シンガポールのファンド経営者でエコノミストのRong Ren Gohhは、大統領選挙がトランプの一方的な大勝利になる可能性を指摘する。
その根拠として挙げられているのは、1981年のロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件だ。
1980年大統領選挙で勝利したレーガンは、就任からわずか3ヶ月後、首都ワシントンD.C.で銃撃を受けた。
この事件後、レーガン支持は急伸したのだ。
ギャロップなどの調査によると、レーガンの支持率は同年2月まで50%前後だったが、レーガンが退院した直後の4月半ばには67%にまで至った。
“凶弾から生還した不屈のリーダー”としての認知がレーガン支持を後押ししたといえる。
それに似た兆候は現在のアメリカですでに表面化している。
トランプ暗殺未遂事件の後、全米各地でトランプ支持者の勢いはむしろ増している。
アメリカのジャーナリスト、スティーブ・クレメンスはもともとバイデン支持が低下していたところにこの事件があったことで、バイデン支持者の選挙活動は難しいものになると予想している。
“不屈のリーダー”の強さ
もちろん、この事件がトランプの自作自演だという根拠はないし、それを論証しようというのでもない。
ここで強調しているのはその背後関係ではなく、あくまで結果として、この事件がトランプに選挙活動での有力な材料をもたらしたということだ。
これまでもトランプは「自分こそ抑圧されてきた」と、自身に対する裁判などが不当と主張してきた。それは政府や公権力に不満・不信感を抱く人々の琴線に触れるものだ。
実際、ヒスパニックや黒人など、警察などの“構造的差別”に直面しやすいグループのトランプ支持はすでに増加している。こうしたグループにはこれまで反トランプが鮮明だった。
とすると、今後トランプが選挙キャンペーンで、この事件を最大限に活用することは十分予想される。
サンフランシスコ大学のステファン・ズーンズ教授の言い方を借りれば、「被害者であることは選挙において大きな強みになる」。
その意味でトランプ暗殺未遂事件は今回の大統領選挙の大きな節目になる公算が高いのである。